ゆるゆると瞳を開けるとそこは不思議な世界でした
・・・とまではいかないが悲鳴を上げそうになったのは確かだ
「・・・なんだ。もう起きたのか」
「は、はい」
・・・そうか
格好良い人は瞳を閉じてても寝ぼけ眼でも格好良いのか・・・
妙なところで納得しただった
い*ち*と*せ-温風至-
愛用の目覚まし時計も柔らかな奈々の声も聞こえない。そんな朝は初めてだった
(・・・そうでした。昨日はパパに会いに・・・ここはリボーン君のお部屋で・・・)
ゆっくりと昨日の出来事を反芻しながらは何も浮かばない先のことを思った
父親と会う。その願いが叶った今、何をすれば良いんだろうか
「今日はこれからどうする?」
まるで心を読んだような言葉には思わず動きを止めた
「ツナは一日仕事だ。俺しか構ってやれねえが充分だろ?」
「リボーン君はお仕事じゃないんですか?」
の頭には違う言葉が浮かんだが、どうしても口にできなかった
「良いんだよ」
・・・良いんだろうか
しっぽりと黙りこんだにリボーンはため息をついた
「、よく聞け。俺は2週間日本にいる予定だった」
「はい」
「ツナは2週間後にお前と会うつもりだったから2週間は仕事だ。」
「・・・わたしのせいでリボーン君やツナ君は予定が可笑しくなったんですね」
自分が早く父親に会いたいとねだったばかりに
自分はここに来ない方が良かったのだ。気持ちがどんどん落ち込んでいく
「」
俯くとぐいっと頬に手を添えられ上を向かされる
「お前は勘違いしてるな」
「か、んちがい・・・?」
「我が儘と意志を貫くは違うんだ」
「・・・?」
「父親に逢いたいっていうお前の願いを叶えようと前倒しさせたのは俺の一存だ」
「・・・はい」
「お前はツナに会うべきだったんだ。俺もツナもそのことを後悔しちゃいねえ。
ただ・・・少し、すれ違っただけだろ?」
「・・・パパも?」
「ん?」
「・・・パパもあ、いた・・・って・・・」
くしゃり、と顔を歪ませたにリボーンはゆっくりと近づいた
まるで、キスをするような距離である
「俺が言えるのはここまでだ」
「は、い・・・」
「」
「・・・はい」
「まだ早いだろ」
「・・・」
「ツナと何も話してないのに諦めるのか?」
ああ。本当にお見通しだったんだ
「リボーン君・・・」
泣いちゃいけない。わたしはまだ泣いて良いほど頑張ってない
「わたし、もう少しここにいても良いですか?」
「当然だろ」
この言葉が未来を色付いたものにしてくれた
「・・・やっぱりリボーン君は優しいです」
「ベッドの上ではな」
「?」
昨日も言われた言葉に対して照れ隠しのジョークだったが通じなければ意味はない
キョトンと首を傾げたにリボーンはあえて説明はしなかった
「何がしたい?」
2度目の問いにはふにゃりと笑った
「リボーン君が一緒なら何しても楽しいですね」
・・・本気でチューしてやろうかコイツ
思わずそんなことを考えてしまったリボーンである
結局、とりあえず着替えだ、ということでを部屋まで連れて行き身支度の間にリボーンが朝食を運んできた
「・・・食事はパ・・・みんなで食べないんですか?」
「ツナはもう食べて仕事してるからな」
目に見えてしょんぼりとした
「俺と2人じゃ不満か」
冗談半分本気半分で聞くとは慌てて首を振った
の言いたいことは分かっているがついつい虐めてしまうのが自分の性だ
・・・だけどこいつには笑顔の方が似合うんだよな
「冗談だ」
その一言でほっと笑顔になるにつられてフッと笑ってしまった
自分にはコーヒーをにはカフェオレを注いでやる
「美味しいです」
「そうか」
「・・・リボーン君」
「なんだ」
「お願いがあります」
***
「・・・書類がいちまーい、書類がにまーい・・・」
執務室は陰気な空気が溢れていた
同じ部屋にいた執事頭をしているトッティは口にはしないがいい加減にしてくれ。と思っていた
何故ボンゴレ・デーチモがこんなにも落ちているのかわからないが時折口にする「・・・・・・」という日本女性の名前が大変気にかかる
だが彼に口出し出来るのは守護者か、彼の家庭教師くらいだ
そういう訳でトッティはとても居心地が悪いが口にも出来ず黙々と仕事をこなしていた
ノック音
「デーチモ」
「書類が85まーい・・・」
駄目だこの人
ため息をぐっと堪えてトッティは扉に近付いた
「・・・」
扉の向こうは誰もいなかった
ストレスからくる幻聴だったのか
そんなに自分は追い詰められていたのか
「・・・あ、あの」
小さな声はずっと低いところから聞こえた
「・・・」
思わず目元を揉んでしまった
そこには若い・・・いや、どうみても幼い子供が自分を見上げていた
この少女。見覚えがある
いや、正確にはボンゴレ本部にいる少女となれば一人しか浮かばない
昨日、デーチモの家庭教師が連れ込んだ少女だ
ああ、さすがはプレイボーイ。老若男女問わず虜にしてしまうのか・・・
いっそ溜息をつきたいがそこは押し殺した
目の前・・・いや、正確には目下の少女は眉をへにょりと下げた
「あ、あの・・・」
トッティは瞬時に頭を切り替えた
「ジャポーネのお嬢さん。こちらにリボーン様はおりません」
丁寧に対応すると今度こそ扉を閉じようとする
「ま、ま待って下さい!あのっ、ツナ君に・・・」
「!?」
ピタッとドアノブにかけた手が止まった
、どこかで聞いた名前ではないか
そして名前を呼んだのはデーチモ
「あ、あの入っても良いですか?」
「ど、どうぞ!」
返事をしたのは自分ではない。デーチモである
「お邪魔します」
ゆっくりとやけに慎重な足取りで入ってきた少女。よくよく見ると手に何か持っている
「ツナ君。おはようございます」
「う、うん!おおおおはよう!」
おおおおはよう。そんな日本語あっただろうか。思わず首を傾げる
しかし少女には通じたらしく相変わらず緊張した面持ちだが少し笑った
「お仕事、大変って聞きました。邪魔してごめんなさい」
「そんなことないよっ!」
そんなことあります。デーチモ仕事して下さい
「あ、の・・・ツナ君に・・・これ・・・」
少女が差し出したのは手に持ってた物
湯気を立てたティーカップだった
「リボーン君に、教えて貰って・・・えっと・・・コーヒー、です」
緊張してるのか、力不足なのかティーカップを差し出す手が震えている
カタカタという音が聞こえた
「・・・俺のために・・・?」
「はい。リボーン君が、ツナ君コーヒー好きって言ってたので」
どうぞ、と差し出すカップをそれこそ震える手で受け取ったツナは暫く言葉を発さず固まっていた
感動しているのだ
少女の方は何か言葉を待っていたがやがてそっと一歩下がった
「・・・お仕事、頑張って下さい」
「!う、うん!ありがとうっ」
「・・・あ、のツナ君」
「な、なに!?」
「・・・明日もコーヒー持って来て良いですか?」
「!!」
・・・一体この二人はどういう関係なのか
まさかの泥沼三角関係か
「もももももちろん!!」
そうか。泥沼の三角関係だったのか
ということはこの少女。無垢な瞳をしているが実は大変な悪女なのではないか
デーチモの言葉にホッとした笑顔を見せた少女をそう分析した
「お仕事頑張って下さい」
「う、うんっ!ありがとう!!」
デーチモに背を向けてパタパタと扉へ向かってくる
それはつまり扉を抑えている自分に近付いてきてるということで
バッチリ瞳が合った
「あ、あの・・・コーヒー一人分しか準備してないんです。ごめんなさい」
「!い、いいえ。どうぞ私のことはお構いなく」
巻き込まないで欲しい。その言葉は飲み込んだ
「お邪魔しました」
ぺこり、と丁寧にお辞儀をして退出した少女につられて思わずお辞儀を返した
・・・
「・・・本当に良い子に育って・・・!」
涙目でカップを見詰めるデーチモにトッティは騙されてるんじゃないでしょうかとはとても言えなかった
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