今日ほどボンゴレデーチモとリボーン様をお怨み申し上げたことはありません
「・・・あのデーチモ。
先程のジャポーネの少女とはどういったお知り合いなのでしょう?」
一世一大の決心でトッティが尋ねるとツナは照れ笑いを浮かべながらこう言った
「は俺の娘だよ」
ボチャン!インク瓶に落ちたペンが黒い染みを作った
「ちょ、トッティ!それ今俺がサインした・・・!」
「それどころではありませんデーチモ!!」
(雲雀さんの報告書だったのに・・・!)
い*ち*と*せ-蓮始開-
「ん・・・」
カーテン越しに柔らかな日差しが入る中はゆっくりと目を覚ました
天蓋のついたベッドで寝起きするなんて想像もしなかった。しかし、これは現実である
は小さく欠伸をするとベッドから抜け出した
枕とカバーせっせと整えて顔を洗う。
そしてクローゼットを開けた
・・・服
服服服。時々帽子
下には靴も入っている
恐ろしいことにこの全てが自分のもの、らしい
日本の自分の部屋にあった箪笥が5つ分くらいはあるこのクローゼット
洋服を見てお腹が痛くなるなんて自分だけに違いない
(・・・昨日みたいにリボーン君選んでくれないでしょうか)
昨日の服装は上から下までリボーンのコーディネートによるものだ
髪まで丁寧に結い上げてくれた彼には出来ないことなんて無いなかもしれない
コンッ
小さなノック音にピクリと反応する
(きっとリボーン君です・・・!)
大急ぎで扉に近づくとドアノブにー
・・・手を掛ける前に扉が開いた
「・・・」
黒いスーツには違いない
だけど・・・
「お嬢様は大変早起きでいらっしゃるのですね」
「・・・あ、の」
「おはようございます。お嬢様」
「お、おはようございます・・・」
「私、こちらで執事頭を勤めておりますトッティと申します。昨日はご挨拶もせず、失礼しました」
深々と頭を下げているのは昨日父の仕事部屋にいた人、その人だった
コンッ
・・・
コンッコンッ
・・・
コンッコンッコンッ
・・・
ゴッ
「・・・朝っぱらから何の用だ。トッティ」
普段よりも一オクターブ低い声のリボーンにトッティは怯んだ様子もなく頭を下げた
「あまりお早くもありませんが、おはようございます。リボーン様」
「わざわざ厭味を言うために起こしにきたのか?」
「まさか。・・・お嬢様のことです」
「がどうした」
「どうして嘘などおっしゃったんですか」
「はぁ?」
「デーチモのご令嬢と知っていればそれなりの挨拶もあったというのに・・・!」
「・・・ああ」
愛人の話か。とリボーンは半分眠った頭で考える
そういえばトッティには愛人と偽って紹介したようなそうでないような・・・
まぁいずれ嘘からでた真になるから良いんじゃないんだろうか
「ツナに聞いたのか」
「はい。先程改めてご挨拶に伺いました」
では何故自分が叩き起こされなければならないのか
挨拶が済んだのならさっさと自分の仕事に戻れば良いものを・・・
「早急に身仕度を整えて下さい。お嬢様がお待ちです」
「はあ?」
聞き返すよりも早く扉が閉められた
***
ぐるぐる目が回る
胃が痛い
「あ、あの・・・」
「はい。どうなさいましたか?様」
「じ、自分で着ますから」
「様の手を煩わすことはありません。どうぞ私達にお任せ下さい」
泣きたい
誰かに着替えを手伝って貰うなんて赤ちゃんみたいだ
にこやかな笑顔で応対されると強く言うことが出来ない
促されるままに手を引かれ髪を結われ頭のてっぺんから足の先までピカピカにされた
それも見たことのない綺麗なお姉さん達に
「様。朝食は和食と洋食どちらに致しますか?」
声をかけられるたびに心臓は変な音をたてる
「・・・ち、朝食は・・・リボーン君、と食べます・・・」
「ですがリボーン様はまだ起きていらっしゃらないかと・・・」
ふるふる、と首を横に降る
「良いんです。待ってます」
頑なにはそう言うと椅子に俯いて座ったまま動かなくなった
の世話を任されたメイド達は皆、お手上げ状態になるしかない
ガチャー・・・
「」
「リボーン君っ・・・」
今にも泣きそうな声にリボーンは眉をひそめた
「・・・どうした?」
しかし、尋ねてもは首を横に振るばかりで何も言わなかった
(・・・何か言われたのか?)
近づいて掬うように抱き上げるとは無言のまま首に腕を回してきた
・・・
「トッティ。お前達は下がれ」
部屋の隅に控えていた執事頭のトッティとメイド達に声を掛ける
「出来かねます」
「下がれ」
有無言わせないリボーンの言葉にメイド達は怯え始めトッティは渋々承諾した
「何かありましたらすぐに御連絡下さい」
ゆっくりと馬鹿丁寧なお辞儀をし、名残惜しそうにを見つめながらトッティ達は部屋を後にした
パタンと扉が閉まると2人っきりになる
「」
「・・・誰も、いませんか?」
「ああ。俺だけだ」
ようやく顔を上げたは目元を赤くしていた
「・・・こわかったです」
「誰が?」
「・・・みんな」
瞬きをすると涙が溢れてきた
そう、怖かったのだ
なんであんなに嬉しそうなの
なんであんなに張り付けた笑顔なの
「だ、だってわたし一人で着替えられます。ごはんは、自分で運びます。おみそ汁なら作れます」
支離滅裂だがは必死に言葉を紡いだ
「。悪かった」
「リボーン君が・・・謝るのは変です」
を抱いたままベッドに移動する
ちなみにこの天蓋付きベッドをチョイスしたのは雷の守護者である
「トッティに悪気はないんだ」
その言葉にはこっくりと頷く
「トッティさんは・・・こわくないです。びっくりは・・・しました、けど」
彼はただ純粋な好意だけだった
大人が畏まるという事態に驚いたのだ
「じゃあ怖かったのはメイドの方か」
「・・・はい。笑ってるのに笑ってなくて・・・」
張り付けた笑顔は剥き出しの敵意よりも怖い
は意味がわからず恐怖を感じたらしいがリボーンはメイド達の作り笑顔の理由が手にとるように分かった
「・・・メイドの方は気にするな。あれは大人の事情って奴だ。」
トッティが純粋な好意ならばメイド達は好奇心と嫉妬。それを隠すための笑顔だったに違いない
「アイツ等がお前に手をあげることはしない。視線だけだ」
一心の愛情を込めて作られたこの部屋
屋敷中で一番金がかかっているだろう
その中心にいる少女への好奇心と嫉妬だ
「分かるところだけ聞いててくれ」
不安げに揺れるの瞳をまっすぐと見つめる
「ここは住んでいた場所とは随分違うな」
あの、穏やかに時が流れていた日本の家とは
「いきなりイタリアに連れてきてここの流儀に慣れろなんて言うのは俺達の横暴だ」
が今まで見てきた世界が色褪せてしまわないように
「まずは知ってくれ。ボンゴレのことを」
ボ、ン、ゴ、レ。の口が小さく動く
「この屋敷のこと。ツナのこと。マフィアのこと。俺達のこと」
知って欲しいことは沢山ある
離れていた時間をなかったことは出来ないが埋める努力をさせてくれ
少しずつを抱きしめる腕に力が篭る
どうか、
「・・・こわい、って思ったり、びっくりしたりは、しますけど・・・」
そっとの手がリボーンの頬に触れる
「嫌いには、絶対ならないです」
至近距離で見つめ合うとの瞳はもう揺れてなかった
「知らないから、びっくりするんですね」
代わりに柔らかな笑みを浮かべている
「教えて下さいリボーン君。たくさんお話しましょう」
世界が色褪せた訳じゃない
一人じゃない
は涙に濡れた頬を拭うともう一度笑った
堪らずリボーンが赤い目元にキスをするまであと5秒
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