「なんて顔してんだ」
どんよりと負のオーラを纏って部屋に戻ってきたツナにリボーンは冷ややかな視
線を送った
「…リボーン」
何て言うかなんて分かりきってる
「が」
(やっぱりな)
「お父さんって呼んでくれなかった…」
ああ、あまりにも思った通りすぎてリボーンは笑いも出なかった
「…で?」
フラフラと机に着くツナ
「…は思ってた以上にずっとずっとずっと可愛いく育ってたけど…!」
(この親バカめ…)
「てっきりパパかお父さんって呼ばれるもんだとばっかり思ってたからすぐに返
事できなかったし…!」
(それが致命的だったな)
「…招集しなきゃ」
「は?」
「守護者みんなの招集だよ!に良いお父さんって思って貰うための作戦を…
緊急会議を開くんだ!!」
この時、リボーンは本気でボンゴレファミリーの行く末を心配した
い*ち*と*せ-半夏生-
「馬鹿野郎!何で今あいつら全員本部にいないのか分かってんのか!?前倒しし
たお前の仕事を分担してるからだろ?!
それをまた訳のわからないことで呼び戻すな!!」
「訳のわからないことって何だよ!ボンゴレの一大事だぞ!?」
「勝手に一大事にするな!!ダメツナ!!!」
…そんな声は部屋の外まで響いていた
バンッ!
荒々しく扉を開けたリボーンに部下の面々はぎょっとし、目を合わせないように
さっと道を譲った
銃声が聞こえたのは仕事疲れからくる幻聴だ。そうに違いない。…そう自分に言
い聞かせる部下一同だった
ツナが負のオーラを纏っていたなら今リボーンが纏っているのは怒のオーラであ
る
実力者が殺気を放つと洒落にならない。これもまた部下一同、心の声である
最早誰もいなくなった廊下をリボーンは一人歩いていた
(電話線を全部切っておくべきか…)
それとも携帯を水に浸けておくべきか
諦めたとはとても思えないツナの姿を思い出し、ため息をついた
「…リボーン君?」
「?」
長い長い廊下の隅っこに、ちょこんと座り込んだがいた
「よ、良かったです…!わたし自分のお部屋が分からなくなって…」
「寝ぼけてたのか?」
からかい混じりに言うとは顔を赤くして俯いた
「こ、これでも寝起きは良いんです」
可愛らしい仕草にリボーンの方は笑いが零れた
「確かにここは似たような造りだからな。お前の部屋はこっちだ」
ごく自然にの手を引き部屋へ連れて行こうとするとは指先に少し力を込
めた
振り返るとは揺れる瞳でリボーンを見ていた
「…あ、あの…」
揺れる揺れる瞳
そこに何が映っているのか、リボーンには分かる気がした
「…俺の部屋に来るか?」
の瞳は安堵に揺れた
部屋に招き入れ明かりを付けるとはほっと息をついた
そんなを抱き上げベットに乗せるとリボーンはホットミルクを用意した
「ほら」
「あ、ありがとうございますっ」
顔を綻ばせて礼を言うにさっきまでの荒んだ心が穏やかになるのを感じた
(…ツナはこの笑顔を見てないんだろうな)
どうだ悔しかろう、と自慢しても良いがまた銃撃戦を繰り広げる羽目になりそう
だ。止めておこう
「…念願の父親に会えたのに嬉しそうじゃ無いな」
「…パパは…困った顔でした…」
感受性が豊かと言えば聞こえは良いが他者の気持ちに敏感。リボーンはをそ
う分析していた
そしてそれはあながち間違いではない
「わたしはパパに会いたかったけど、パパは違ったんです。一生懸命笑おうとし
てくれたけど困った顔もしました」
揺れる揺れる瞳
「…パパにそんな顔させたかった訳じゃないんです…」
俺だってお前にそんな顔させたかった訳じゃない
そんな顔させるために日本まで迎えに行った訳じゃない
(ダメツナめ…)
「…パパって呼ぶこともできませんでした」
水面を見詰める小さな少女はどれだけの感情を押し殺し父親を名前で呼んだんだ
ろう
「…」
「はい」
(父親のこと、好きか?)
なんて、聞くのは残酷だ
「さっさとソレ飲め」
「!は、はいっ」
くしゃり、と頭を撫でリボーンは着替えに向かう
(やっぱりツナの奴、一発殴っとけば良かったな)
ネクタイを外しながらリボーンはそんな物騒なことを思った
「ごちそうさまでした」
「んじゃ寝るか」
「はい、え?」
が立ち上がろうとしたのを腕で阻む
そのまま腕を引っ張ればコロン、とベットに転がった
「あ、あのっ」
「さっさと寝ろ」
「でででもっ」
「何なら俺が子守唄でも歌ってやろうか?」
声が裏返ってるぞ、と指摘すると顔を真っ赤にして睨む
(…イジメたくなる可愛さだな)
「わたし、そんな子供じゃありません」
夜は一人で寝てます、とちょっとふて腐れたように言うのでリボーンは更にツボ
に入った
「俺の腕枕なんてレアモノだぞ。眠っとけ」
まだ何か言いたげなだったがリボーンが髪を優しく梳くと瞼が段々と落ちて
いった
「…なんでリボーン君は…私に優しくしてくれるんですか…?」
「優しい?」
自分のことをそう評価するのはくらいだ
「リボーン君は優しいです…優しくて温かい人です…」
はもうまどろみも通り越したのかリボーンの腕に擦り寄ると小さな寝息を立
てはじめた
優しいのはお前だろ
柄にもない言葉は飲み込み代わりに
「お休み。良い夢を」
額に柔らかな口づけを落とし、子供特有の甘い香りを抱きしめリボーンも眠りに
ついた
…この優しい少女が、明日はもっと笑えますように。そう願いながら
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