「よぉツナ」
「え・・・リボーン!?」
一心不乱に書類にサインをしていたツナは声をかけられ驚きの声を上げた
「何してるんだよ!日本に行ってたんじゃないのか?!」
「うるせーな。さっさと仕事片付けろ」
「・・・今日明日で終わる量じゃないのは見て分かるだろ」
もちろん知っている
来たる2週間後、との時間をめいいっぱい慈しむために連日仕朝も夜もなく
仕事に追われていることくらい
「昔のお前ならとっくに根を上げてるだろうな」
「いつの話だよ。今の俺が音をあげるはずないだろ。・・・のためなんだから」
会いたくて会いたくて必死にボンゴレのボスとしてやってきた
一日たりとも忘れたことはなかった愛娘
に会える
そのためにだったらこれくらい耐えてみせる
が、ふと嫌な予感がした
リボーンがここにいるということは・・・
「・・・リボーン・・・もしかしては・・・」
自分、つまり父親に会うことを拒んだのではないだろうか
自分は一日たりとも忘れたことはなかったが別れた時、はまだ赤ん坊だった
覚えていないだろう
もうサインをする手は止まっている
リボーンはただ黙って立っていた
「・・・怒って、た?」
「父親も母親もいないことを何とも思ってないと思うか?」
「・・・」
「はお前が思ってるより聡い。覚悟しておくんだな」
「・・・覚悟ならしてるさ」
もう、ずっと
リボーンはじっとツナを見つめていたがやがてフッと笑った
「じゃあせいぜい頑張るんだな。はもう扉の前だ」
「は?」
今何と言っただろうか
「リ、リボーン今なんて・・・」
「聞こえなかったのか?が来てるつったんだ」
「ち、ちょっと待ってよ!」
ツナは慌てて立ち上がると椅子をひっくり返し自分の足を縺れさせ書類の山に雪崩込んだ
実に見事である
そしてツナがそんな神懸かったコントを繰り広げてる間に無情にもドアが開いた
「・・・」
い*ち*と*せ-菖蒲華-
ふかふかの絨毯がまるで足に絡み付くように感じる
リボーンに呼ばれるがままに踏み入れた扉の向こうにはとても空気が重かった
一番奥の重厚な机
何故か白い紙がひらひら舞う中その人はいた
すぐに分かった
(この人が・・・)
祖母に似ている
そして思っていたよりずっと優しそうな顔をしている
だけど
揺れる揺れる瞳
(どうすれば良いんでしょうか・・・)
何も言わない
ただ見つめ合う
(パパ・・・)
目は口ほどにものを言う
はツナの瞳に困惑が浮かんだのを逃さなかった
「・・・ツナくん」
喉に声が張り付いてしまったように小さな小さな声しか出なかった
それでも静まり返っていた部屋には十分だった
「・・・あ、」
「えっと・・・沢田、です・・・ツナ・・・くん?」
「は、はい」
「・・・」
「えっと・・・」
「・・・」
「う、うん・・・」
「・・・」
「あ、あの・・・お、俺沢田綱吉って言います。き・・・君の、父親で・・・で、す」
「・・・ツナ、よし、くん?」
「あ、ツナって言うのはあだ名で・・・!」
「・・・」
「み、みんなそう呼んでるんだ」
「・・・そうなんですか」
「・・・」
「・・・」
親子の会話終了
(馬鹿だろ)
リボーンは本気でそう思った
会話が止まりツナは一人であたふたしている
は若干俯きがちだ
「・・・おいツナ。は長旅で疲れてんだ。部屋に案内するくらいできねーのか」
「あっ・・・そ、そうだね!つ、疲れてる?」
「え「そう聞かれてはいと答える奴があるか」
「・・・」
「。部屋に案内する」
「は、はいっ」
リボーンに付いて歩き出してしまったをツナは呆然と見ていた
(本当に馬鹿だ・・・)
リボーンは小さく呻くと渋々振り返った
驚いたようにも立ち止まる
「・・・おいツナ。お前が案内してやれ」
「!うん」
恐ろしく世話が焼ける
ギク、シャク。そんな音が聞こえてきそうだった
会話のない移動はまるで無限の時間に感じられる
はいっそ自分の歩幅を無視して全速疾走して欲しいとまで思った
「ここなんだけど・・・」
だからようやくツナが立ち止まってくれた時、はほっと小さく息を吐いた
「え、えっと・・・部屋は前々から準備してたんだ!」
そう前置きをしてツナは扉を開いた
「みんなで考えて内装決めたんだけど・・・気に入って貰えるかな・・・?」
扉の向こうは不思議の国でした
・・・そこまではないが一歩手前くらいはある
壁はベビーピンク色でベットや机などの家具は全て白で統一されてる
気のせいでなければバルコニーまで見える
「ど、どうかな!?」
「お姫さまのお部屋みたいです・・・」
「!そっか
気に入って貰えて良かった・・・!」
俯き加減だったが目を輝かせながらきょろきょろと見渡しながら部屋の中へ進んで行く姿に愛しさを感じずにはいられない
話したいことはたくさんあるはずだった
「この部屋は好きに使って良いから。・・・今日はゆっくり休んで・・・ね?」
「はいっ。・・・ありがとうございます」
「・・・」
名残惜しいが仕事はまだ残っている
は明日も此処にいる
手を伸ばせば届く距離にいる
ツナは自分にそう言い聞かせると「それじゃあ・・・」と部屋を後にした
「・・・」
は扉が完全に閉まったのを確認して座り込んだ
「・・・っ」
泣きそうだった
部屋はとても可愛らしい
父親は思ったよりもずっと優しい人だった
でも
「・・・会いたいって、言っちゃいけませんでした・・・」
困惑に揺れたツナのあの瞳をは忘れることができなかった
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