「。こっちも食うか?」
声をかけるとぱっと笑顔になる
「殿。他には食べたい物はないですか?ケーキはいかがですか?」
ケーキという言葉に目を輝かせる姿は年相応に見えた
未だに夢のようだ
がこうして笑ってることが
い*ち*と*せ-乃東枯-
一時休憩と称してカフェに寄った今より少し時間を遡る
車に乗って静かに進む道すがらリボーンは淡々と父親の仕事について語った
盲点だった
「・・・マフィア」
(パパがパティシエさんだとは知らなかったです・・・)
「、お前が思ってるような仕事じゃない」
「お菓子職人さんじゃないんですか?」
「・・・それはマフィンだ。違う」
それじゃあマフィアとは何だろう?
(マフィアを知らないっつーのは盲点だったな・・・)
運転席のバジルも呆気にとられている
「、ヤクザは分かるか」
「ギリとニンジョウの人達ですか?」
「(妙な知識は持ってるな・・・)そうだ」
「厳密に言えば同じじゃないがお前の父親はイタリアのヤクザ・・・みたいな仕事をしてる」
ヤクザ・・・が小さく呟く
聡い少女だ
十中八九怯えるだろう
それでも・・・これは自分の役目だ
ツナをマフィアの世界に引き込んだ自分の
「・・・だいじょうぶ、ですよ?」
必然的に覗き込む形になるは上目遣いで少しだけ首を傾げた
「わたし、パパもリボーン君もバジルさんも嫌いになったりしません、よ?」
どうして
「どんなお仕事をしてても、です」
この少女は
たった一言で世界を変えてしまうのか
「・・・。俺のこと好きか?」
「!!」
には全く脈絡のない質問だったのか顔を真っ赤にして俯いてしまった
「どうなんだ」
「・・・好き、です」
更に慌てて「ば、バジルさんも好きです!」と言えばバジルは嬉しそうに「ありがとうございます」と返した
これはツナから受け継いだ超直感なのか
誰よりも何よりも欲しい言葉をくれるのは
彼女の力なのか
優しさなのか
「リボーン殿」
無茶なフライトを終え、食事も済ましは疲れが出たのかリボーンに寄り掛かってうたた寝をしている
「殿は・・・本当に良い御子に育ちましたね」
「・・・ああ」
こんなにも優しい子供に
「・・・守ってやらねーとな」
「はい」
***
3人がボンゴレのアジトに着いたのは太陽が沈んで暫く経ってだった
目を覚ましたは物珍しげに外を眺めている
「。ここだ」
名前を呼ばれての肩がビクリと揺れた
(ここに・・・パパが・・・)
バジルが先回りをしてドアを開けてくれ、は久しぶりに地面に足をついた
ひんやりとした静けさ
しかし、は違うことに固まっていた
・・・
・・・
・・・大きい
目の前に立ちそびえる建物はとにかく巨大だった
「パパは・・・こんなに大きな会社で働いてるんですか?」
「ん?そうだな。一応ツナがここのボスだ」
「!」
そ、そんなに偉い人だったのか
ピキン、と固まってしまったに思わず笑う
「そんなに緊張するな」
「難しいです・・・」
頭を撫でてやると強張っていた肩が少しほぐれたようだった
「心配いりませんよ殿。沢田殿は優しい方です」
「・・・はい」
「」
「なんですか?リボーン君」
「覚悟を決めろよ」
「・・・っ」
心を見透かしたような台詞にはやっとの思いで頷いた
パパに会える
それだけのためにここまで来たのだ
「絶対に、逃げません」
真っ直ぐ見つめ返すにリボーンは満足げに笑った
「リボーン様、お戻りは再来週の予定では・・・?」
「思ったより早く終わったんだ」
「バジル様は今日どのようなご用件で・・・?」
「お気遣いなく。所用で近くまで来たもので。沢田殿にご挨拶でも、と」
「そうですか。
で、あの・・・その・・・そちらの子供は・・・?」
「「俺(リボーン殿)の愛人だ(です)」」
逃げないと言ったが消えてしまいたい。は本気でそう思った
「しょうがねえだろ。これが一番怪しまれずに済むんだ」
それってどうなんだ、日頃の素行は如何なもので?など色々な言葉が浮かんだがリボーンはを抱き合げると
「大人しくしとけよ。暴れたら落とすからな」と笑顔で言いのけた
・・・バジルも何も言わないところをみると本当にこれが最善の策なんだろう
はリボーンのシャツに顔を埋め小さく小さく息を吐いた
「。ここだ」
ぴくん、と身体を起こす
振り返るとそこには重厚な扉・・・
腕を解かれ床にそっと下ろされる
まるで硝子細工のような扱いには首を傾げる
横を見るとバジルが唇に指を当てていた
とん、と背中を押されたかと思うとバジルに支えられる
慌てて振り向くとリボーンはもう扉を開け中に入るところだった
ま、まだ心の準備が・・・!
思わずそう叫びたくなったがリボーンはさっさと扉を閉めてしまった
・・・え?
(あ、の)
物言いたげにバジルへ向かい直るとやっぱり口に手を当てて「静かに」のジェスチャをしている
リボーンは一人で入って閉めてしまった
(・・・リボーン君は何をしてるんでしょうか・・・)
ぴったりと閉じられた扉を見つめながらは考える。
この、一枚の扉の向こうに父親がいる
昨日までならきっと夢だと思っただろう
(だけど本当)
すっ、と髪に温かい手が触れた
顔を上げるとバジルが心配そうな目で見つめている
「だ、いじょうぶです」
大丈夫。自分にそう言い聞かせぎこちなくも笑ってみせた
しばらくの様子を見守っていたバジルだがデジャヴュのように膝をついた
「殿。拙者はここまでしかご一緒できません」
え、と小さな声が零れる
「申し訳ありません」
「そっ」
そんな。と言いたかった
私のためにここまで来てくれた
謝ってもらうことなんて一つもない
「・・・また逢えますか?」
「殿が望んで下さるのならいつでも」
「・・・ありがとうございました」
「・・・殿」
「はい」
「拙者と同じように貴女に会いたいと思っていた人がいます」
「?」
「それを忘れないで下さい」
扉が開く音がした
「」
リボーン君の声
そっと背中を押される
バジルさんの手だとすぐに分かった
ドクドクと心臓はせわしなく動く
バジルの最後の言葉は不思議と耳に残った
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