「あらあらじゃあ急いで準備しなきゃね」

おっとりとした口調でおばあちゃんは言った

それは今の空気にびっくりするくらいミスマッチで張り詰めていた空気がふんわりになるのを感じた





い*ち*と*せ-梅子黄-





轟々と飛行機の飛び交う音が響く

全てが珍しく目をまるくして見上げているとぽん、と頭を優しくはたかれた

「首が痛くなるぞ」

「みんなキラキラしてます」

思ったことを口にすると「なんだそりゃ」と笑われてしまった

あ、あれ?


右を見ても左を見てもキラキラした金髪に外国の言葉をペラペラ話している

にとってその光景はまさに未知の世界であり目を丸くするのも無理はない

たくさんの人に圧倒されながらちょこちょこ歩く姿にリボーンが苦笑して手を差し出した

がキョトンとその手を見つめるとまた笑われた

「はぐれないように、な」

柔らかく繋がれた手は温かかった



「気をつけてね」

そう言って空港の入口で祖母にギュッと抱きしめられるまでは一緒に行くものとばかり思っていた

そう、一緒に行くのは隣を歩くリボーンだけ

祖父も見送る側に立っていた

(パパは本当に遠いところでお仕事してたんですね・・・)

まさか外国とは思ってなかった

しかも

「必要なものがあれば向こうで揃える。必要最低限の荷物にしてくれ」

リボーンがそう言うのでは身なりそのまま荷物はポシエットだけという出で立ちでの出発となった

・・・こんな身軽で海外へ行く人間はそういないだろう

「心配するな。パスポートは準備してある。他に必要な物はツナに買わせれば良い」

ツナ・・・

その言葉をリボーンの口から聞くのは2度目だった

もしかして・・・

「それが・・・パパの名前ですか?」

「知らなかったのか」

驚いたように言うリボーンには俯いた

「おばあちゃんは・・・つー君って呼んでました。

 昔のパパの話はすこしだけ知ってるんです。

 おばあちゃんにすこしだけお話聞かせてもらいました。

 パパが中学生だったころのお話とか・・・リボーン君のことも。とっても素敵な家庭教師さんだったって言ってました」

「まあな」

謙遜すらしない自信たっぷりな返事には思わず笑ってしまった

「今の父親のことは」

笑みが強張る

「・・・遠いところでお仕事してるってことだけ聞きました。」

それ以上は聞けなかった

ツナ、って言うんですね・・・パパの名前・・・

「誰に聞くより自分の目で見るのが一番だ」

柔らかいリボーンの声には泣きたくなった

そうだ。だからここまで来た

(パパに・・・逢える)

全てはそのために


「パパのお家にはどうやって行くんですか?」

「車だ」

車?タクシーだろうか

隣を歩くリボーンはどうみても免許を持っているようには見えない

「心配するな。家光が手配してるはずた」

「おじいちゃんがですか?」

おじいちゃんも外国でお仕事してる、って言ってました。もしかしてパパと同じところで働いてたんでしょうか

手は繋がれたまま外へ促される

カンカン照りの太陽が眩しい

同じ空なのにどこか違うような空色が濃いような雲が大きいような

色が、多いようなそんな気がした

車の所為かもしれない。道沿いには沢山の車が停まっていた

日本じゃ見たことのない形の車も沢山停まっていた

「リボーン殿!」

一台の車から声が掛かった

「バジル」

リボーンが返事をするとその人は車から降りてきた

駆け寄ってくる青年とリボーンはどうやら知り合いらしい

は何を感じとったのかさっとリボーンの後ろに身を潜めた

「親方様から連絡を頂いてお待ちしておりました」

「悪いな」

「滅相もありません。喜んでお供させて頂きます」

リボーンの陰からそっと見上げる

・・・リボーン君のお友達でしょうか



「は、はいっ」

リボーンに名前を呼ばれ背筋を伸ばす

「リボーン殿・・・そちらが」

「ああ。だ」

わ、わたしのことを話してます

顔だけ覗かせ出るタイミングを失いリボーンの後ろでまごまごする

先に動いたのは目の前の青年の方だった

「拙者バジルと申します。

 お目にかかれる日を心待ちにしていました・・・殿」

とん、と膝を着いて視線を合わせてくれた

優しい笑顔にドキッとする

困ったように視線をさ迷わせるとリボーンと瞳が合った

大丈夫だ、と言わんばかりの笑み

その笑みに後押しされるようにはリボーンの後ろから出た

正面から向かい合うと青年・・・バジルはさらに嬉しそうに微笑む

どうしましょう・・・顔が真っ赤になりそうです・・・

「・・・沢田、です。えっと・・・はじめましてバジルさん」

「なんだ顔が赤いぞ」

「・・・リボーン君は意地悪です」

ニヤリと笑いながら「今頃気付いたのか」と言われてしまった

・・・

さあどうぞ。とバジルとリボーンにエスコートされ車に乗り込む

街並みを歩くことが出来ないのは残念だったがそれを口にすることはなかった



「?はい」

「話がある」

走り出した車の窓から見える街を堪能していただったが真剣なリボーンの声に身体ごと向き直った

「はい」

(勘が良いな・・・)

の勘の良さは生まれつきではないがリボーンがそこに気づくことはなかった

「お前の父親について・・・いや、俺達の仕事についてだ」

「・・・リボーン君も、バジルさんも、パパと同じところで働いてるってことでしょうか?」

「バジルは少し管轄が違うが大元の組織は一緒だな」

「そしき・・・」

が今まで父親と会えなかったのはその仕事が理由なんだ」

ぴくん、とが小さく頭を揺らした

理解力もある。一昔前のツナとは大違いだな

ゆらゆらと暫く不安げだった瞳がゆっくりと定まった

噛み締めるように言葉を紡ぐ

「・・・パパは・・・どんなお仕事をしてるんですか?」

視界の端でバジルが何か言いたげなそぶりを見せるが無視した

・・・伝えない訳にはいかない

それはツナとを引き離した自分の口から告げるべきことだと決めていた

「マフィアだ」

きょとん、としたの頭の中には小さなカップケーキが浮かんでいた