フランはその瞳からいつ大粒の涙が溢れるかと思いザンザスは殺気を隠すこともせずツナを睨みつけている。骸も戦闘態勢を崩そうとしなかった

ツナはそんな周りに目もくれずただだけ見つめていた

覚悟はしていた

拒絶されると

じわりと手には汗が滲む

は頭を振るような仕種をしてフランを仰ぎみた

「フランさんケガしてないですか?」

「ミーは大丈夫ですー。」

予想外の台詞に無表情ながらにフランは驚いた

「庇ってくれてありがとうございます」

「どういたしましてー」

ぺこりとお辞儀をしたはそのまま立ち上がった

その手には花冠。はそれが潰れてないことに安堵したようだった

どうするのだろうと見守っていると何の躊躇いもなくザンザスの前に立った

「ザンザスさん。お邪魔しました」

「・・・帰るのか」

それは疑問ではなく確認だった

「無理すんな」

は少しだけ困ったように笑った

「帰ります」

はっきりとそう告げた。

腕が伸びてきてグシャッと髪を撫でられた

若干首が痛い。手つきが乱暴なのだ

「ザンザス。の首が折れてしまいます」

「ぐぇ」

襟を引っ張られはアヒルのような声を上げた

・・・首が絞まりました

「もう少し女の子らしい声は出ないんですか

「骸さん酷いです」

口を膨らませるとつつかれた

意地悪だ

とても場違いなじゃれあいだった

はいつもと変わらない笑顔を浮かべている

その光景は異様なのだ

ふ、と会話に静寂が混じる。その間隔はだんだん長くなりとうとう誰もが無言になった

意を決したようにがツナに向き合った

「ツナくん」

鈴を転がしたような声

静かに歩みよる姿は少しの怯えも見えない

真っ正面から向かい合う形になってもツナは指先一つ動かせなかった

「勝手にお部屋から出てごめんなさい」

目が合っても何も言わないツナにが先に口を開いた

「・・・でもお迎えに来てくれたのがツナくんで嬉しいです」

フワリと笑った

それは凍らせていたツナを激情に駆り立てた

「・・・何で」

「え?」

「何で笑えるんだよ!?」

突然大声を上げられては傍目にも分かるほど肩を強張らせた

初めて怒鳴られたことへの純粋な驚きからだ

「俺、自覚してるよ!に対してすっごく酷いことしてるって!!親として最悪だって!!」

叫びながら声に湿り気が帯びてくる

それを隠すように更に大きな声を出す

「部屋から一歩も出さないで誰とも会わせないで・・・俺のことっ・・・嫌いになっても仕方ないって・・・」「ツナくんは分かってないっ!」

遮ったのは未だかつて聞いたことのないの大声だった

ツナはビクリと固まった

とうとう、この時が来たのだ

の瞳から大粒の涙がとめどなく溢れる

ああ、次の言葉は分かってる。『嫌い』

「わ、私っザンザスさん好きです!」

「・・・え?」

この時、ツナはから目を離さなかったがもし、少し視線を上げていたならば世にも珍しいザンザスの鳩が豆鉄砲を喰らったような顔が見れただろう

「わ、私のわがままでお邪魔したのにっ怒らないで居ても良いって言ってくれたんです・・・!」

ボロボロ涙を流してはしゃくり上げながら必死で言葉を紡いだ

「ふ、フランさんも好きです・・・っ一緒にお花摘んでくれました!守ってくれるって言ってくれました!」

そこで不器用な息継ぎが入った

「む、骸さんはちょっと意地悪です・・・」

「師匠ウケますー」

「お黙りなさいおチビ」

「・・・だけど、嘘つかないんです。私に、選ばせてくれたんです・・・だから骸さんも好きです!」

ツナはくしゃりと笑った

涙が今にも零れそうな酷く辛そうな笑いだった

辛くて、辛くて、もう笑うしかない。そんな笑顔

「・・・俺じゃない父親が欲しかった?」

は泣き顔のままツナを睨みつけた

「私はっ!みんな好きです・・・!

 ザンザスさんもフランさんも骸さんもスクアーロさんもリボーン君もクロームさんも獄寺さんも山本さんもバジルさんもおじいちゃんも・・・」

だけど

「ツナくんしゃがんで下さい」

「え?」

「しゃがんで下さい!」

言われるままひざまづくと視線がぐっと近くなる

泣きすぎての目元から頬は赤くなっていた

不意に花の香りがした

甘くて懐かしい、遠い記憶が呼び起こされる

「だけど私はツナくんが一番好きです!世界で一番ツナくんが大好きなんです!!」

頭にはなかざりをのせられたのだと気付いたのは大きなの瞳にその姿が映ったから

こんなに近く

「・・・だからそんなこと言わないで下さい」




い*ち*と*せ-水始涸-