荒々しく扉が開いた
静寂を切り裂く、という言葉はこんな時に使うのかと骸は思う
「は何処だ」
「ドアは静かに開けるものだと教わりませんでしたか?沢田綱吉」
神経を逆なでするようなゆっくりした口調で喋ると案の定ツナの殺気が増した
「骸。もう一度聞く。は何処だ」
「の意思はどうしたんですか?」
ピクリ、一瞬走った動揺を骸は見のがさなかった
「何処と聞かれれば僕はが望んだ場所、と答えますよ」
「・・・それは何処だ」
ツナよりやや高い声の乱入にますます笑みが深くなる
「お久しぶりですね、アルコバレーノ。君も甘やかす相手を間違えましたね。が何も言わないから人形のように扱ったんですか?」
ぐっと言葉に詰まるリボーン。良心が痛んだんだろうか?心を痛めているのは誰よりもなのに。
・・・彼らは
「良いことを教えてあげましょう」
思い知れば良い
「はマフィアが怖い、と大声で泣いたんですよ」
い*ち*と*せ-雷乃収声-
「さん。どうぞー」
ホットチョコレートにマシュマロが浮かべられている。は顔を綻ばせた
「ちゃんは甘い物が好きなの?分かってたらお菓子を沢山準備してたのに!」
「あ、ありがとうございます」
既に美味しそうなクッキーが並んでいる
これ以上何が出てくるんだろう、とは思った
・・・サングラスごしでも視線を感じる。ルッスーリアさん、と言うらしい
「お姉ちゃんって呼んでも良いのよ!」そう言われ思わず隣にいたフランさんに「・・・あの・・・女の人・・・なんですか?」と尋ね「そんな訳ないじゃないですか」と冷たくつっこまれた
「ちゃんずーっとここにいて良いのよ」
にっこりと言われは苦笑いした
・・・返事に困った
きっとずっとはいられないと分かっているから
「さんオカマの言うことは流して良いですよー」
小さくそう囁かれては思わず吹き出した
ウ゛ァリアーがどんな集団か骸から聞かされていたがそれ以上に優しい人ばかりだった
「フランさんは飲まないんですか?」
カップを傾けてみせるとフランはきょとん、と瞬きをした
「・・・日本は間接キスとか気にしないんですかー?」
「?」
「・・・じゃあいただきまーす」
ふわりと。ペパーミントの香りがした
・・・あ
「フランさんっ」
「はいー?」
「あのっ・・・お花を」
「花ー?」
え、えぇっと・・・
「・・・なら外に行きましょうかー」
腕を軽く引かれたかと思うと両足がトンと床に着いた
「あらん、もう行っちゃうの?」
「ルッス隊長はどうぞ心行くまでここに居て下さーい」
「ふわっ!」
どんどんルッスーリアさんが遠ざかる
「ふ、フランさんっ?」
「花が欲しいんでしょー?」
きょとん。繋がれた手を思わず凝視してしまった
どうして分かったんだろう
自分でも上手に言葉にできなかったのに
不意には顔を上げた
・・・何もない
「さんー?」
不思議そうに名前を呼ばれは慌てて首を振った
「何でもないです」
視線を感じたのはきのせいだろうか・・・?
「大丈夫ですよー」
「?」
「さんはミーが守りますから」
任せてくださーい。
繋がれた手は暖かい
忘れられないことがあった
***
「マフィアは君が思ってるよりずっと残酷な仕事ですよ」
ここへきてたくさん泣いたけど、声を上げて震えが止まらなかったのは初めてだった
これは私と骸さんだけの秘密
誰も教えてくれなかった
マフィアという仕事
闇について
話を聞いて、こんなにも恐ろしく感じることなんて他にない
まるで世界が真っ暗になって一人ぼっちになってしまったようだった
「」
「やっ・・・!」
不意に伸ばされた手から身をよじって逃げた
だって、その手は、誰かを傷つけた
何も言わない。その沈黙が無数の針のように痛かった
ズクン、とそれは心の一番触れられたくない部分が軋む音。は堪えられなくなってボロボロと涙を流した
信じていた
お父さんを
テレビのヒーローのような素敵な仕事をしているんだと
だから忙しくて会えないのだと
ずっと、そう言い聞かせて
我慢していたのだ
「だって・・・」
涙は言葉の邪魔をする
拭っても拭っても溢れてくる涙にとうとうは俯いた
「私は・・・ツナ君に・・・会いたくて・・・」
「僕が怖いですか」
無我夢中で頷く。取り繕うなんて無理だった
「怖いですよ!だって人を殺すってもう会えないって・・・ママみたいにっ・・・!」
ぐしゃぐしゃの顔で立つことも出来ない
スカートが汚れることなんて気にしないでうずくまった
知りたくなんてなかった
「うぁ、あっ・・・!」
嗚咽で自分でも何を言っているのか分からない
骸は何も言わない
触れることも話しかけることもしない
ただ動く気配もないので側にいることだけは分かった
不思議なくらい涙は枯れなかった
・・・どれくらい時間が経っただろうか
「日本に帰りますか」
静かに降ってきた言葉に顔を上げた
・・・表情は淡々としたものだった
この人も誰かを殺したんだろうか
美しいオッドアイの瞳
赤は、今までに見た血の色なのか
歯が噛み合わず息をすることすら苦しい
「・・・怖いけどっ」
「。君が望めば日本へ連れていきます。ボンゴレと無縁の静かな生活を約束しましょう」
「だめ・・・っ!」
。と呼んでくれる声を知ってしまった
触れてくれる手を知ってしまった
「怖くても優しいんですよ・・・!」
会えなくなったら忘れられる?
絶対に忘れられない
「みんな優しいから・・・っ」
ようやく分かった
ずっと、会えなかった本当の理由
だけどみんな、会いたかったと言ってくれた
忘れてしまったの分まで忘れないでいてくれた
「・・・怖くても嫌いになれないんですね」
何度もむせ返る
繰り返すと涙が少しずつだが収まってきた
「怖いよりもずっとずっと好きだから・・・」
ゆっくり骸と向き合う
何度見惚れたかわからない。美しいオッドアイ
「僕が怖いですか?」
はぎこちなく頷いた
「・・・怖いです。だけど優しいって知ってます」
つまり、そういうことなのだ
伸びてきた手に怯えてしまう
体は正直なのだ
「・・・が良いと思ったら手を取って下さい」
そう言われ、指先をほんの少しだけ重ねる
温度のない、世界で
***
「さんー?」
「だ、大丈夫です。フランさんの手があったかくて・・・嬉しくって・・・」
ごまかすように笑った
・・・ルッスーリアさんはずっといて良いって言ってくれたけど
無理だろう
は思う
あの部屋に帰らないといけないことを
時間があまりないことを
(きっともうすぐ)
来る。
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