「・・・いきなり連れ出して悪かったなぁ。家に送る」
へにょり、途端に眉尻が下がる
「もしフランに会いたいなら連れてくぞぉ」
きょとん、大きなぬいぐるみを抱きしめながら首を傾げる姿は小動物を思わせる
「・・・ふらん?」
「あの夜俺と一緒にいた無表情のクソガギだぁ」
ぱっ、と花がほころぶように笑顔になる少女
「会いたい、です」
照れたようにうさぎに顔を埋める姿は何とも言えず・・・
(か、可愛いじゃねぇか!畜生!!)
前もって言っておく
スペルビ・スクアーロという人物は褒められた人生を送ってはいないが決して
決してロリコンではない
い*ち*と*せ-鶺鴒鳴-
「着いたぞぉ」
先程聞いたばかりの名前を口にするとわたがしのような甘い声で「はい」と返ってきた
目元はまだ赤いが笑顔を浮かべている
「ここがスクアーロさんのお仕事場ですか?」
「そうだぁ」
ウ゛ァリアー、との口が小さく呟く
車の中で話している時も思ったがある程度の知識があるらしい
沢田綱吉に聞いたのかと尋ねると返ってきた返事は否
「ツナ君は・・・あんまりお仕事の話はしません」
「えっと・・・たくさんは知らないんです。だけどスクアーロさん達がマフィア、さんをしててツナ君達と・・・同じ仕事をしてる、って聞きました」
それは随分とオブラートに包んだ物言いだ
主に暗殺を生業にしているウ゛ァリアーと沢田綱吉率いるボンゴレでは温度差がある
しかし、わざわざ怖い思いをさせる必要もあるまい
スクアーロはあえて訂正はせずを連れて歩きだした
落ち着かないのかキョロキョロしながら歩くに苦笑する
「転ぶぞぉ」
「は、はい」
・・・さて、すぐにフランを呼び出したいところだがその前に最初にして最大の難関がある
「う゛ぉぉい」
「はいっ」
避けて通れないから難関なのだ
「俺はこれからボスの所に行ってくる」
「はい」
「フランはその後だぁ」
「・・・私はボスさんにご挨拶しなくて良いですか?」
なんて躾の行き届いた子供なんだ!!
思わずその小さな頭に手をやる
ひゃわぁ、と奇妙な悲鳴を上げるものもそれすらも可愛いと思うあたり重症だ
「ボスには俺が会ってくる。お前は待ってろぉ」
「・・・はぁい」
楽しそうに笑うに
(・・・あのクソボスに会わせるわけにはいかねぇだろ)
良くて花瓶。悪くて実弾が飛んでくる部屋にみすみすを連れていくのはあまりに無謀である
運よく誰にも会わずザンザスの部屋の前(正確には執務室)まで辿りつくことが出来た
「・・・動くなよぉ」
「・・・大丈夫、ですよぉ」
スクアーロは気付いてないがこのやりとりは4回目である
お陰での顔は少々引き攣っている
「絶対に動くんじゃねえぞぉ!!」
最後にそう言い置いてスクアーロは執務室に入った
「う゛ぉぉいボっ!ガッっ!!」
花瓶が飛んできて頭に当たった
「っ何しやがる!」
「耳障りだ。出ていけ」
「まだ何も言ってねぇだろぉ!!」
「てめぇの声が耳障りなんだよ」
次はインク瓶が飛んできた
ギリギリで避けてドアにできた黒い染みを見つめる
我等がボスはあまり機嫌がよろしくないらしい
言いってやりたいことが色々あったが次は実弾が飛んでくるに違いない
肝心なことを言う前に乱闘になるのは避けたかった
(落ち着け俺・・・!のことが先だぁ・・・!!)
廊下に残してきた小さな少女を思い浮かべスクアーロは何度も深呼吸をした
が動かなくても厄介のほうがに近づいてくる可能性がある。急がなければ
それがここウ゛ァリアーなのだから
「ボンゴレへの報告は終わったぞぉ」
「フン」
「(ちったぁ労れ!!)あと一つ・・・一応報告することがある・・・」
「却下だカス」
「まだ何も言ってねえだろ!!」
飛んできたのは万年筆
避けると壁に筆先が刺さっている
・・・
「う゛ぉぉい!!」
机の上にあるものが無くなったら実弾に切り替わる
そんな予感がヒシヒシとして、スクアーロは次が飛んでくる前に言い逃げることにした
許可なんざ最初から期待してねぇよ!
「実はボンゴレの」
沢田がきてる。そう続かなかったのは飛び込んできた悲鳴のせいだ
それも女の
正確には少女の
スクアーロは真っ青になった
僅かに眉を潜めるザンザスとか今はどうでも良い
「っ!!!」
無駄に重い扉がゆっくりと開くことがもどかしく、力任せに押す。扉らしからぬ奇妙を立てたが無視する
廊下にはしかいないはずだった
「スクアーロぉ?」
間延びしたイラッとする声がする。それは顔を見なくても分かるので今は放置
素早く視線を走らせる。壁にナイフで張り付けになった何ともグロテスクなオブジェがあった
「!?」
そしてその足元にうずくまっている小さな・・・
「スクアーロこれ何?」
やっかいの代名詞
ベルフェゴールがナイフをちらつかせながら立っていた
「・・・スクアーロさん・・・」
とりあえず、壁のオブジェがではなくうさぎのぬいぐるみだったことに安堵した
***
絶対外れない超直感
しかしそれはどんな危険でも回避できるというわけではない
「うさぎさん、ここ大きいけど寂しいですねー・・・」
小さく呟いたつもりなのに無音空間だった廊下には響いた
スクアーロに貰ったぬいぐるみはすっかり腕に馴染んでいる
「・・・スクアーロさんのボスさんはどんな人でしょうか」
ボス、といわれると頭を過ぎるのはたった一人
(黙って出てきて・・・怒ってるでしょうか)
手助けしてくれた彼が怒られていませんように。に出来るのは祈るだけだ
強行手段だった、なんて分かっている
でも・・・
「っ!?」
ピリっ、と毛が逆立つような嫌な感じがした
「お前何?」
いつの間にこの人は目の前まで来ていたんだろう
前髪が長くて目が見えない。だけどヒシヒシと視線は感じられる
何だかとっても落ち着かない
まるで見えない刃物でも突き付けられているようだ
「どっから入ってきた?つーか何してんの?」
どこから、玄関以外に出入口があるんだろうか
何してると聞かれても・・・
「黙ってるってことは敵?」
「!あ、のスクアーロさんを・・・」
言葉は遮られた
飛んできたナイフによって
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