お気に入りのポシェットにハンカチとティッシュを入れる
「ちゃん準備できたー?」
「はいっできました」
あとはプレゼントに、と早起きして作ったクッキーを入れるだけ
(けいし君、青色が好きって言ってました)
ラッピング用に準備したリボンは青。壊れ物のようにそっと握りしめは奈々のいる台所へ向かった
い*ち*と*せ-麦秋至-
「あら、誰かしら?」
玄関のチャイム音に奈々が顔を上げる
リボン結びに悪戦苦闘していたも遅れながら顔を上げた
「わたしが出ましょうか?」
「おばあちゃんが出るわ。ちゃんは準備しててねー?」
そう言われはこっくり頷いた
そうこうしてる間にもチャイムは悪戯のように再三鳴らされる
「はいはい、ちょっとお待ちくださいねー」
パタパタとスリッパを鳴らしながら奈々が玄関に向かう
(で、きました!)
若干歪んでいるのはご愛嬌ということで、はいそいそとポシェットにクッキーを詰め込んだ
「・・・?
おばあちゃんお客さま、だれでしたかー?」
玄関に向かったきり奈々の声が聞こえない
外に出て話し込んでいるのだろうか?戻ってくるまで待っていようか、と思ったが時計を見るとパーティーが始まるまであまり時間がない
(せっかく誘ってくれたのに遅れちゃ失礼です)
けんしの家までだったら自分1人でも行ける。もしも奈々が話しこんでいるなら1人で行けばいいとポシェットをかけ直しも玄関に向かう事にした
「おばあちゃん?」
思った通り玄関が閉まっていた
奈々は外に居るんだろう
お気に入りの靴を履いて玄関を開ける
「おば「ちゃんっ!」
むぎゅっ
まさにそんな擬音が似合う
突然伸びてきた腕には思わず動きも息も止めた
誰かに抱きしめられている、でもそれよりも目の前に立っている人はだれだろう?
奈々だけじゃなかった
(わたしをぎゅってしてる人とおばあちゃんと。それから・・・)
真っ黒のスーツを着た人がそこにはいた
「ちゃ〜んっ!元気だったかあ!?」
「・・・おじいちゃん?」
がばっと抱かれていた手が少し離れたかと思うとそこには久方ぶりに見る祖父の笑みがあった
「もう、あなたったら帰ってくるなら前もって連絡してくれれば良かったのに」
「いやー、すまんすまん」
「リボーン君も久しぶりね」
「チャオッス。ママン 久しぶりだな」
(・・・リボーン君?)
その名前、聞いたことがあります
そう、おばあちゃんがそうやって呼ぶのはパパの家庭教師さん・・・
「んー?
ちゃんどうしたんだ?バック持ってお出かけか?」
バック
家光にそう言われてポシェットを掛けていたことを思い出した
「っおじいちゃん!」
「おう、なんだ!」
「久しぶりに会えてとっても嬉しいです。
でもごめんなさい。わたし、今からちょっと出かけなきゃいけないんです」
見るからにガーン!!と落ち込む家光だったが先約があるのだから仕方ない
滅多に会えない祖父
普段なら帰って来た時これでもか!と構い倒して貰うのだが今日はそうはいかない
「あらあらちゃん急がなきゃね」
「はい。でも大丈夫です。けんし君のお家だったら1人で行けます」
エプロンを外そうとしていた奈々には急いで首を横に振った
視線を、感じる
「何っ!ちゃんが1人で出かけるだって!?
それは駄目だ!誰かに誘拐でもされたらどうするんだ!!」
「・・・おじいちゃん、けんし君のお家はご近所さんですから大丈夫です、よー?」
そもそもこんなに平和な並盛町で誘拐なんて聞いたこともない
「いーやっちゃんは可愛いから誘拐もあり得るんだ!!」
孫は目に入れても痛くないというが、家光はその中でも顕著だった
「・・・おじいちゃんは心配のし過ぎですー・・・」
心配してくれるのは大変ありがたいが今は時間と戦っている最中である
もう、どんなに頑張っても5分は遅刻する。そんな時間である
一体どうすればこのがっちりと抱きしめている腕を外せるだろう、とが思案しているとぐんっと身体が浮いた
・・・浮いた?
「ひゃあ?」
持ち上げられてる
そう気づいたのは祖父の腕から逃れ、代わりに黒いスーツがすぐ近くにあったからだ
「俺が送る」
「リボーン」
そうだ、この黒いスーツはリボーン君の物だ
とん、と軽く降ろされて見上げる形になる
・・・パパの家庭教師さんだった・・・リボーン君
「リボーン。しかし・・・」
「話はお前1人で充分だろ」
お話?何かお話があっておじいちゃんとリボーン君は来たんでしょうか?
そんな中、奈々ののんびりとした声が響いた
「ちゃん。急がないと遅れちゃうわよー?」
はっと時計を探すが残念ながら見える範囲に時計はなかった
しかし、絶対に遅刻だ。確定だ
「いってきますです!」
「はい。行ってらっしゃい」
奈々と家光に見送られは家を後にした
駆け足で跳び出したにごく、自然にリボーンはついて歩いた
ほんの少し、は困っていた
二歩後ろを歩くリボーンは特に何を話すわけでもなく本当にただ、ついて歩くだけだった
はで何を話しかけて良いか分からずとにかくけんしの家へ急いだ
「あ、ここです」
「そうか」
立ち止まってそう言えばやっぱり彼も2歩後ろで立ち止まった
そっと見上げれば瞳が合う
家光にハグされている間も奈々と喋ってる間も実はずっと視線を感じていた
そう思うとかえって顔を見ることが出来ずにずっとスーツばかり見ていた
「あの・・・ありがとうございました」
何を言う訳でもなくただじっと感じる視線に耐えられなくなりはそう言って頭を下げた
そうして返事も聞かずに走り出した
ポシェットがカサカサと揺れる
背伸びをしてチャイムを鳴らす
すこぉしだけ振り返るとまだ黒い帽子が見えた
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