「ツナ」

この部屋がこんなにも息が詰まる空間になるなんて。おかげでメイドは誰も近づきたがらない

唯一トッティだけが無言でツナの給仕を行っている

「何か用。リボーン?忙しいんだけど」

無感情な声に舌打ちをしたくなる

のことだ」

ツナの手がとまる

「お前が怒るのは分かる。だがの怪我はもう良いんだろう。そろそろ自由にさせてやれないか?」

「言いたいことはそれだけ?」

まるで氷のように冷たい視線は心臓を鷲掴みするかのようだった

の待遇について一切の口出しを認めない。これは決定事項だ」

「ツナっ!」

「ボンゴレデーチモの決定に逆らうのか」

・・・もう、何も言えなかった・・・






い*ち*と*せ-天地始粛-





3日ぶりにこの扉を叩く

・・・具合はどうだ?」

「リボーン君!」

ベッドの上から明るい声が迎えてくれた

もう随分と顔色も良いのについ、同じ口上から入ってしまう

「この間もおんなじこと聞いてました。わたしは、元気ですよー?」

コツ、ベッドに近づく

腕を伸ばすとも嬉しそうに体を起こした

柔らかいハグと頬にキスを落とす

「ふふっ」

きのせいだろうか。以前は恥ずかしがってなかなか顔を上げなかっただが最近は口づけも抱擁もすすんで手を伸ばすようになった

「随分嬉しそうだな」

思わず呟くとはキョトンと目を丸くした

・・・どうやら無自覚だったらしい

「・・・あったかいからです」

色付いた頬はとても健康的でベッドにそぐわない

しかし、彼女はもう一月近くベッドの上に縛り付けられていた

「リボーン君は・・・元気ですか?わたしより顔色、悪いですよ?」

「元々こんな色だ」

苦し紛れの言葉には自分のことのように痛ましい顔をする

他人の気持ちに敏感なだ。きっと嘘だとばれているに違いない

・・・人のことより今は自分のことだけ考えていれば良いのに

「・・・わたし」

「うん?」

「わたしは、大丈夫です。だから・・・リボーン君そんな顔しないで下さい」

どうして

この少女はこんなにも

「大丈夫、ですから」

「大丈夫なわけないだろうっ!?」

一体どこが大丈夫だと言うんだ

「外出どころか部屋からも出して貰えず、お前を軟禁したツナとは面会謝絶状態。それが一月だぞ?それで不満が一つもないのか?」

わかっている。これは八つ当たり以外の何でもない

だけどもし、


もしこの少女が泣きわめきながら理不尽さを訴えてくれれば・・・リボーンは反逆者の汚名を被ってでもツナに抗議をしただろう

「・・・リボーン君」

が何か言おうと口を開いた瞬間、甲高いノック音が響いた

「リボーン様。長居されると様のお体に障ります」

普段なら食ってかかるところだが今日は何も言わず従った

これ以上ここにいるともっと余計なことを言ってしまいそうだった

部屋を出る寸前にと目が合う

「お仕事、頑張ってください」

まるでさっきまでのやり取りなどなかったかのようには微笑んでいた


***

「今日はまた一段と不細工ですね」

「・・・」

いつもなら膨れながら言い返すだが今日は黙ったままだった

「何か落ち込むようなことがあったんですか」

綺麗なオッド・アイを細めて笑う人はいつものようにと向かい合いながら座った

はようやく口を開く

「・・・リボーン君に・・・不満はないのか、って言われました」

「成る程」

引き寄せられるがままに骸に寄り掛かる

「君は何も言い返せなかったんでしょう」

無言は肯定である

その様子をどこか愉しむかのように骸は続ける

「近すぎる人間ばかりだからそんな悪循環に陥るんですよ。非情になりきれない・・・愛されてますねぇ、

その問いには答えずは現実離れした目の前の光景を見つめた

誰かさんと違ってここはいつだって静かにを迎えいれてくれる

「・・・リボーン君は優しいんです」

独り言のように呟く

「心配してくれてるんです。私のこと」

分かっているから辛い

「アルコバレーノは殺し屋ですよ?」

「どんなお仕事してても優しい人は優しいんです」

言い張ると声を上げて笑われる

「盲目ですねぇ。マフィアは愚かで他人の痛みなんて感じない。だから平気で傷付ける。君の父親はそんな世界にいるんですよ」

「それでも、ツナ君もリボーン君も優しいです・・・マフィアが酷い人でもツナ君はそんな人じゃありません。殺し屋さんをしててもリボーン君は優しいです」

「言いたいことも言えないのに?」

「・・・ここから出してもらえないのは意地悪じゃないって・・・教えてくれたのは骸さんじゃないですか」

恨みがましい声を出すと更に楽しそうに笑われた

「君はどこまでも素直ですね」

どうしても褒められている気がしない

誰も教えてくれないなら僕が話しましょう

あの日、泣き止んだに骸はそう言った

父親のこと嫌いになるかも知れますよ。それでも聞きたいですか?

涙の跡を拭っては頷いた


マフィアは嫌いです。この世で一番おぞましい。

思わず「ツナ君も嫌いですか?」と尋ねると「沢田綱吉は甘いです。非情になりきれないのにマフィアになった」

「敵であるはずの僕を仲間のように扱うんですから相当な変わり者でもあります」

・・・嫌いではないらしい

ひとまず安心する

時間を感じない夢の中、骸の話を聞く

今まで聞いたことのない話を

「君がかつて生まれた時、喜んだのはごく一部の人間だけでした」

「・・・ツナ君は」

「沢田綱吉は見ててドン引きするくらい喜んでましたよ。守護者達もですね。・・・クロームも口数が少ないなりに君には話しかけていました」

それから、と間が空いて

「君が生まれて間もなく誘拐事件が起こりました。身代金目的でも何でもなく、ただ沢田を殺すためだけの誘拐事件です・・・殺人未遂事件と言っても差し支えないですね」

ゆうかい

「理由は単純明快。君がボンゴレデーチモの娘だから。・・・理不尽だと思いますか?マフィアから無差別に命を狙われ、沢田綱吉は君を日本へ避難させた」

知らない知らない物語

「今回は・・・直接が狙われた訳じゃありませんが結果的には生命の危機に曝された。沢田綱吉は君をこのイタリアの地へ呼ぶため血を吐くような努力をしてきました。また君を手放すなんて考えられない。故に強行手段にでた。それが今回の軟禁です」

「・・・それじゃあツナ君が会ってくれないのは・・・」

「君に怒られない為の苦渋の策でしょうね。そのくせ会いたくて君が夜寝静まってから現れるんですから・・・女々しいにも程があります」

「そうなんですか?」

ツナと会えないままかれこれ1ヶ月になる・・・と思っていたのはだけで実は毎晩会っていたらしい


「さあ。感想を聞かせて下さい」

唐突な言葉にはキョトンとする

「感想?」

「ええ。どうしたいですか?沢田綱吉を罵るとかアルコバレーノに悪態をつくとか守護者に文句を言うとかイタリアから逃げ出したいとか。何かあるでしょう」

・・・そんなこと思いもしなかった

ただ驚くことばかりだった

どうしてずっとおばあちゃんと2人だったのか

どうして父親は傍にいなかったのか

どうして今閉じ込められているのか

・・・自分は捨てられたのだと布団の中で。会いたいのに会えない理不尽さにも。傍にいるのに何が何だかわからなくて泣いた

そして今、また涙が溢れる

・・・愛されていたのだ


ずっとずっと知らなかっただけで

生まれてからずっと

もしかしたら生まれる前から


「・・・ツナ君に、ありがとうとごめんなさいを言いたいです」

たくさんたくさん愛してくれてありがとう

心配かけてごめんなさい

「予想の斜め上をいく子ですねぇ」

むにぃ、と頬っぺたを引っ張られた

つまらなさげな口調なのに楽しげだから始末におえない

「いひゃいれす」

やり返したくて手を伸ばすがリーチの差、届かない

「・・・でも悪くはありませんね」

独りで納得したらしく手を離された

離れる瞬間労るように優しく撫でられる

・・・結局何だったんだろうか。彼なりの愛情表現ならかなり屈折している

「ではまず沢田綱吉に会わなくてはいけませんね」

「?は、はい」

「でも肝心の沢田綱吉は君から逃げてる。守護者もアルコバレーノの言葉にも耳を貸しません」

「夜中に起きて待ってたらいけませんか?」

骸は僅かに目を臥せ首を振った

「無駄なセンサーがついてる男ですからね。きっとの狸寝入りなんてすぐバレます」

「・・・お部屋から出れないんです。外にはいつも誰かいるから」

部屋からの脱走は13回で挫折した

いつ何時でも見張るようにいいつかっているらしいメイド達は常にドアの外に控えていた

つまりが自力で会いにはいけない

キィンー・・・

まるで耳鳴りのような感覚と共に視界が霞む

これが目を覚ます前触れだと分かっている

しょうがありませんね。

僕が何か口実を考えておきましょう・・・

遠く遠く、骸の声がする・・・しかし、返事をしようにも視界は真っ白になっていき、何も見えなくなっていった