「今日で10日ですか」

呆れたような、感心したような骸さんの声にはこっくりと頷く

この10日のうち唯一リミッターなしで話し相手になってくれる六道骸には思わず愚痴をこぼしてしまう

この10日の間で驚く程親しくなった人

「君も文句のひとつくらい言いなさい。

「・・・お話ししたくてもツナくんに会えないんです」

は寂しそうにため息をついた






い*ち*と*せ-綿柎開-






ほんの少し、目を閉じただけだと思ったのに起きたらツナ君がいなかった

代わりに隅に控えていたメイドさんからとんでもない話を聞かされる

曰く、今はもうパーティーのあった次の日になっていること

曰く、私は昏々と眠り続けていたこと

曰く、怪我をしていること

腕を切りつけられていたことをすこん、と忘れていた・・・だってあの時は痛いよりもじくじくした妙な熱とセシルのことで・・・

「・・・あの、セシルくんは?」

メイドは額に手をあてたり水差しを持ってきてくれたりとまめまめしく働いていた

お嬢様が心配なさるようなことは何も伺っておりません」

が身体を起こそうとすると慌てて止められる

お嬢様、これから診察がありますのでどうかそのまま」

メイドが言うやいなや白衣を着た集団がぞろぞろやってきた

怪我の具合をと腕をとられその間中次々質問が降ってくる

どこか痛いところは?

眩暈は?

食欲は?

とにかく大事をとって動きまわらないこと、まだしばらくベット生活をしてもらう。部屋から出ないこと

「解りましたね?」

強い口調で言われ思わずは頷いた


去っていく白い軍団を見送るとまたメイドが毛布を持って迫ってくる

「・・・あ、あの」

眠くないんですけど・・・

しかし、メイドは首を振るだけだった

「今必要なのは休息です」

どうかご自愛下さい

きっぱりと言い切られ更に「わたくしは外におりますので何か御用の際はお声をかけて下さい」

では。とご丁寧にライトまで落とされ扉が閉じられ・・・一人きりになってしまった

・・・これでは本当にすることがない

(ツナくんとお話したかったですけど・・・)

仕方ない、モゾモゾと寝返るをうち枕に顔を埋めた

・・・あ、眠れるかも・・・

ゆっくりと呼吸をすればやや遅れて睡魔がやってくる。はその波に身を委ねた・・・

次に目を覚ますとリボーンが訪ねてきてセシルの無事を伝えてくれた

その次に部屋へ駆け込んできた獄寺はスライディング土下座というすご技を披露し、ひら謝りを受けてを辟易させた

医者の診断である以上おいそれと出歩けない

ベッドで過ごす一日は長いがはおとなしく従っていた

しかし。この軟禁生活が10日も続くとさすがのも可笑しいと気付いた

軟禁、その言葉がピッタリくる

時折尋ねてくれるリボーン達はものの5分もいられない

監視カメラでもあるのでは、というタイミングでやって来る白い軍団に追い出されてしまうからだ

更に部屋の扉前には24時間体制でメイドがいる

おかげで抜け出すことは不可能

「あの・・・私もう元気です」

お医者様に訴えるが見事にスルーされ、メイドに訴えても困った顔で首を振るだけ

ツナには最初の日以来会えない日々が続いた

一日中寝てる。誇張ではなく

「お喋りも外出もできないなんて寂しい日々ですね。

「骸さんがいてくれるから寂しくないですっ」

意地悪そうに笑いながら言われたので思わずもムッとして返す

そしてそれは骸のツボを突いたらしい。・・・笑われた

六道さん改めて骸さんになったのは「僕はと呼ぶのに君は僕のことを名前で呼んでくれないんですか」と言われたからだ

少し困った顔で「・・・む・く・ろ、さん」と呟くと「壊れたロボットのような酷い発音ですね」と言われた

笑顔で辛辣な言葉を紡ぐまるでチュシャ猫のようなひと

眠る時間が増えれば当然夢をみる時間も増える

「おや、また来たんですか。君も暇人ですねぇ」

意地悪そうにちくり、と言うので最初は無言だったも(だってこれは私の夢なんだから)

さすがにこうも緻密でとても自分の想像力とは思えない世界観にこれがただの夢でないと認識せざるを得なかった

「当たり前ですよ。これは君の夢ではなく僕の夢というほうが近いんです」

「・・・はぁ」

いくら生身が外に出れないからといって他人の夢にお邪魔するのは如何なものか。は思わず唸ってしまう

「せっかくですから話し相手になってあげますよ」

暇なんでしょう。なんてニッコリ言うものだから

「・・・骸さんも暇なんですか?」

むにゅ、と両頬を引っ張られた

「ひ、ひゃ(い、痛い・・・!何するんですか)」

「生意気な口ですねぇ。素直にありがとうくらい言ったらどうですか」

ちくり、と攻撃されてもムッとして反撃する。こんなやり取りを4、5回繰り返して気付いた

彼は自分を子供ではなくまるで対等のように扱う

それがには新鮮で楽しく、つい噛み付いてしまう

じゃれあう存在なんて日本でもイタリアにきてもいなかった

「沢田綱吉とは会えたんですか?」

不意に瞳を覗き込まれ、はその顔に淋しさを浮かべた。ふるふると首を振った

骸と向かい合う形で湖のほとりに座り込む

ここがと骸の定位置だった

「・・・ツナくんはきっと・・・セシルくんと内緒で外に出てさらわれ掛けて・・・たくさん迷惑をかけたから・・・

 きっと・・・わたしのこと・・・嫌いになったんですよね・・・」

「さらわれかけて、じゃなくて実際さらわれたんでしょう」

「・・・」

腕をとられ、その中に閉じ込められる

「怒ってると嫌いなるは違いますよ」

「・・・」

この夢の世界は温度が無い。だから湖も冷たいとは思わなかったのだ

(骸さんの体温が、わからない)

だけど優しさは伝わる

「沢田綱吉は子供ですねぇ。君を閉じ込めて飼い殺しをするなんて」

「かいごろし・・・?」

「あの部屋がの世界全てになると言うことです」

・・・それは

「愚かです。何度同じことを繰り返すんでしょう」

このお伽話のような世界に溶けてしまいそうな声で骸は呟く

「なまじ今のほうが力があるので・・・アルコバレーノも口出しできないでしょうね」

「・・・アルコバレーノって何ですか?」


キョトンとした瞳で見上げると骸は軽く目を見開いた

「君はどれくらい知ってるんですか?」

父親のこと、マフィアのこと、ボンゴレのこと、守護者のこと、アルコバレーノの家庭教師のこと

「・・・すこぉし、だけ」

「すこぉしですか・・・」

ふぅむ、思案げに顎を頭の上に乗せられて「ふゃ」と変な声が出た

「無知は罪、という言葉があります」

口は開かない、否開くどころか動けない

・・・しょうがないので頭の中で考える

・・・無知は罪

「世の中知らなかった、では済まないことがたくさんあります」

(・・・はい)

「どうして君が部屋から出して貰えないのか、君の友達がどうして誘拐されたのか、そしてどうして君が父親と離れて暮らしていたか」

(・・・骸さんは)



「知らないことは、辛いでしょう」



頭から重みが消える

頬に手が添えられる

綺麗なオッド・アイが細められる

何もかも見透かすような笑みに涙が零れた

その涙の後をなぞるように唇が降りてくる

「骸さんは・・・」

「はい。何でしょう」

「何かえっちぃです」

「・・・」