「此処で誰かに出会うのはクローム以来です」

「クロームさん?」

「君と会えたことをとても喜んでましたよ。

綺麗なオッド・アイを細めながら笑う

六道骸さん。彼はそう名乗った






い*ち*と*せ-蒙霧升降-





ふと、気がつくと一面真っ白だった

(あ、れ・・・?)

自分は一体どうしてこんなところにいるんだろう

そろりと足を動かすとくすぐったいような感触が伝わってくる

裸足だった

(あれれ・・・?)

思わず見渡すとはコットン製のワンピースに身を包んでいた

こんな服持ってただろうか。覚えていない

さくり、と素足は深い緑を踏み締める

緑・・・そこでようやくは白いものが深い霧で自分は森のような場所にいるのだと理解した

・・・どうしてこんな場所にいるのだろう

さくり、さくり

柔らかな草木を踏み締める音だけが耳に響く

とても静かなのだ

さくり、さくり

だんだん不安になってきた

ここは一体どこなんだろう

なんでこんな場所にいるのか、は思い出せない

とにかく前へ、ここではない何処かへ行かなくては

足は段々と駆け足になり焦燥感が込み上げてくる

「っ!」

足が動かなくなった

何かの力がの身体を止めてしまったから

妙に足が重い

よくよく見ると足首まで水に浸っていた


「水入自殺希望者ですか?」

柔らかく、耳に残る声だった

少しずつ霧が晴れてきて、水は大きな湖の一部なのだと分かった

・・・そして、が動けないのは誰かが腕を掴んでるせいだと

「・・・あ」

「自殺する気がないなら上がってきませんか?」

じさつ。

そんな怖いことするつもり全然ない

返事するより早く身体がふわりと浮いた

抱き上げられたのだ

この見知らぬ人に

「あのっ」

「濡れた足のままでは汚れてしまいますよ」

・・・確かにそうだけど・・・

そのまま腕に乗せられ目線がぐっと近くなった

(・・・色が違う・・・)

オッド・アイの瞳が細められた

「・・・君は」

「あ、あのっ・・・ありがとうございます・・・」

彼が止めてくれなかったらは湖にじゃぶじゃぶと入っていったに違いない

そうすれば足だけでなくワンピースも濡れてしまっていただろう

それはとても不自然なことなのにここでは有り得るのだ



「は、はいっ」

・・・あれ?

「どうして・・・わたしの名前・・・」

「沢田綱吉の子供。沢田・・・でしょう?」

思わず頷くと猫のように目を細めて笑われた

「僕は六道骸と言います」

「六道、さん」

「クフフ。君は随分と警戒心が薄いですね。こんな見ず知らずの人間に正体を明かすなんて」

「・・・」

馬鹿にされた・・・?

悪意というほどはなく、しかし好意的とも言えない

人の感情に敏感なはへにょり、と困った顔になった

「・・・六道さんは・・・怖い人じゃ、ないですから」

「おや。判りませんよ。怖い人がいつだって怖い顔をしているとは限りません」

どこか楽しげでもある言葉には首を振る

「怖い人は・・・わかります。六道さんは・・・怖くありません」

目に見える何かではない

おおよそ勘と呼ばれるものだがそれは外れたことはなかった

「・・・超直感は立派に受け継がれているようですね」

「?」

よくわからない。

黙って見つめていると小さく笑われた

「僕が怖くないと言えるのは普段よほどの人達と過ごしているんでしょうね」

「そんなことないですけど・・・」

反論しようとしたが骸はどこ吹く風で歩き出した

さら、さり若草が揺れる音が聞こえる

改めて見ると湖はとても大きく、青々とした木々が生い茂っている

まるで絵本の中のような世界だった

「ここはどこですか?」

「夢の中。という表現が一番合ってる気がしますね」

夢?

ふいに視界がぼやけ始めた

「おや、もう時間ですか」

綺麗なオッド・アイがよく見えない

「また逢いましょう。・・・

優しい手つきで頬に触れる

返事をしたのに声が出なかった


***

右手が痛い


唐突にそう思った

それも何かに引っ掛かっているみたいで手首から先が動かない

「む、ぅ」

力ずくで動かないかな、と力を入れてみる

重たい瞼もゆっくりと持ち上がった

「・・・

「・・・は、ぁい?」

名前を呼ばれて返事をするのに何故か時間がかかってしまった

喉かカラカラで声が上手く出て来ない

っ!?」

耳が痛い・・・

ふるり、ともう一度瞬きをすると大きな目がかち合った

「・・・ツナく、ん?」

・・・あ、右手・・・

ツナくんが握りしめていたから

「良かった・・・!・・・!!・・・本当にっ・・・」

・・・?

「ツ、ナくん?」

身体がずっしりと重い

瞬きをもう一度したらきっと眠ってしまう

それくらい疲れていた

・・・起きたばっかりなのに眠い・・・

・・・」

「ツナくん・・・なん、で・・・」

泣きそうなんですか?

掠れ掠れ尋ねると僅かに息を飲む気配が感じられた

・・・駄目だ、どうしようもなく眠い・・・

ツナくんにまだ話したいことがたくさんあったのに・・・

「・・・ごめん。

どうして謝るの?


声になっただろうか