「こっちがデザート。あっちがメイン。僕はもうお腹いっぱいだからデザートだけ付き合ってあげる」

フルーツタルトを2切れ皿に移す

「すっごい大きなパーティだろ。僕のパパがしゅさい、だからこんなに人が集まるんだ」

一切れ食す

「僕のパパはすごく偉いんだ。あ、ジュースは何が良い?オレンジジュースが美味しいんだよ」

際限なく喋り続けていたセシルは返事が返ってこないことを不審に思いようやく振り返った

は大人のという人の壁に阻まれて5メートルほど後ろで立ち往生していた

はとろいなぁ!」

ズバリ突き刺さる言葉には思わず苦笑いを浮かべた






い*ち*と*せ-大雨時行-





とろい。それは幼稚園でも再三言われていた

言うのは専ら一人の少年だったが

・・・そういえば幼稚園に行かなくなってまだ数日なのにまるで遠い昔のことのようだ

!お前とろいなー!!』

そう言いながらも手を引っ張ってくれた少年

(ケンシ君元気でしょうか・・・)

?」

ふっと目の前に影が落ちた

「ご、ごめんなさい」

セシルがくるり、とした瞳で見つめていた

「ケーキ食べないの?」

「い、いただきます」

慌てて手を伸ばすとセシルはまた皿を埋める

次はプディングだ

「シュークリームも美味しいんだ。とってあげる」

こんもりと積み上げられたデザートタワーには少々辟易していた

甘いものは好きだ

しかし、これはちょっと胸やけするのでは?

そんなの心情に気付かずセシルは次々と話の花を咲かす

パーティーのこと家族のこと自分のこと学校のこと

ケーキの端っこをかじりながらはそんな話に耳を傾けていた

「え、街を歩いたことないの?!」

「あんまりお家から出たことないんです」

あんまり、というか唯一イタリアの街並をみたのはバジルに空港から送って貰った時だけだ

「なんで?」

「・・・」

なんで、と言われても困る。今のにとっては新しい家に馴染むことが最優先で外のことまで見てる暇がないだけ

不満に思ったことなんてなかった

(窓から見える世界で充分です・・・)

「・・・良いもの見せあげる!」

まぐ、とシュークリームを食べる手が止まった

セシルに引っ張られたからだ

慌てて食べかけのケーキを皿の端っこに置いた

「早く!」

「は、はいっ!え、と」

足を止めてしまったに焦れたのかセシルは無理矢理腕をとってまた走りだした

「っ」

ここに来る直前のことを思い出した

『俺は一緒に行けないからな・・・何かあったらツナを盾にしろよ』

悪魔のような笑顔でリボーンはそう言った

流石に頷けなかったので固まっているとリボーンはゆっくりと頬にキスをした

『・・・それが無理ならせめてツナの傍にいろ。目の届く範囲だ。分かったな』

疑問形ですらないそれは有無言わせない力があった

こっくりと頷いたを見てリボーンは満足そうにまたキスを送った

・・・約束、したのに

「こっちにね、秘密の道があるんだ!」

「ふ。ぁ」

楽しそうなセシルと転ばないように、と必死な

周りを見る余裕はなく、ただスカートの裾を踏まないように左右の足を動かすことで精一杯だった

「こっち!」

ひやりとした空気が火照った頬に触れる

「セシル君・・・」

「こっちこっち!」

強い芝生の香りがした

外に出たのだ、とそこでようやく解った

「あ、あのセシル君」

「昼間はもっとよく見えるんだけど」

かさり、と湿った土を踏む感触

更に足を進めるセシルは目を離せば闇に融けてしまうようで慌てて服の裾を掴んだ

怖いの?」

答えに困ってるに、しょうがないなぁ、と笑いながら手をとってくれた

「もうすぐ、だよ」



目よりも先に鼻が気付いた。僅かに遅れて目も暗闇に慣れてくる


「わぁ・・・!」

「綺麗でしょ?」

漆黒の中にぼんやりとした深緑

目をこらさないと見えないそんな葉と違って、花びらは淡く輝いているようだった

まるで逆さまのプラネタリウムのようだ

濃い赤色、よく見たら黄色とピンク色、それから暗闇で一番目立つのは白色

ようやく薔薇の花だと気付いた

「とっても綺麗です・・・」

「ママがすっごく大事にしてる庭なんだよ!」

引き寄せられるように花びらに触れる

はと、特別だから連れてきてあげたんだよ!」

「ありがとうございます・・・!」

しっとりとした手触りがベルベット生地に似てると称したのは誰だったか

まさにその通りだ

こんな幻想的な世界に出会えるなんて・・・

「昼間はもっと綺麗なんだよ!晴れてる日はね、空色と緑と赤色が綺麗なんだよ!」

思わずその情景を想像してはうっとりと瞳を閉じる

「今度見においでよ!」

ぱっとセシルの顔を見る

ほんの少し頬にピンク色がかかって楽しそうな笑みを浮かべている

つられるようにも頷いた

・・・否、頷こうとした

不意に顔を上げる

星は見えない

・・・?


***

にこやかに社交辞令を交わしていたツナはふと、愛娘の姿が見えないことを疑問に思った

「あれ・・・獄寺君」

「はいっどうなさいました十代目!?」

きのせいだろうか。いや、やはり姿が見えない・・・

どの辺りにいるかな?」

「お嬢様ですか?お待ち下さい・・・」

同じように周りを見渡し始めた獄寺はやはり同じように首を傾げた

視界にあの可愛らしい姿は見当たらなかったんだろう

ざわり、と胸騒ぎがする

そんな気持ちを振り切るようにツナは窓の外に目を向けた

・・・昼間はあんなに晴れていたのに空には星がほとんど見えなかった

嫌な予感というものは当たるのだ