亮がこんな風に笑うのを見たことがあるのはきっと私だけだ
男の子と取っ組み合いの喧嘩をした時
料理に失敗して泣いた時
お父さんがいないことを馬鹿にされてお母さんに八つ当たりした時
困ったようなちょっと呆れたように笑う
それは『お兄ちゃん』の顔
本日ハ晴天ナリ
意地っぱりであまのじゃく
負けず嫌いに短気で冗談は通じない
いつだったかは自分をそう称した
だけど俺に言わせてもらえばそうじゃない
を言葉にするなら馬鹿が一番あう
本人は気付いてないがコイツほどわかりやすいやつはいない
要は馬鹿正直なのだ
「馬鹿ぁ…」
なのでから馬鹿と言われるのは些か抵抗を感じる
が今はあえて何も言わないでおく
「し、勝負意識持つのは勝手だけど今じゃなくてもいいでしょっ 水野君に突っ掛かってばっかりで」
「悪かったよ」
「ばかぁ…」
人の肩に頭を押しつけるようにして泣く 後頭部をぽんぽん、と撫でてやる
そうすると更に声を上げて泣く
まるで昔に戻ったみたいだな、と苦笑する
「私はっ・・・亮は絶対選ばれると思ってたのっ・・・」
途切れ途切れに必死で言葉を紡ぐ
これだけ盛大に咽び泣いているのにそれを認めるのが嫌!とでも言う風にしゃべり続ける
(・・・変わってねぇな)
思わず頭に手を伸ばす
するとビクリと面白いくらい肩が反応した
このあとの展開は決まっていた。頭にやっていた手にほんの少し力を入れてやるとあっけなくの体は傾いた
ぼすっ、と肩に頭を乗せてその体勢で止まる
ぽん、ぽん、と柔らかなリズムととってやると一段と大きな声で泣き出した
・・・ほんと変わってねぇ
「・・・私はもうサッカーしないからっ」
「は?」
今回はほぼ全面的に自分が悪かったので口をはさまないでおこうと思ったがそんな誓いはあっけなくも崩れ去った
「何でだよ。今回俺が落ちたのとお前は関係ねぇだろ」
その通りである。
言葉にすると意外にあっけなくて それでいて普通に言葉にすることができたことに驚く
だけどそれとの言葉は別物だ
「まさかお前、俺がサッカー辞めるとか思ってんじゃねぇだろうな?」
「っそんなことしたら一生許さない!」
即答
じゃあ何でだ?
ふ、と気配を感じてぐるりと回りを見回すと騒ぎを聞きつけてきたのか、帰る準備ができて出てきたのか
ちらほらと人がいた
そりゃあコートのど真ん中で大声で泣いてれば注目も浴びるよな
だけど今回は我慢しよう
はたから見れば抱き合ってるようにしか見えないこの姿勢も
「・・・やるんだったら一番になりたい」
「女子プロ目指せば?」
「女、の子の中じゃなくて世界でトップを目指したいのっ」
・・・それはまた壮大な夢である
つまりは女子の中でトップを目指すということは論外で(しかも規模は世界)やるんだったら男女混合 男子を蹴落として1位になりたいらしい
「・・・無理だな」
「無理、でしょ」
思わずつぶやいてしまったがも間をおかず同意してくれた
確かに負けず嫌いな性格だったと思うがここまでくると自分の教育方針が間違っていたのかもしれない・・・あとでお袋に相談してみよう
男女の力の差というものは変えられない
特にサッカーのようなスポーツ面では体格の差体力の差が嫌というほど見せつけられる
まだ今は良い。だけどこれから・・・
「私は亮とサッカーできなっいんだから」
意味を考える
思考時間約8秒
「わ、私は亮たちと一緒にサッカーしたいんだもんっ
女の子ばっかりじゃなくてっ
怪我したってカッコよくて最後にはユニフォーム交換とかするのっ」
それは一種の偏見じゃないか?と最後のほうは思ったがあえて口に出さなかった
言いたいことは何となく伝わったから
確かに自分が知っているは男子に混じってサッカーをしていた
もちろん最近のがどうしているのかはほとんど知らないが(かろうじてサッカー部のマネージャーをしてるのだけは聞いた)
きっと同い年でサッカーをしてる女友達なんてほとんどいないだろう
ずっとそうだったのだ
何となくわかった
つまりはこれまでと変わらないでサッカーをするのが好きだったんだろう
似ているかもしれないが意味は全然違う
止めていた手を再開させてまた軽く頭を撫でてやる
一層大きな声で泣き出す妹に小さく笑った
自分は救われたのだ
この存在に
いつだって自分の分まで悔しがって泣いてくれて それで喜ぶときは人一倍喜んでくれる
選抜に落ちたことを後悔していないか、と聞かれればしていないわけじゃない
だけど
自分の心をそのまま融かしだしたかのように泣きじゃくる姿をみてふっきれたことは間違いなかった
-------------後書き---------------------------------------------------------------------------
脱兎。
書きたいことがたくさんありすぎてまとまりません。
お兄ちゃんなみかみんを書くのはたまらなく楽しい・・・。年相応なちゃんがかわいいんでしょうか?笑
対になるお話が次回続きます。
4月9日 砂来陸
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