あの時よりはずっとずっと大人に近づいたつもりだった

取っ組み合いの喧嘩だってしなくなったし料理も覚えた

なのに

今の私はここの誰よりも子どもだった







本日ハ晴天ナリ





例えるならお母さんに「おもちゃ屋さんいくわよー」と言われてわーいと喜んでいった子どもが

実は歯医者さんに連れて行かれました そんな感じだ


・・・どんな感じだ

一人ツッコミが虚しい。だけど一人になりたいって願ったのは自分で

もしも私が羞恥心をどこかに落としてるんだったら力一杯声を上げながらこの芝生を駆け回りたい

ざっざっざっさっきから足音だけがする

他の音は何も聞こえてこない

もちろんそんな事有り得なくて 私の耳がそうさせているだけで

空は青いのに私の心はぐちゃぐちゃだった




びくっと大げさに体が動いてしまう

あ、なんか胃までキリキリしてきた。そんな可愛らしい神経じゃなかったと思うんだけど私

ギシギシ擬音をたてながら首をちょっと回す

「・・・何してんの翼」

明らかに見下ろすカタチになっていたんだろうみるみる内に翼は不機嫌な顔になった

・・・麗しい顔が歪んでおりますよ。

「随分な言葉だね。何してんのはこっちのセリフだと思わない?」

「・・・何で来たの」

「徒歩だよ。文句ある?」

・・・そんなの聞いてない

が。

 泣きそうな顔してたんだよ。お前の様子が変だ、って暴れてた」

・・・暴れてたって・・・すごく帰りづらいよ

「ちょっと色々考えてるだけだから・・・ほっといて平気だよ」

「わざわざ来てそれだけ?」

胃が痛い

目頭も熱いし鼻の奥もツンとする

頭の中はぐちゃぐちゃだし良いところは無し

翼が心配して来てくれた(に言われたからかもだけど)のは分かってる

だけどその心配を素直に受け止めることが出来ない

翼がイライラしたような声を出すけど

私も負けず劣らずイライラしてきた

「・・・残ったんだね」

絞り出すようにして出てきた言葉

「まぁね。」

当然のように言う翼にさらにイライラが募る

翼が悪い訳じゃない

だけど私の心は追いつかない

「結果発表は一通り終わって今はもうそれぞれ帰る準備始めてるよ。」

「じゃあ翼も急いだら」

「何だよその言い方」

つっけんどんな物言いに翼もかちんときたようだ

だってこんな言葉しか浮かんでこないんだもん

私だって本当ならこんなこと言いたくないし

笑っておめでとうって言ってあげたい

いえるものなら

・・・もういいや 今ここで翼と喋っても良いこと言える気がしないし(むしろ悪態つきそう)

「私はもうちょっとしたら部屋に戻るから翼は先に戻ってて。じゃ」

首だけ後ろに回していたのを元に戻す

それからまたさっきよりも早いスピードで歩き出した

「何怒ってんだよ!」

ざっざっざっざっ音が二重に聞こえる

私の態度がどうにもお気に召さなかったらしい翼が追いかけてくるからだ


「怒ってない!!」


振り返ることすらしないでそう叫び返す

怒った顔に見えるかもしれないけど怒ってない!

不機嫌に見えるかもしれないけどこれは不機嫌な顔じゃない!

子どもの頃から変わってない私の癖


「じゃあ何で逃げるんだよ!」

「翼が追いかけて来るからでしょ!?」

一人にして、って言った。一人じゃなきゃ嫌

だって今の私はどうしようもなく不安定で

怒ってるって言われるならそれは

が逃げるから追いかけてんだろ?!

 何で僕が怒られなきゃいけないんだよ!」

だからっ


「怒ってないんだってば!!」


もういっそ走って逃げようか、なんて考えた時ぐんっ、と腕を引っ張られた





なんで

翼が強硬手段に出たのかと思ったけど引かれると同時にした声は違っていた

今、一番聞きたくなくて

「アンタ・・・三上だっけ?」

「そういうお前は・・・えーっと椎名だったよな?コイツに何か用か?」

腕を取られてしまってから動くのを止めてしまった

耳がぐわんぐわんする

「何でわざわざ教えてやらないといけないの?こっちの話に首つっこまないでよね

 そっちこそまさかとは思うけどナンパとかそういう類だったら馬鹿としか言いようのない行為だと思うんだけど?」

「・・・そんなんじゃねぇよ。

 に用があるんだったらまた後にしてくれ」

「はぁ?」

馬鹿亮。もうちょっと考えて物言いなさいよ。翼って邪険にされるの嫌いなんだから

「ちょっと「

きっと今の亮は翼を見向きもしてないんだろう

私は歩いてる途中で後ろから腕を取られたからきっと今の亮は私と翼の間に割って入った状態で

思いっきり翼の言葉に被せて亮は私の名前を呼んだ

顔を見る勇気がない

だけど腕を払って逃げることもできない

「いきなり割り込んできて一体何な訳?そっちこそ後にしてよ」

苛立だしげな翼の声



なのに全然聞こえません、っていうくらい綺麗にスルーして私の名前だけを呼ぶ

。こっち向け」

亮の声はずっと平坦だった。思ってたよりもずっと

3回目の呼びかけでようやく顔を上げる

ゆるゆると方向転換

捕らわれてた腕は変わらないだけど亮と私が向き合うカタチになった

だけど顔は上げられない。無意識に唇を噛みしめてた

無言

不意に捕らわれていたハズの腕が外れた。と、思ったらその手は頬に添えられた


至近距離で視線が合う


両頬に添えられた手は勢いよく持ち上げられ強制的に上向きにさせられた

だから視線が合ってしまった

今、一番会いたくなかったひと

眉間に力を入れて唇は噛みしめたままで

翼の言う怒った顔、だ

なのに

目が合った亮は小さく笑った

添えられていた手が離れていく

だけど今更視線は外せない




「なに泣きそうな顔してんだよ」




どうして



どうして


どうして


どうしてそんなに私を知ってるの

堰は崩壊した


「・・・っ亮の馬鹿ぁ!」

まるで小さな子どものように私は声を上げて泣きだした







---------------後書き------------------------------------------------------------------

どうしようもなくこの話は書くのが楽しかった。
みかみん効果?! それともすごく書くのを楽しみにしてた話だから?
翼さん何処いったの?なんてツッコミは止めて下さい。きっとぽかんとした顔で二人の後ろに立ってます。笑

                            2月8日 砂来陸

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