見かけたのは偶然で酔っぱらってるみたいに右へ左へふらふらしながら歩いてるから

横を通り過ぎることも出来ずにしばらくそのまま見てた


あ、壁にぶつかった




本日ハ晴天ナリ





「・・・じゃあ明日の予定はこの資料の通りに・・・」

眠い。

言葉が断続的に聞こえるのは決して耳が悪いわけではなく私の意識の方が断続的にしか保てないんだろう

眠気というのは不思議なもので波がある

日中体を動かしてる時はあんまり感じられなかったのに机についた途端にやってきた

「そこのマネージャー。聞いてるのか?」

ぼんやりと像を結んでいた視界がいきなりリアルになった

「・・・聞いてます」

半分嘘だ。嘘つきは閻魔大王に舌を抜かれるなんて言葉を思い出した。喋らなくなることより味が分からなくなる方が大変だ、とお母さんに言ったときお母さんは何て言ったっけ?

「君は午前中も騒ぎを起こしていたな。あぁいう態度ばかり取られるとこちらも困る。

 せっかく推薦してくれた西園寺コーチには悪いが・・・」

イライラにイライラが重なって短気になってる自分がいる。現に今だって

(・・・このてっぺんハゲが。

その残り少ない希望にバリカン入れてやろうか・・・?)

なんて思ってるので

・・・思ってることが顔に書いてないことを祈ろう。

「監督ー、ちゃんも疲れてるんですよー。ホラホラ、1日炎天下で働いてたんですからー。ね〜」

ぐいっと腕を引っ張られたかと思うと一気にそうまくしたてた

さんが

「それじゃ失礼しまーす。お疲れ様でした!」

とびっきりの笑顔でそう言われたら何も言えまい。

ついでにに手を握られれば私も何も言うことは出来なかった

「よぅし、ご飯食べに行こっか!」

「さんせーい!」

「・・・私パスで」

え、と言う声がダブルで届いた(元気が良いなぁ二人とも・・・)

「お風呂行って・・・先寝ます・・・」

ほかほかのご飯より、美味しいオカズより、今は布団が恋しい

「えっえっちゃんご飯食べないの?」

「・・・大丈夫。1食抜いたくらいじゃ死なないから」

フラフラと足はもう浴場へ向かってる。後ろからが「転ばないようにねー!」と叫んできて思わず転びそうになった(私は3歳児か)

案の定浴場は入るときから出るときまで一人だった

ノロノロと着替えを済ませてそこでようやく眠る準備が出来たとため息ともつかない一息ついた


廊下はとても静かだった

きっとみんなご飯を食べに行っているんだろう

ふわぁ、と生あくびを噛みしめながら自分の部屋へ向かう

いや、正確には向かおうとした

踏み出した瞬間膝が砕けた

(あ、あれ?)

何か踏んだわけじゃない。力が抜けたって方が表現として正しい

突如強烈なめまいに襲われる

うそ

気持ち悪い!

脳みそが直接揺らされてるような気分だ

グラグラする

(やばい)

目の前の景色はグニャグニャするし口の中は乾燥してネバネバする

(最悪だ!)

渾身の力を振り絞って壁によっかかる

横倒れよりマシだろう

(・・・帰りが遅いからってさんが来てくれないかな)

こんなことならみんなと一緒にご飯食べれば良かった

胃から何かこみあげてくる感じが否めないけど何も食べてないからすっぱい味だけがする

冷や汗が出てきた

(意識がとびそう・・・)

壁伝いに徐々に体を沈めていく。


「大丈夫?」

・・・誰?

恐ろしいことに視界の半分以上が黒い斑点のようなもので覆われていて声の主なんて見えやしない

「立てる?」

返事をしようと口を開いたが乾ききってて音が出なかった

足に力入らないから立てないと思う・・・と言いたかった

「立てない?ならもう少しちゃんと壁に持たれかかった方がいいよ。」

言われるがままに体勢を変える

あぁ確かにこの方が楽だと思った

「これ。飲んで」

目の前にぬっと出されたのは蓋の空いたペットボトル

何も考えずペットボトルを手にとる

こくん・・・

喉を通る液体が酷く心地よい

「美味しい・・・」

ごくごくと喉に流しこむ

そうしてめまいも収まってきた

そしてようやく目の前の人をみた

・・・えぇっと

「・・・MFの人・・・?」

「もしかして全員のポジション覚えてるの?」

淡々とした調子で言われてしまったのでもしかしたら間違ってるかもしれない

でも確かMFだったと思ったんだけど・・・

「立てる?」

うーん、と考え込んでるとごく自然に手を差し出されたので反射的に私も手を伸ばした

思ったよりも強い力で引っ張り上げられて持ってたペットボトルがぱしゃと音を立てた

もう3分の1も残っていない中途半端なペットボトル

「あ、ジュース代・・・」

「別に良いよ。元々飲みかけだったし」

繋がっていた手がこれまた自然に外される

「それじゃ、早く休んだ方が良いよ」

と去って行った



手が、とても綺麗だと思った





------------後書き----------------------------------------------------------------------------

彼は誰ですか?
結局最後まで自己紹介しなかった・・・何だこのうだうだっ!
分かる人は分かったと思いますが私の中で彼のイメージはこう・・・淡泊な感じ
でもまぁ人の印象って変わるからね。三上んだってそうだったし。

                                 8月9日 砂来陸

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