いきなり引っ張られたのはほんとにびびった

何言っても無視されて軽く泣きそうになったくらいだ

だけど文句を言ったことを今は後悔したい

「そっち頼んで良いですか?」

もちろん

心底疲れ切った声で言われて即座に頷いた




本日ハ晴天ナリ






色々と怒鳴りつけてやりたい、と思った

だけどそんなことをして何になる

私が声を張り上げた所で二人の酔いが醒める訳でもない

ましてやこの状況が良くなるわけでもない

そう考え直すと怒鳴り声のかわりに深い深いため息が零れてしまった

「あの」

何の前振りもなく視線を横にスライドさせる

名前を呼んだ訳でもないがこの中でまともに意識があるのは彼だけできっと彼も自分が呼ばれていると気付いたんだろう

固い視線を向けてきた

何故だかそれだけで意思疎通出来てしまった気がしてしょうがない

「そっち頼んで良いですか?」

そっち=さん という方式を勝手に省略させて言った訳だけど彼はすぐさま頷いてくれた

・・・もしかしたら本当に意思疎通が出来てたのかも

さんの事は彼にまかせよう

私はこのひっつき虫にして泣き上戸もといをどうにかしなくてはならない(あぁ、あと部屋の片づけも・・・)

「・・・

名前を呼ぶとびくり、と身体が震える

抱きついた体勢のままだったのでそれが直に伝わってくる

。泣きやんで」

「だ、だってちゃん怒ってるっ・・・」

が思ってる程は怒ってない」

どっちかというと呆れてるんじゃないかしら?

ぽん、ぽんと優しく背中をさする固く握りしめられていた手は徐々にほぐれていった

「・・・ほんとーにっ怒ってない?」

「怒ってないよ。だから今日はもう寝なさい」

酔っぱらいは早く眠らせてしまうに限る、というのは自分の経験上だ

三上家にはかなりの酒豪で酔えば酔うほどさらに酒を欲しがるという人種がいる

「お酒ーちょーだいっ」と九官鳥のように繰り返す母を「はいはい」と適当にあしらってそのまま部屋に押し込む

そのまま放置してれば寝息が聞こえてくるという寸法だ(もちろん部屋に押し込むまでは様々な努力が課せられる訳だが・・・)

ちゃんは?」

さんは弟さんがどうにかしてくれる」

たぶん、という言葉は飲み込んだ

はしばらく私とさんの方を見比べてそして小さく頷いた

よし。

そのままベットに促してやる

抱っこでもして運んであげても良いけどまだ自分の足で歩けるだろうという判断だ

本来は下のベットは私が使う予定だったんだけど上のベットから寝ぼけて(酔っぱらって)落ちてきたら大変なので交換することにしよう

布団に半分顔を隠しながら相変わらず眉を八の字にして小さく「おやすみなさい」と呟いた

「はい。おやすみ」

布団の上からぽん、ぽんとリズムを取ってやると気持ちよさそうに瞳を閉じた

・・・小さい子供を寝かしつけてるような気分になるのは気のせいだろうか?

リズムを取る手を止めないままふと、思う

さんの方はどうなってるんだろうか?

上半身をぐっと伸ばして覗いてみると『かじゅま』は何故かさんの鞄を探ってる所だった

そうして鞄から何かを取りだした

(・・・パック?)

それはマスクでもましてやジェイソンが被ってるお面でもなくたぶん世間一般の女性だったら一度は使った事のある化粧用のパックだった

それからはちょっとした見物だった

暴れるさんに馬乗りし「ねーちゃん暴れんなよっ!」何て言いながら(力ずくで黙らせるとかだったらどうしよう・・・一応、暴力反対)さんを足で押さえ込んだ

呂律が回らない言葉で反抗をしていたさんだったがパックを顔に当てられると冷たいのか変な奇声を上げてそのまま動かなくなった(え、何!?)

呆然とその様子を見つめていると動かなくなって安心したのか『かじゅま』は馬乗りを止めてそっと身を起こした

そしてそこで目が合った

「・・・」

「あ、あの、うちのねーちゃんこのままほっといて良いから」

「え?」

「しばらくすれば寝ると思う」

よく意味が分からずベットから降りて近づくと本当にさんはネジが途切れたように動かなくなっていた

「パックすると動いちゃいけない、って分かってるみたいなんだ」

「・・・なるほど」

確かにパックしてるときって笑ったり口動かしたりしないものだけど・・・

そして確かにこれは家族じゃないと対処できないだろう

しばらくして小さくさんの寝息が聞こえた もいつのまにか寝付いてる

安心しきった寝顔を見てしまうと何とも言えない気分になってまたため息が零れてしまった

「「・・・はぁ」」

全く同じタイミングでため息があった

私もびっくりしたけど向こうもびっくりしている

ただ純粋に驚いているだけの視線に安心している自分がいる

「・・・さんは酔うといつもこんな感じになるの?」

何となく思ったことを口にする

『かじゅま』君はその言葉をゆっくり咀嚼するように瞬きをした

「あ、あぁ。すげー際限なく酒飲みたがる・・・」

(全く同じタイプがうちにもいます)

心の中でこっそり言う

「ねーちゃんホント酔っぱらったら手に負えないんだ。

 部屋に閉じこめたら窓から脱走して自販機まで缶ビール買いに行った事もあるくらい」

「それはすごいね・・・」

さすがにうちのお母さんはそこまでしない。・・・まぁうちはマンションで窓から脱走なんて図ったらほぼ99%の確率で怪我をするだろう

「そん時は通りかかった近所の人が教えに来てくれてどうにか連れて帰った」

『かじゅま』君に羽交い締めされて家まで連行されるさんが目に浮かぶ

思わず笑ってしまった

・・・そして何故かひとしきり笑い終わると『かじゅま』君がこっちを凝視してることに気付いた

あ、あれ、今のって笑うところじゃなかった?

「あ、の」

ノックが聞こえた

ビクッとあからさまな反応をする私と『かじゅま』君

そして開けられてはたまらないとドアにダッシュし、ほんの数センチだけドアを開けて顔を覗かせた

「こんばんは。ちゃん」

麗しき笑顔がそこにあった




--------------後書き--------------------------------------------------------------------------------

ダラダラ感満載。
自分の更新の遅さとか話が色々ぶつ切りな所とか凹むところが多いです。
それでもかじゅま君をたくさん登場させてあげられたのは・・・うん、唯一の+かもしんない

だってこれ、もう何年越しの連載になるよ?

                             07 12月30日 砂来陸

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