謎の手から逃れようと暴れる

灯りもついていない給湯室に引っ張り込まれて恐怖は最高潮だった

「おいコラ、暴れんな」

耳元で低くそう囁かれるまでは

(え、嘘・・・)

抵抗を止めると相手も塞いでいた口だけは解放してくれた

「・・・亮?」




本日ハ晴天ナリ





「何で疑問系なんだよ。偉大なるお兄様の声も忘れたのか?」

「・・・まさかでもこんな誘拐犯みたいな真似するのが自分の兄貴なんて思わなかったのよ」

口を押さえていた手は放してくれたもののもう片方の手はまだ私のお腹の辺りにあるままだ

放してくれないので仕方なく首だけ後ろに向ける

「こんなところで何しぃーぐえっ!?」

「色気のねー声」

・・・誰かさんが思いっきり手に力込めた所為なんですけど

思いっきりお腹に食い込んだんですけど

軽く殺気を覚えささやかな反抗として亮を睨みつけてやろうと思ったけど目が合った亮はとっても


笑顔だった



(怒ってる)


頭の中で警報機が鳴ってる

冷や汗だらだらで出来ればここから猛ダッシュで逃げ出したいところだけど少しでも身じろぎすれば亮の手が更に力を込めるので動くことすらままならない

「・・・あ、亮さん?」

「なーにチャン?」

怒ってる

すさまじく怒ってる

(怖い怖い怖いーっ!!!!)

何なんだ一体

やっと晩ご飯も食べられて長い一日がようやく終わりに向かってるっていうのに

意を決して恐る恐ると首だけ後ろに向けた(出来るだけ体は動かさず!これ以上締め付けられると内臓的なもの出てきそうなんで!)

「何で怒ってるの?」

「身に覚えがねぇって言うんじゃねぇだろうな」

一つ大きなため息を吐いて亮はようやくお腹に食い込んでた手をゆるめてくれた

「・・・私の事で怒ってる?」

「そうに決まってんだろ」

ようやくちゃんと亮の方を向くと亮はあの嫌な笑顔(って言ったらたぶん拳骨をもらう)じゃなくて、呆れたような怒ったような顔だった

懐かしい、とぼんやりと思ってしまった

ぐわしっ、と頭を掴まれる

トリップしそうになってた思考が一気に引き戻される(ていうか痛い!)

「お前何しにここ来たんだ?」

「な、何って・・・マネージャーをしに」

ますます重力がかかる(痛い痛い!)

「マネージャーって言うのはな、選手を癒すためにいるんだぞ?もう二人いたろ。あんなのがマネージャーだ」

うっ

「黒魔術が出来そうなくらい低い声で自己紹介したりとても女とは思えないおたけび上げたり
 なまはげ顔負けで包丁振りかざしながら選手を怒鳴ったりするのはマネージャーじゃねぇよ」

・・・・

「何か間違った事言ってるか?」

「・・・言ってません」

ざくざくと心に矢が降ってくるようだ。RPG風に言うなら『は100のダメージを受けた!』みたいな

確かに亮は全然間違った事なんて言ってない

・・・言ってないけどさぁ

「何でマネージャーなんだ?」

「え?」

「・・・いや、こんな所でマネージャーとかってそうそうなれるもんじゃないだろ」

妙に歯切れの悪い言い方が少し気になったけど今の亮に逆らうのは怖いので素直に質問にだけ答えることにする

「頼まれたの。私・・・今学校でもサッカー部のマネージャーしてて」

「学校でも?」

あれ、そういえば私 亮にサッカー部のマネージャーしてること言ったっけ?言ってないっけ?

「・・・友達とか、ちゃんとつくってんのか?」

きっと小学校時代の悲惨な学校生活が亮の頭をよぎったんだろう(私も思い出しちゃったけど)

なんだかんだ言って亮は心配してくれるのだ

それがちょっと嬉しくて、だけどどこか申し訳なくて

「一緒にマネージャーしてるショートカットの方ね、っていうんだけど・・・学校でも仲良しで

 クラスメイトとも・・・それなりに仲良く頑張ってる」

「マネージャーってあのふわふわしてる方か?」

ふわふわって・・・まぁ否定できないけどさ

「うん。それにサッカー部のみんなとも仲良くしてるよ。この合宿もね、参加してて・・・Bだから亮は知らないと思うけど」

何だか照れくさくて後半につれてぼそぼそ声になってしまった

だけど亮はちゃんと聞いてくれる

いつも頑張って自分の足だけで立ってようとするのに亮が隣にいるとどうしても寄りかかってしまう

そんな感覚


「ま、笑えるみたいで良かったじゃねーか」

「?」

くしゃっと髪を撫でられた

「あんま暴れんなよ」

「暴れてなんかないもん」

すぐさまそう反撃してみたものの亮は聞いてるのか聞いてないのか分からないようにまたくしゃくしゃと髪を撫でた

「じゃ、今日はゆっくり休め。んでやるからには明日もしっかり頑張れ」

「亮も」

「おう」

余裕綽々な亮の返事

自分は子供で亮に心配されてる、というのがありありと分かるものだった

それが悔しくてもう後ろ姿になってる亮に向かって叫ぶ

「ひ、人の心配ばっかりしてないで亮もちゃんと頑張ってよねっ!」

亮は振り返りもせずひらひらと手だけ振ってみせた


(・・・むかつく!)

悔しい。自分ばっかり心配されてるのもこっちが心配しても相手にされないのも

そして何より

亮に会えたってだけでちょっと元気になってる自分に



----------------後書き---------------------------------------------------------------------

うぅ〜ん・・・何かみかみんが普通に良いお兄ちゃんになってしまった(笑
まさかこれだけに一話使っちゃうとは思わなかったのでやべーなー

みかみんと久し振りにちゃんと会話させられたのにこんなんでごめんなさい

                               6月3日 砂来陸

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