「ありがとうちゃん!疲れてる時にこうやってすぐドリンク持ってきて貰えるとすっげー嬉しい!!」
デレデレという効果音が似合う声で藤代が言った
「ちゃんとさんってホント働き者だよねー!マネージャーの鏡って感じで!」
それは二人を褒めて一人を貶すことを意味している
そう、一人貶されてるのだ
本日ハ晴天ナリ
(誰かあの馬鹿を家に帰らせてくれ・・・)
と、切実に願ってしまった
一体何をどうしたらあそこまで強烈な悪印象を与えることが出来るのか、知りたい
あれは一種の才能じゃないだろうか
(アイツ何しにここに来たんだよ・・・)
ドリンクを飲みながらそっとのぞき見る
どうやら今からBの方の手伝いをするらしい
「・・・なぁ三上」
「何だよ渋沢」
「・・・いや、何でも無い」
呼んでおいてなんだそりゃ、と思ったが別にこっちに不都合があるわけじゃないのでそのまま深くは追求しなかった
(マネージャーさんが何も言わなかった以上三上が話してくれるとは思えないな・・・
そしてさっきからチラチラマネージャーさんを目で追ってる所はつっこむべきか・・・)
(あーぁ・・・アイツまた顔が強ばってら)
そんな彼等の心境などいざ知らず
「あら、今ちゃん一人?」
「あ、お疲れ様です。玲さん」
戻ってきたボトルを洗っていると玲さんがやって来た
ちなみに、玲さんがさっき言ったように今ココには私一人
2人はAチームへと無事送り出しました(無理矢理残ったとも言う)
「Bチームも休憩終わりですか?」
タオルとか回収に行きましょうか?という意味を込めてそう尋ねる
「えぇ。これからミニゲームをしてもらおうと思うの」
「それじゃあビブスの準備もですね」
玲はほんの少し目を丸くしてそして綺麗に笑った
「そうね。後グローブも二つ準備してもらえると助かるわ」
「はい」
返事をして踵を返す。途中で芝生を管理しているおじさんとすれ違ったので会釈をした
誠に勝手ながらこんな素敵な芝生を管理してるんだからいい人だろうと思った
そんな様子を玲は見ながらこっそりため息を吐いた
(何であんなにイイコなのに・・・要領も良いのに・・・
対人関係だけが破滅的なのかしら・・・)
選手のみんなに怯えた目、もしくは軽蔑した目で見られるのはどうかと思う
3人いるマネージャーの中で一番めまぐるしく働いているのはあの子だろうに・・・
(あれ、もしかしてこれって私がみんなに渡さなきゃいけないの?)
手早くビブス等を準備しながらはた、と気付く
もさんもまだ戻ってこない。もちろん玲さんが手渡すなんて言語道断である
となれば、いや最初っから私しかいないじゃないか
意気揚々と準備してた手を止めたくなった、が
「それじゃ行きましょうか」
にっこりと微笑む玲さんを無視して逃げる事も出来ずにまるで錆びた首振り人形の如くぎこちなく頷く羽目になった
マネージャーとして久方の選手との触れ合いである
「まずはポジションごとに分かれてもらいます」
Bチームは妙な緊張感に包まれていた
それはもちろん、これからミニゲームをする、と言われたからではなく、
その隣に立っていて妙な圧迫感を与えているものにあった
(落ち着け・・・落ち着くんだ私。ちょっとグローブ渡してささっと逃げるだけじゃないか)
こう考えてる時点で何か違うと誰か教えてやって欲しい
思いっきり選手達からは顔を背けてさらに思いっきりしかめっ面をして何やらぶつぶつを自己暗示しているマネージャーに
誰か呪ってるんですか?と思わず聞きたくなる様な気迫を感じる
ほんの一部だけそんなの光景に笑いを噛みしめ殆どの者が目を逸らしたい衝動に駆られた(しかし、コーチの隣なので否応でも視界に入ってしまう)
「・・・さ、ちゃん。グローブ渡して貰える?」
「は、はい」
グローブを手渡す、時間にしたってほんの数秒の事だろうそれなのにどもる姿を見て玲は「落ち着いて」と言いたくなった
(大丈夫、大丈夫、大丈夫・・・・)
ネジ巻き式のカラクリのようにぎこちなく足を動かして進む。視線はただただグローブを凝視して
視界に人の影らしきものを見つけたので立ち止まった
「・・・ど、どうぞ」
やっぱり顔は上げないままにグローブだけ差し出した
もちろん本人は至って真剣なのだが、後ろで思わず玲が拍手を贈りそうになり飛葉中組は顔を逸らして笑いを堪えるのに躍起になっていた
差し出した手が軽くなる
どうやら相手が受け取ってくれたらしい
「ありがとうちゃん」
「え?」
返ってきた声は聞き覚えがあった
思わず顔を上げる(本気でこのまま相手の顔も見ずに逃げる気満々だった)
「仕事、大変そうだね」
聞き間違える訳がない
だって会うたびに一度は聞いてるんだから
どんな些細な言葉にも必ず添えてくれるのだ
お弁当を作ったときだって、一緒にPKの練習をしたときだって
「ちゃん?」
「・・・びっくりした」
ただそれだけ零す
やっぱり笑って答えてくれる
「僕も」
将君の笑顔はやっぱり不思議な力があるに違いない
さっきまで強ばってた私の顔も力が抜けてしまう
「ホントにびっくりした」
笑いを含んだ吐息と共にもう一度そう言った
とにかく私はさっきまでどうしようもなく緊張しちゃってて
それが将君の笑顔を見た途端すごく安心しちゃって
何が可笑しいのか分からないけど笑みが零れるのを止められなかった
「・・・風祭とも知り合いだったんだな」
ポツリと違う声が響いた
ぱっと顔を上げるとかちり、と視線が合った
「え、あ・・・、天城君・・・だったよね?」
差しだそうとしたのかそれとも何か防御しようとしたのか顔の前にさっとグローブを持ってきた
たぶん、気の抜けた笑い顔を見られてしまった照れ隠しが半分くらいあったんだと思う
「久し振り、です」
「・・・あぁ」
挙動不審ともとれる行動だったのに天城君は気を悪くした風でもなく、ほっとした
会うのは3度目。ちゃんと会話をするのは2度目
だけど私はこの人が苦手じゃない
「二人がキーパーするの?」
ほっとしたついでにここに来てまともに会話というものをしてみる
二人は各に頷いてくれた
(将君も天城君もFWなのに・・・どうやって決まったんだろ?
まさかでもじゃんけんとかじゃないよねぇ?)
そこはとっても気になる所だったけどここでゆっくりおしゃべりに花を咲かせるわけにもいかない
とりあえずは頭を切り換えてまた休憩時間にでも話しかけてみよう
「二人とも、頑張って下さい」
グローブも渡してしまって隠すものが何もなくなったのでちゃんと二人を見据えて言う
「ちゃんもマネージャー頑張ってね」
将君はやっぱり笑顔で
「あぁ」
天城君は表情的にはあんまり変わらなかったけどちゃんと頷いてくれた
単純な私はこれでまた「頑張れるかも」と思ってしまった
-----------後書き-------------------------------------------------------------------------------
う〜ん・・・如何でしょうか?
とりあえず将君と天城君と再会果たしました。
自分がこの合宿にとけ込んでないという自覚があるので軽いトラウマみたいになってるちゃんです。
でも彼等との再会でちょっと回復。浮き沈みが激しいお年頃です。笑
3月4日 砂来陸
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