小さい頃、大きくなったら何になりたい?と先生に聞かれ
「あたしお花屋さん!」「わたしはモデルになりたい!」と各自主張をしている中
自分が何て言ったのか、今でもしっかり覚えてる
「サッカー選手」
特に明らかに固まってしまった教室の空気とか
本日ハ晴天ナリ
気付いてたのはいつからだろう?
認めるのが怖くて気付かないふりをしてたのはいつからだろう?
「ちゃんもう帰るのー?」
鞄に教科書を詰め込んでたらが近寄ってきた
「今日は部活に出ようと思って」
そう言うとは驚いたように瞬きを2回した
「今日普通の日なのに?」
「うん」
が言う普通の日って言うのはたぶん私が普段は土日しか部活に出ないからだろう
うん、その通りなんだけどね(あ、試合前とかは出てるよ)
「ちょっと・・・サッカーしたくて」
何かもうマネージャーの言葉とは思えないんだけどさ
「そっかー」
は首を傾げつつ頷いてくれた
「何か用だった?」
「んー・・・」
くるり、とが教室を見渡す
あれ?
今まで気付かなかったけど放課後なのにクラスの半分くらいが残ってた
何かあるの?
「体育祭の役決めが今からあるんだって。ちゃんどうする?」
「体育祭・・・」
そんなのあるんだ(普通はあるけど)
記憶にある体育祭・・・あのころはまだ運動会って呼んでたけど
わざとバトンを落とされたりさりげにはちまき引っ張られたり色々あったなぁ
さらに途中でお母さんが切れてなんかとんでもないことになったんだよね
・・・・・・
・・・・
・・・よく生きてるな私(この時の都さんの行動については好きにご想像下さい)
「ちゃん?」
が尋ねる
「え、あー(トリップしてたよ)が適当に決めててくれない?私の分」
仲良くなれたクラスでの体育祭とかすごく楽しみだけど
今は違う気持ちの方が強いから
しばらくは私の顔をじっと見てたけどやがて笑顔で頷いてくれた
「うん、分かった」
たぶんは気付いてるんじゃないかって思う
何となく違う私の様子に
それでも何も聞かないでいてくれる
「ありがと、ね」
みたいな友達に巡り会えた事に
感謝しよう
「?」
グランドに行って、一番最初に気付いてくれたのは翼だった
「やぁ」
とりあえず片手を上げて挨拶をしてみる
「どうしたんだよ」
ストレッチをしてたのをいったん止め、私の方まで歩いてきてくれた
「今日、部活参加して良い?」
イキナリの申し出に翼は少し、驚いた顔をした(あ、この顔はちょっとに似てる)
普通の日に自分から参加する、って言ったの初めてかも。
理由とか、そんなのは聞いてこなかったけど翼はじっと私の顔を見て
何か、探り当てられそうで少し、怖いと思った
だって翼って鋭いもんなぁ・・・
「5分以内に着替えてくること」
「え?」
「以上」
くるっと踵を返してさっさとグランドに戻っていく翼
それをしばらくはポカンと眺めてたけどはっと我に返って急いで部室に向かって
何せ制限時間は残り4分30秒!
ダッシュで着替えて髪をひとつに束ねて靴を履き替えて、愛用のキーパーグローブを持ってグランドに出た
当然の事ながらみんなびっくりな顔をした(翼は別ね。)
その中にナオキもいたけど私はわざと目を合わせなかった
「ほら。さっさと準備体操しなよ。今日はせっかくだから有効活用させてもらうよ」
「有効活用?」
「口答えしない。さっさと柔軟!」
びしっ!って感じの翼の一声に(さすがキャプテン)私は慌てて準備体操を始めた
そうして、その後すぐに『有効活用』の意味を知ることになる
「次 俺!」
「ばっかお前順番守れよ!次は俺だよ!!」
「うおぉー!何で決まらねぇんだ!?」
・・・なぁるほど。これが有効活用ですか
PKの練習
しかも部員全員が一列に並んでまだかまだか、と自分の番を待っている
(素晴らしく有効活用されてるよ私・・・)
そう思いつつも体はしっかりとボールを追いかけてる
横っ飛びしてボールを受け止めた
もう何球目だか数える気にもならない
今更だけどうちのサッカー部のGKは保君だ
でも彼は柔道部と掛け持ちのサッカー部員だから部活に来ることはそんなに多くない
と、言うわけで
「はい、次ー!」
ボールを投げ返して叫んだ
PKの練習に飢えてるらしい部員の皆様のお相手を 私がしているみたいです
走って滑り込んでボールを止める
「げっアレも取るのかよ」
「残念でした!」
どうでも良いけどみんなかなり本気だね
横滑りしようが全身泥だらけになろうがもはや誰も気にしない
・・・そもそも私女として見られてないのかも?
「そろそろ暗くなってきたし、次ラストー!」
ようやく果てが見えましたね
伝ってくる汗をTシャツで拭いて構え直す
(・・・あ)
ナオキだった
ラストを飾るのがナオキ
しっかりと瞳が合う
ナオキはどこか不安げ、というか心ここにあらずというか・・・うぅ〜ん何て言うんだろ
何とも言い難い、そんなナオキの表情にむかついた
構えたまま言う
「絶対止める」
初めて、そういう宣言をした
「おぉ三上さんが宣言した・・・!」
「ナオキぜってー決めろよ!!」
外野、煩い
これは私とナオキの真剣勝負だ
そもそも今日部活に参加したのはサッカーがしたかったのとナオキと話したかったのとがあった
話したかったと言いつつこんな展開になっちゃったけど・・・まぁ良しとしよう
口下手な私には言葉よりもこっちの方が伝えやすいかもしれない
・・・何か「男は拳で分かり合う!!」的ですごく自分が男らしい気がしてしまった。
「・・・ほんなら、行くで!」
「いつでもどうぞ!」
勢いよくボールが蹴られた
(左下ギリギリ!)
そうやって頭で分かるより先に体は動いてた
体が痛い
そりゃそうだ。さっきから何十球とボール受け止めてたんだから
だけど
絶対に負けてなんかやんない
諦めてもやんないしナオキに花を持たせてあげようとも思わない
やるのは今の自分に出来る精一杯
横っ飛びで飛びついてボールを止めた
ズザザザッと少し地面を擦ってボールを手の中に収めた
何かもうあちこち擦り剥きすぎてヒリヒリするよ
だけどそんな事考えてもられない
ゆっくりと起きあがる。ボールが転がった
立ち上がってナオキの所まで歩いていく
ナオキはやっぱり複雑そうな顔をしたままだった
「私の勝ち」
「・・・やな」
はは、と力無く笑われて何だかさらにむかついた
「佐藤さんに本気になってもらいたいなら死にもの狂いで努力しな」
我ながらかなりドスの利いた声だったと思う
驚いた様子でナオキが私を見た
「佐藤さんは上手いよ。この間の試合みてかなり驚いた。翼と互角に戦える相手なんてそういないもんね」
優しい言葉なんて、かけてあげない
「だからナオキもこんな所でくすぶってる場合じゃないでしょ」
「・・・」
「まだ上手くなれるでしょ?」
私が気付かないとでも思ったんだろうか?
佐藤さんの為に都選抜を蹴った
だけど心の何処かで悩んでたでしょう?
これで佐藤さんを本気に出来なかったら、って
「いつだってがむしゃらに頑張るのがナオキの良いところなんだから」
先が見えないくらいで悩むんじゃない
殆ど身長も変わらない、胸座を掴むくらいの勢いで私は一気にそう言い放った
しばらくナオキはただただ私の顔を見たまま固まってたけど
やがてゆっくりと笑い出した
「やっぱ敵わん。には」
「それはどうも」
そしてまたまっすぐと私を見る
「確かに俺らしくなかったな」
「うん」
「がむしゃらにやってこそ俺、なんやろ?」
「当然」
また、笑った
だから私はまた言う
「頑張れ ナオキ」
それがサッカー選手になりたいって願ってた私が言えた唯一の言葉だから
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前回の話じゃ不完全燃焼だったんでもう一話作ってみました。
何だか意味不明ですみません。
久し振りに男前なちゃんを書く事が出来て私的には満足です。
3月26日 砂来陸