少しずつ少しずつほどけかかった糸みたいに深更してる
この感じを私は知ってる
だけどまだ、気付かない
本日ハ晴天ナリ
「・・・サボってしまった」
屋上のタンクの上
天気は見事な快晴
こんな時は授業なんて受けたくなる気分じゃない
「って殆ど建前だけど」
誰も居ない中でそう言うことを言うのは世間一般で独り言になる
だけど何となく声に出して言いたい気分だった
何なんだろこの気分
憂鬱とはちょっと違う
「これじゃあただのサボりだよね・・・」
私にとってはきっと一生忘れられない試合が終わって
将君の過去にちょっと触れて
選抜合宿のマネージャーが決まって
・・・何だか怒濤のような日々が過ぎてしまったような気がする
「平穏が一番なハズなのに・・・」
きっとも心配してるだろう
朝は居たはずなのに授業に出て無いんだから
「・・・もしまた翼達に言いに行かれてたらどうしよ」
・・・それは考えないのがベストかな
ごろん、とタンクの上に寝っ転がって空を見る
雲一つない晴天
なのに心が晴れないのは何でだろう?
「なんや先客がおったんかいな」
いきなり人の声がして勢いよく起きあがった
ばっちりと目が合う
「何だナオキか」
一瞬先生かと思った・・・いや先生は関西弁は使わないだろうけど
「めずらしいなぁがサボりなんて」
「まぁね」
そう返事しながらちょっと左側にずれる
ナオキが右側に腰を下ろした
「あんま授業さぼるとキューピーに目つけられるで?」
「大丈夫。そんな頻繁にサボってるわけじゃないもん」
一応普段は真面目に授業受けてるし
「ナオキこそ授業さぼると翼に怒られるんじゃない?」
「せやなぁ」
どうやら怒られる事を承知で来たらしい
「・・・何かあったの?」
いつもと様子が違うナオキ
いつもと同じ様に笑うけどそれがすごく空回りしてるように見えた
最初ナオキは驚いた顔したけどそれから困ったように笑った
「かなわんわには」
やっぱり何かあったんだ
「ナオ「そういえば。選抜のマネージャーするんやて?」
思いっきり言いたいことを遮られた
しかも情報早いね
「うん、気が付いたら参加決定。って感じだった」
そう。ホントに気が付いたらって感じだったんだよなぁ 最終的には自分で「はい。」って返事したわけだけどさ
「まだ参加者とか聞いてないんだけどナオキ達も行くんでしょ?だいたい何人くらい参加するのか知ってる?」
何気なく言った言葉のつもりだったのにナオキはすぐに返事をしなかった
「ナオキ?」
「俺、出らんねん」
「は?」
出ない?
冗談でしょ
「・・・何で?」
ちょっと掠れた声でそう尋ねる
ナオキはぼんやりと空を見上げたまま答えた
「シゲのヤツが参加せんから」
「シゲって桜上水の?」
佐藤さんが参加しない?そんな馬鹿な
だってあれだけ実力がある人だよ? 翼との1対1でも殆ど互角に戦ってたのに・・・
「あいつ呼ばれたのに辞退したんや」
「辞退?!」
都選抜の代表蹴るなんて何て神経してるんだ佐藤さん・・・
よっぽど図太い神経をしてるのか、あるいは
「佐藤さんってサッカー本気じゃないのかもね」
うん。そっちの方がありえるかも。
何て言うか・・・一生懸命頑張るっていうのより楽しければいいや。ってタイプ
「それはありえへん」
きっぱりとナオキが断言をした
「アイツはサッカーが好きや。ライバルとしてそれは断言できる!」
ナオキにとって佐藤さんは一体どんな存在なんだろう
ライバルって口ではそう言ってるけどたぶん違う
そう、それは
「・・・ナオキは佐藤さんに憧れてるんだね」
ぽつり、と口にしてしまった
ナオキが驚いた顔で私を見る
あぁ、そうか。
「小さい頃から佐藤さんのサッカー近くで見てきたから佐藤さんがどれだけ上手いのか知ってるんだよね。
だから憧れてて・・・悔しいとか狡いとかいう感情持ってるんじゃない?」
ただただ驚いた顔のナオキ
違う?
「・・・ホンマ敵わんなぁ」
泣きそうな、顔
ナオキ?
「の言う通りや」
ごろん、とナオキが仰向けになる 直射日光が眩しいのか腕で両目を覆って
「・・・俺、アイツのサッカー好きやねん」
「うん」
ジリジリと太陽の光が容赦なく照り返す
「アイツは絶対上目指すべきなんや」
きっと
ナオキはもう随分前から知ってたんだろう
佐藤さんの実力を
それでいて絶対に本気じゃないことを
「頑張れ ナオキ」
ナオキはサッカーが好き
きっと自分の人生をサッカーに賭けてるくらい
だけど認めてる
自分よりも上がいるってことを
丁度、授業終了のチャイムが鳴った
サボるのは一時間の予定だったので次は授業出なきゃ
「戻るんか?」
「うん。あんまりサボるとが翼呼んじゃうかもしれないし」
よいしょ、と勢いを付けてタンクから飛び降りる
「ナオキもサボり程々にしときなよ?」
振り返って呼びかけてみたけど返事は無し
・・・あんまりサボると翼に言いつけるよ?
そう言おうかなって思ったけど・・・まぁ今日は大目にみてあげよう
次の授業が始まるまであと7分
重い屋上の扉を開けてあの学校の独特の空気に触れる
「」
声を掛けてきたのはナオキ
「何?」
もうタンクは視界に入らないのでそのまま立ち止まって耳だけ傾けた
「おおきに」
どういたしまして
口に出すのはちょっと照れくさかったので心の中で呟いてそのまま階段を下りていった
朝よりもずっと軽い足取りで
やっと分かった
このもやもやの正体
ううん、きっと随分前から気付いてたんだ
私はたまらなくサッカーが好きで
本当にどうしようもないくらい好きで
だけど
---------------後書き------------------------------------------------------
何か最近ちゃんの独白が多いなぁ
原作を読んでナオキが東京選抜に来なかった理由を自分なりに考えました。
たぶん彼も選ばれてはいたと思うんですよね。
だけどシゲさんが出ないから自分も出ない!って言い出したと。
勝手な想像ながらそんな友情は素敵だと思います
2月21日 砂来陸