泣きたい、って思うよりも
どうしようもないくらいの満足感が
私にはあった
本日ハ晴天ナリ
それから、試合が終わるまでのほんのわずかな間は声を出すことも。瞬きする暇さえももったいないと思えるような攻守の繰り返しだった
もしかしたら、瞬きを出来るだけ避けたのは泣きそうになってたからかもしれない
とにかくただひたすらに試合を見続けていた
「ゲームセット!
2−1で桜上水の勝利です!!」
・・・終わったぁ
痛いくらいにノートを顔に押しつけていた
・・・もう殆ど無意識で
不意に、ポンと何かが頭に触れた
「みんなよく頑張ったわ」
玲さんの手
「・・・はい」
本当に、みんなよく頑張ったよ
気が付いたら泣きたいっていう気持ちよりもどうしようもない満足感の方が私の中には満ちていて
「よっし!」
立ち上がってタオルを持ってみんなの所へ走っていた
言ってあげたい言葉はただ一つ
「お疲れ様」
「・・・」
ロクは既に大泣きしてた
持ってたタオルを一枚顔に押しつけてやる
「格好良かったよ。すごく」
本当にそう思ったんだよ?
私的には褒め言葉のつもりだったのにロクはさらに泣き出してタオルに顔を埋める羽目になった
・・・よっぽど悔しかったんだなぁ
「。俺にもタオル」
「あ、うん」
ん。と差し出された手にタオルを乗せてやる
「マサキも格好良かったよ」
「そりゃどーも」
マサキはあんまり悔しそうにも見えなかった
泣きそうでもなかったし・・・完全燃焼して満足したのかな?
翼にもタオルを渡そうと思ってたのに翼は私とは目を合わさずにさっさと座ってガード外しにかかってた
・・・翼はやっぱり悔しいのかな
「つ「 俺にもタオルくれへん?」
「あ。はいはい」
鼻をずびずび言わせてるナオキ こちらもとても悔しそう
「ナオキよく頑張ったね」
佐藤さんに向かっていった姿 羨ましいくらい男の子だった
「せやけど・・・負けた」
「なら次は負けない様に頑張ること」
殆ど背丈が変わらないナオキの頭をぽんぽん、と撫でてやった
さーて、あとタオルを配ってないのは・・・
「あれ?」
マサキが自分のシャツで汗を拭っていた
・・・私タオル渡さなかったっけ?
もう一枚タオルを持ってマサキの方へ歩いていく
「マサキ タオルは?」
「いる。サンキュ」
ぱっと私の手からタオルを取るマサキ・・・いや、そうじゃなくてさ
そんな数秒の間にタオルなくされたりしたら部費がいくらあっても足りないんだけど・・・
「さっき渡したのは?」
「翼んトコ」
「回したの?」
だったら最初っから翼にもタオルあげれば良かったな・・・よし、後で声掛けてみよう
改めてマサキを見ると やっぱり悔しそうには見えなかった
「マサキは平気そうね」
「何が?」
「悔しそうに見えない」
「そうか?」
そうだよ。ほら、ロクとかナオキみたく泣いてたりしたら分かり易いのにマサキは全然普段と変わらない
「やれるだけの事やったし」
「そっか」
うん、マサキらしい言葉
その言葉の方に私まで満足してしまった
次は、翼の所
タオルで顔を覆ったまま殆ど翼は動かなかった(生きてる?って訊きたくなるくらい)
「翼?」
さすがに生きてる?っていうのは失礼だと思ったから名前だけ呼んでみた
わずかに動いた
だけどまだタオルから顔は見えなくて
(どうしよう・・・泣いてたのかも)
いや、ロクやナオキ達も泣いてたけどあれとはまた別だよ。翼とか何て言うか・・・泣いてるところ人には見られたくない、っていうか
プライドが高いっていうか・・・
「試合すごかったね」
我ながら今更そんなことを言うのはどうかと思ったけど喋り掛けて何も言わないのもどうかと思ってそれだけ言ってみた
「・・・・良い試合だったと思う」
タオルの中から声が返ってきた
少し、鼻声
「うん」
「・・・だけど負けた」
「・・・うん」
やっぱり翼は悔しいんだね あれだけ頑張ったんだもんね
どんな慰めの言葉もイヤミになってしまいそうで悩んだ挙げ句
ぎこちなく翼の右手をとった
また、翼がわずかに動く
「お疲れ様でした」
両手で翼の手を握り込んで一度頭を下げる
これが私が言える唯一の言葉
自分でやっておいてなんだけどちょっと恥ずかしかった
よく晴れた初夏の日の出来事
飛葉中VS桜上水は1−2で幕を閉じた
「「あ」」
試合が終わって家に帰って、洗濯物を取り込もうとベランダに出ると隣でも同じように洗濯物を取り込んでいた将君と鉢合わせした
目が合った将君はちょっと・・・居心地が悪そうだった
「試合お疲れさま」
やっぱり今遇うのはまずかったかなぁって思ったけど私としては直ぐに会えて良かったと思った
「ありがとう。
ちゃんも・・・マネージャーお疲れさま」
「ありがとう」
「「・・・・」」
それからしばらく奇妙な沈黙が続いて・・・・やがて
お互いに吹き出した
「桜上水って本当に強かったね」
「飛葉中だって強かったよ!特にあの椎名さんって人!」
「あはは。翼に伝えたら喜びそうだね」
洗濯物なんてそっちのけでベランダの仕切越しに2人で今日の試合について熱く語った
結局試合は桜上水が勝ったけどそんなことはお構いなしに
2人ではしゃぎ合った
そして試合については思う存分に話して少し会話が途切れたとき
唐突に将君は言った
「ねぇちゃん 潮見謙介ってサッカー選手知ってる?10年以上前の選手なんだけど」
「潮見謙介?」
脳内の記憶を引っ張り出す
名前は聞いたことがあるはず・・・潮見・・・
「それって14年前事故で亡くなった人?」
一度思い出すと芋蔓みたいに記憶が這い上がってくる
そう、確かやまと発動機の選手ですごい上手なFWだったんだよね・・・(BYお父さんの資料より)
「その人がどうかしたの?」
えらく昔の人な上にかなりマイナーな選手の登場に首を傾げる
だってこの人がプレイしてた時将君産まれてなかったよね?(私も産まれてないけどさ)
「僕の父さんなんだ」
え?
将君はちょっと困ったような、でも少し笑って
「内緒だよ」
と言った
どうして私はそんな将君の笑顔をみて泣きそうになったんだろう
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ううん・・・何だかなぁって感じです。
もっとこう明るい感じにしたかったんですけどね・・・
2月1日 砂来陸