大切って言えるものが増えていく
それってすごく素敵な事だと思う
ううん。思えるようになった
本日ハ晴天ナリ
「それではこれより飛葉中対桜上水中の試合を始めます!」
ホイッスルが鳴る
試合が始まった
「わっ早速仕掛けてきた・・・!」
試合開始早々、攻撃に出てきたのは桜上水の方だった
まぁそれを翼がクリアしたわけだけど・・・
奇襲作戦かと思ったけど打ってきた桜上水10番も翼も笑顔 そんな様子を見る限りじゃお互い挨拶みたいなもんだったんだろう
テンション高いし絶好調だね、みんな。
(いいなぁ)
無意識のうちに口元から笑みが零れた
この感じ
ただ単純にサッカーが好きっていうこの感じが好き
なんで思い出せなかったんだろう
私はだからサッカーをしていたのに
だからマネージャーになったのに
「桜上水には随分女の子が多いのね」
「そうですね。私もびっくりしました」
私は試合から目を離さず声だけで答えた
玲さんは女子がサッカーに感心を持っていることが素直に嬉しいらしい
玲さん、応援者数だったら一応飛葉中だって負けてませんよ。応援されてるのは翼限定かもしれないけど
「是非とも頑張って欲しいわね」
「えぇ?」
思わず顔を上げた ちょっとちょっと玲さん
ばっちり目が合うと玲さんは至上楽しそうな顔をしていた
「でも勝負は別よ」
私の考えてることなんてお見通しと言わないばかりに玲さんは私に向かってウィンクした
玲さんもすぐに気持ちの切り替えが出来たんだ
『勝負は別』
・・・私って本当にどうしようもないなぁ
うだうだと長く考え込んで 独りよがりの中に閉じこめていた
口にすればあっけないことだったのにね
「オフサイド!」
ピィー!と鋭いホイッスルの音にはっと今が試合中だったことを思い出した
いけない いけない今はこんなぼんやりしてる場合じゃなかった
(フラットスリーは今日も絶好調・・・・と)
マサキとナオキのポジション入れ替えたからその分でちょっと心配があったりしたんだけど・・・いらん心配ってやつだったな
くるり、とペンを回す
さすが元プロの松下さんが指導してるだけはある
今まで試合した中で一番強い。
くるり、くるり
(うち相手に守りでこないところが良いな・・・フラットスリーにも物怖じしないし・・・)
くるりと回していたペンをまたノートに走らせる
将君にボールが渡った
無意識のうちにペンを止める
将君と翼の一騎打ちだった
「・・・すごい」
他に何て言って良いのか分からなくてただそれだけ口から零れた
玲さん将君を特別気に入ったみたいだ
でもその気持ち分かる気がする
物怖じしないで真っ正面から勝負を挑んできた将君
将君、どんなときだってサッカーが大好きで どんなときだって楽しんでサッカーをしてくれる将君に
みんな惹かれる
私もいつだって憧れてるんだよ
僻みでもなんでもない、ただ素直にそう思えた
最初は飛葉中の方が有利に思えた
(向こうの12番・・・高井だったっけ?よりはナオキの方が上かな・・・
翼の読みも相変わらず冴えてる。桜上水の攻撃は未だにゴールにはたどり着いてないし)
だけどこれは明らかな私の贔屓目だって後から気付いた
試合は私が想像していたよりもずっとずっと接戦を極めた
(マサキが突破された・・・!)
突破したのは佐藤さん
将君から少しは話聞いてたけど思ってた以上にずっと上手い
あれだけ派手な格好をしてるわけだけど目立つそれだけの実力も伴っているわけだ
・・・悪いけどナオキ、絶対にナオキの手には負えないと思う
(・・・あ、痛めたかも)
翼に止められて吹っ飛ばされた(見事に着地したけど)佐藤さんの手が何か変な方を向いていた・・・ような気がする
いや、私には思いっきり捻ったように見えたんだけど・・・佐藤さんは飄々としてる
(あれ。目の錯覚?)
少し、気になったけど 熱い試合状況にいつのまにか忘れてメモを取ることに熱中していた
試合はどんどんヒートアップしていく
「・・・ボールが全然前線に通らない」
「あっちの10番、結構なやり手ね」
思わず口にだしてしまった独り言に玲さんも感心したようにそう言った
桜上水の10番 水野君
さすがは桐原さんの息子さん。パスは正確だしリーダーシップもある
桜上水はうちと一緒で無名だったハズだ
だけど上手い
「あっ!」
翼が突破された・・・!
それも将君に
たぶん私が知ってる中じゃ初めて前線を抜けてシュートを打たれた
「保君ジャンプ!」
気が付いたら椅子から立ち上がって叫んでいた
驚いた様に、でもちゃんとジャンプしてくれた保君
思った通りボールは微妙にホップしてジャンプした保君の手によってゴールを阻まれた
「・・・セーフ」
あぁ〜焦った・・・・
「よく分かったわね。今のボールが上がるって」
感心したような玲さんの声
「勘だったんですけどね」
ホップする事が分かったんじゃない。だって回転が掛かってるって頭で理解するより先に口にしてたんだから
頭が考えるより先に体が動くんだよね
せっかくのチャンスだったコーナーキックも失敗に終わってしまった
「・・・微妙に翼、キレてません?」
「あれでも一応燃えてるのよ」
そういうものか・・・?吹っ飛ばされた上に捻挫で交替まで言いつけられた高井君とやらを少し、哀れに思った
でも玲さんがそう言うなら大丈夫なのかな?
前半はそのまま0−0のままで終わった
「ドリンク」
「はい。タオルもね」
前もって準備しておいたドリンクとタオルを配る
前半終了間近でめまぐるしく攻守が入れ替わったせいかみんな汗だくだくだった
「頑張ってるね」
「まぁな」
えーっとあと配ってないのは・・・
「翼 ドリンクおかわりいる?」
「ん、ちょうだい」
ゲームメーカーで飛葉中の柱でもある翼はいつも人の数倍動いてる
そりゃ疲れるよな
私がドリンクのおかわりを作ってる横ではナオキが翼にポジションチェンジの申し出をしていた
どうやら佐藤さんとどうしても戦いたいらしい
「はどう思う?」
「え?」
ドリンクを手渡した途端、話を振られた お題は例によってナオキのポジションチェンジについて
「・・・ワンツーマンはどう贔屓目してもナオキの方が劣る」
正直に言ってみた。安請けの言葉は言わない
「でもみんながそれをカバー出来るって言うなら・・・・」
大丈夫なんじゃない?
私の意見を聞いて翼は呆れた様なため息を一つ
「不確定要素で言うなんてらしくないね」
翼のそんな言葉に思わず苦笑した
「自分でもそう思うね。だけどサッカーに『絶対』って事はないから」
そうなれば可能性がゼロって言い切れることは何もない
それがサッカーの醍醐味でもあるから
結局、マサキとナオキがポジションチェンジをしてその場は丸く収まった
休憩時間はあと5分
「ねぇ。途中から入ってきた15番。何回ボールに触った?」
「15番?えーっと・・・たぶん一回も触ってないと思う」
そう言えば一回も触ってないどころかあんまり動いてもなかったような・・・
「もしかして?」
彼は初めて試合に出たんでしょうか?
「そ。たぶんが考えてる通りだよ」
「わぁ・・・」
もうそれは狙い所としか言い様がないね。15番にボールが回ってきた瞬間とか絶好のチャンスじゃないか
「得点しなきゃサッカーは勝てない。そろそろ切り崩させてもらおうか」
にやっと笑みを浮かべた翼
何だかんだ言いながら翼は楽しそうにみえた
うち相手にここまで激戦を繰り広げてくれた学校は初めてで・・・きっと翼も嬉しいんだ
・・・あ、忘れるところだった
「翼」
玲さんに聞いた眼鏡の意味
「コレ、ありがと」
眼鏡を指さしてお礼を言ってみた
翼はそんな私の様子をみてひどく驚いた顔をした
あれ、そこまで驚くこと?
と、思ったのもつかの間すぐに翼は顔を逸らして「別に」と一言言ってそのままさっさとコートに入ってしまった
・・・人が素直にお礼を言ったのに何あの態度
思わず手に持っていたタオルを投げつけてやりたくなったけど頑張って耐えた
それでもちょっと怒りが収まらなかったので一部始終を玲さんに報告してみた
何故か大笑いされた
「翼ったら素直じゃないわね」
「何がですか?」
ひとしきり笑って目には涙まで溜めてくれた玲さんはちらりとコートを見て(たぶん翼を見たんだと思う)
そっと私に耳打ちしてきた
「あの子ったらテレてるのよ」
・・・どの辺が?(いや決して玲さんを疑ってるわけじゃないんだけどさ)
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はい、不完全燃焼です。
試合を1話に収めようとしたらとんでもない長さになったのでとりあえず前半後半で区切ることにしました。
コミックを片手に頑張ってます。
でも難しい・・・
12月17日 砂来陸