「・・・うっわぁー」
運命の日とも言える試合の日は
長時間外にいたら日射病になるだろうなぁ。って言うくらい
良いお天気だった
本日ハ晴天ナリ
「いってらっしゃぁーい」
「行ってきます」
呑気なお母さんの挨拶に少々脱力しながらも(お母さんは今日も仕事。毎日お疲れ様です)
部活の時愛用しているスポーツバックを肩に掛けて家を出た
将君の家に寄っていくか寄っていかないか悩んだけど今会うとぎくしゃくしそうな気がしたので止めておいた
大丈夫
きっとこの試合で勝っても負けても将君には笑顔でお疲れ様が言える
緊張して昨日の夜はあんまり眠れなかったのに足取りは驚くほど軽くて思わずスキップしそうになった(しなかったけどね。怪しい人になっちゃうから)
試合会場に着くとまだ誰も来ていなかった
まぁ当たり前なんだけど
マネージャーが選手と同じ時間に来て準備が間に合うわけがない
だって試合が始まるまでに試合会場の地理は簡単にでも把握しておかなきゃ
特に水道はどこにあるのか分かっておかなきゃドリンクも作れないしね
髪を一つに束ねる。この時期は首に張り付く髪なんて邪魔なだけだ
「それじゃサクサク準備をしますか」
今日の試合を精一杯頑張って貰うために
私は私の出来ることをしよう
準備もぼちぼち終わってさぁラストのボトルだと持ち上げたところにようやく部員達も集まってきた
あと余計だけどたぶん翼のファンらしい女の子達も
「」
「え?」
名前を呼ばれて振り返るとべしっと無理矢理顔に何か押しつけられた
驚いて目を閉じて開くと目の前にはガラス・・・・
「結構似合うじゃん」
「翼?」
おはようとか挨拶をすっ飛ばしてあったのは我が部キャプテンの満足げな笑顔
どうやらさっき顔に何か押しつけたのは翼らしい
押しつけられたというか掛けられたというか・・・
「何これ眼鏡?」
「ご名答」
そーっと外そうとすると翼が笑顔で圧力をかけてきた。つまり外すなと
「・・・私、視力良いんだけど」
「知ってるよそれくらい。だから度は入ってないだろ?」
あぁなるほど。度が入ってないから普通に見えるわけだね
「何で眼鏡?」
「何か不都合でもある?」
「いや不都合っていうかそもそも度なし眼鏡なんて掛ける意味がっ!?」
今度はいきなり視界が半分真っ暗になった
何なんだ今日は・・・!
「今日は日差し強いからな。熱中症になんなよ」
「マサキ?」
聞き慣れた声に名前を呼ぶとかろうじて見える半分の視界に見慣れた姿が現れた やっぱりマサキだ
そして頭に無理矢理被せられたのは帽子
サイズはぴったりみたいだけど無理矢理被せられたから視界が半分埋まったのか。納得
ずれた眼鏡を直しながら(あ。コレを機に外せば良かった)帽子もかぶり直した(これもまた当たり前のように受け取っちゃってるよ)
いつのまにかナオキや五助、ロクも来ていた
それからゴールキーパーの保君も さすがの私も実際の試合じゃキーパーはやらない
「なかなか似合っとるやん」
「そう?」
帽子はともかく眼鏡は初めてだから自分でもちょっと見てみたいっていうのがあるんだけど残念なことに手元に鏡はない
ていうかみんな私が眼鏡掛けてることに対してはツッコミなし?
よく分からないけどもうそのまま眼鏡と帽子着用のままみんなと一緒にグランドを目指すことにした
よく見たらみんなまだ荷物を持ったまま私の所まで挨拶に来てくれたらしい(誰も挨拶らしい挨拶はしてないけど)
みんなはスポーツバックを持ったまま私はボトルが入った籠を持っている
「みんな結構遅かったね」
「そうか?上水の奴らも今着いたみたいだぜ」
びくっと一瞬足がすくんだ
・・・将君達が来たんだ
どんなに覚悟を決めたってほんの少しの動揺くらいどうしたってしてしまう
それは迷いとか怖じ気ついたとかそういうのよりは 武者震いに近いんだと思う
「お。あれ上水のマネとちゃう?」
マネージャー?
確かに前方からジャージ姿の女の子達が歩いてきた
「へぇーあんなにいるんだ」
「確かに・・・マネにしては多すぎるな」
いち、に・・・わぁ5人もいるんだ
しかもすごい可愛い子がいるし・・・あれ?あのショートカットの子・・・
「「「きゃーっ!!翼く〜ん!!!」」」
キーンと甲高い声が響いた
地声にしてたら異常すぎて 作ってるんだとしたらその努力にむしろ拍手を贈りたくなる。顔を見なくても分かる。翼のファンの子達だ
っていうかさ、翼の応援に来るなとは言わない(そんな制限出来ないし)からさせめて静かに応援してよ
「うるさいな」
迷惑そうな翼の声。これにもめげずに応援に来てるんだから本当にすごい
「人気者も大変だね」
「喧嘩売ってるの?」
いえいえ本当に思ったことを言っただけですよ?
桜上水の選手達を睨む様にしているみんなはかなりガラが悪く見えた
だってただでさえ目つき悪い人達ばっかりだし
「みんな少しくらい愛想良くしなよ」
「これが地なんだよ」
だからそこを笑顔で好印象を与えるとかさー・・・ってここでみんながにこやかな笑顔っていうのも気持ち悪いか(何気に失礼)
そんなことを考えてると翼が桜上水のキャプテンらしき人に声を掛けていた
前に一度だけ(一方的にだけど)会ったことのある人・・・たぶんこの人が『水野君』だ
(そういえばこの間桜上水の人達とフットサルしたって言ってたっけ)
その時に一度喋ったことがある人達なのかもしれない
ただちらっと将君を捜してみたもののまだ来てないようだった
「。先に行って準備終わらせて来て」
ナオキがハチミツ少年・・・じゃなかった佐藤さんとじゃれ合ってる(ナオキは遊ばれてるだけのようにも見えたけど)のを尻目に翼から指令が飛んできた
「了解」
短くそう言って籠を抱え直しみんなの傍を離れた
駆け足でグランドに着くと無意識にため息が零れた
出来るだけ平然を装ってたけど・・・
「あーもう・・・この根性無しめ」
自分に向かって悪態をつく
つかずにはいられなかった
さっきナオキが佐藤さんとじゃれてた時、気付いてしまった
桜上水のキーパーである不破君 監督の松下さん 顧問の香取さん
私には
私が思ってた以上に桜上水に知り合いがいた
悪い癖だ私の
一つのことに集中すると他の事が見えなくなってしまう
(ずっと将君だけだって思ってたからなぁー・・・これは想像以上に辛いかも)
頑張るって決めたよ?
だけど
心を空っぽには出来なくて
「ねぇ」
「うおっ!!」
目の前にひょこっと顔が出てきて思いっきり後ろに体を引いた。それも奇妙なかけ声付きで
「あ、驚かせちゃった?」
「・・・桜上水のマネージャーさん?」
そう声を掛けてきたのは桜上水のマネージャーの中にいた一人だった
なんか勝手なる印象だけど一番活発そうに見える女の子だった
「あの、私に何か?」
バクバク言ってる心臓を宥めながらそう聞き返すとマネージャーさんは
「いきなりごめんなさい。水道ってどこにあるのか教えて貰いたくて」
にっこりと笑う桜上水のマネージャーさん。今頃気付いたけどかなりの美少女だ
「水道ならあっちの方に・・・」
ここから水道まではそんなに遠くないので簡単な道筋を教えてると何故かこの美少女は私の顔をじっと見つめていた
「あ、の?」
説明が終わってもずっと見つめているので思い切って声を掛けた 何も悪いことはしてないのに(むしろ良いことをしてるはずなのに)冷や汗が出てくる
「『男目当てでマネージャーをしてて図々しく一緒にプレイまでしてる生意気な子』」
「え?」
初対面なはずの人に何だかとんでもない事を言われた
・・・え、もしかして私って初対面なのにそんなに男好きに見える?
「さっき外に立ってた女の子達 ほらそっちのキャプテンのファンの子達が言ってたの。貴方のことでしょう?」
「あー・・・」
怒りを通り越してそんな変な声が出た 否定も肯定もしない言葉
正直、気分が悪くならないって言ったら嘘になる
だけどあの子達の言い分も分かる
今までずっとマネをとらなかったのにいきなり1年の私がマネになったんだからそりゃむかつきもするだろう
あぁ見えて彼女たちだって翼に恋をしてるんだ 他の女の子が近づいたら嫌だろう
きゃーきゃー叫んでるのを恋と分類するのは失礼かもしれないけど
あこがれと恋は似た様なもので境界線はグラデーションみたいではっきりしない。だから恋にさせてもらう
それに一緒にプレイに混じってるのも本当だし
「言い返さないのね」
「あの人達の言ってること半分は本当の事なんで
それに私はサッカーが好きでサッカーに関わっていられるだけで充分なんですよ」
きょとんとした顔で美少女は私を見た(あれ、何か変なこと言った?)
そして笑顔になった
「貴方って素敵ね」
「はい?」
いやー美少女に見つめられるっていうのは本当に緊張するなぁ・・・なんて考えてたので思わず聞き返した
一体どうしたら今の話から私が素敵とかなるの?
びっくりして今度はこっちが目を向けるも美少女はそんなの気にしないで話を進めてる
「私、小島有希って言うの。桜上水2年よ」
よろしく、と言われてとりあえずこっちも自己紹介をした
「三上です。飛葉中1年」
「1年?年上だと思ってた」
思ったことを素直に言っただけな美少女・・・な小島さんの言葉にちょっとぐさっと来たけど笑ってごまかした(確かに私の方が小島さんよりでかいしね!)
「私もサッカーするの好きなの。私達きっと良い友達になれるわ。」
すぱっと断言された
小島さんははっきり美人だ。自分の言葉を知った上で話すことが出来るタイプ
そんなどうでも良いことばかりを頭は考えていてにっこりとこっちを向いている小島さんに何を言って良いのか分からなかった
「有希せんぱーい!タオルは何処ですかー?」
他の桜上水のマネージャーさんの声がする
小島さんは振り返って返事をするともう一度私の方を見た
「私達は試合に出るわけじゃないけど・・・お互い悔いを残さない試合になりますように。友達と勝負は別物よ?」
小島さんはそう言って走り去ってしまった
私はというと小島さんに自己紹介したままの姿勢で固まっていた
さっきの小島さんのセリフがぐるぐる頭を巡ってる
『友達と勝負は別物』
ぱちんと朝と夜がひっくり返るような錯覚に陥った
そっか・・・確かに試合中は敵かもしれない。だけど勝っても負けても友達なんだ
「そっか」
だったら
私は私の精一杯を貫いてみようじゃないか
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何かすごい微妙だなぁと本当に思います。
とりあえず有希ちゃんとファーストコンタクトを取らせることと眼鏡&帽子を着用させることが
今回の目標でした。
ここのところ本当にコマ運びが下手で凹みます・・・
11月24日 砂来陸