大人ぶって我慢して
ただひたすらに逃げるよりも
胸を張って『友達』と言える人になりたい
本日ハ晴天ナリ
バスに乗ってすぐにお財布の中をチェックすると意外にジャラジャラとした小銭は多くて
いつも降りるバス停の2つ前までは何とか乗れそうだった
2つ分くらい歩こう
今度は逃げでも先送りにしようとしたわけでもなくて自然にそう思えた
天城君に会えて良かった
大した話もしなかったけど
将君とも翼達ともちゃんと向かい合えるきっかけをくれた
きっと人生に無駄なことなんでないんだ
まわりみちだったかもしれないけどそれはきっと必要なことで
お守りを届けに行ったことも今度の試合も
私の人生のストーリーには必要な事だったんだと思う
雨だって降るし 泣きたくなる日もある
だけど
雨上がりには星が綺麗に見えるし 心から笑える日もある
昨日の私よりも強くなれる私でありたい そう思った
二駅の道のりは疲れたというよりも暑くて死にそうだった
家に帰るとまだお母さんは帰ってなかった(良かった。結局電話しても無駄になるところだった)
さすがに汗ダラダラで風祭家に特攻するのはどうかと思ったので先にシャワーを浴びた
あぁ、またドキドキしてきた
(でももう迷わない)
冷水を頭から被ってほっぺをピシャリと叩いた
ダメダメな私
それでも昨日出来なかったことができる私になるんだ
色気も何もない格好だったけどこんな暑い中ドライヤーを使う気にもなれなくって
首からタオルを下げたままの格好で隣の家のチャイムを鳴らした
「はーいっ」
中からすぐに返事が返ってきてひょっこりと将君が顔を見せた
「こんばんは」
一応夕日の端からやんわりと藍色が浸食してきた空だったのでこんにちはじゃなくてこんばんはにしてみた
「こんばんはちゃん」
将君は笑顔で迎え入れてくれた
将君はお茶でも、って言ってくれたけどそれより先に言いたいことがある、と呼び止めた
だってお茶を入れて貰っても気まずい雰囲気じゃ飲めないでしょう?
「どうしたの?」
将君と話すときは大抵この位置
テーブルを挟んでお互い椅子に向かい合わせで座ってる
いつからこんな風になったのか分からないけどこれが私と将君の定位置だった
「ちゃん」
向かい合わせに座った将君がどこか心配するような顔で見ていた
よっぽど今の私はおっかない顔をしてるんだろう
「あのね将君」
でも大丈夫
「大事な話が、あるの」
そう言うと将君は一つ頷いてまっすぐに私を見てくれた
大丈夫
ちゃんと言える
「私ね、飛葉中でサッカー部のマネージャーをしてるの」
もしかしたら声が震えてるかもしれない
だけど目だけは逸らさないでいた 将君も目を逸らさないで聞いてくれる
「今度 桜上水と・・・
将君達と対戦するの」
たったこれだけの言葉のために私はどれだけ迷っていたんだろう
「ずっと言えなくて・・・ごめんね」
ずっと前に亮に言われた事がある
お前は嘘がすごい下手だって
将君はしばらく何も言わなかった
いつもはすぐ顔に表情が出る将君なのにその時は何か悩んでるような驚いてるようなそんな顔で
私に理解出来そうにはなかった
「それじゃあ私帰るね」
もしもこれがきっかけで将君と気まずくなっても
言わないで気まずくなるよりずっと良い
そう気付けたから もう充分
・・・将君をはじめ周りの人には多大名迷惑を掛けてしまったわけだけど。
結局お茶も御馳走にならずに帰ることにした
それで良いと思う
「お邪魔しま「ちゃん!!」
もう玄関まで来たところで将君が大きな声共々走ってきた
え、え?
こんな事態は予想外だった
「将君?」
「ぼ、僕嬉しかった!」
は?
「実は次の対戦相手が飛葉中って事はもう知ってて・・・あ、でもちゃんがマネージャーって事は知らなかったよ
あぁそうじゃなくて・・・ちゃんが自分からそうやって話してくれたのが嬉しかったんだ」
人は幸せの中にいると自分が幸せだって気付かない
「だから」
私は昔から人付き合いがこの上なく下手で
友達、に一体どんな事をどこまで話して良いのかよく分からなくて
「だから、ありがとう」
にこって。いつもみたいに将君は笑ってくれた
こっちが嬉しくなる様な笑顔で
「試合」
手を、差し伸べてきた
「お互いに頑張ろうね」
将君の笑顔は伝染する
私を笑顔にしてくれる
「うん」
私も手を差し出してぎゅっと握手した
私は何て果報者なんだろう
「・・・話があるのですが」
ようやくテストが終わってこれからは試合に向けて猛練習!っていうちょっと前
いつものメンバーで昼食を取ってる最中
「何だよいきなり」
返事をしてくれたのはマサキ
私はやたらと緊張をしていて何故か正座までしていた
やっぱりこれで翼達には黙っておく、っていうのはずるい気がしてとの約束もあることだしこの際みんなに話しておくことにした
最近私が挙動不審だった理由 桜上水に友達がいること 大まかにだけどちゃんと話した
少なからずみんな驚いた顔をした
だけどだけはどこか嬉しそうなだけど真剣な顔で聞いてくれた
「・・・という事なんですけど」
たぶん女ってばれて再会したとき並に緊張したよ
・・・みんなが軽蔑とかしないでいてくれると嬉しいんだけど・・・
「ふーん、で?」
一番に口を開いたのは翼だった
いつもと変わらない顔でこっちを見てる
「で、って?」
「は結局どっちの味方かはっきりしろって言ってるの
中途半端な気持ちでマネージャーされても困るから」
ひとつ小さく深呼吸をする
「私は」
それは、昨日ようやく気付いたこと
「飛葉中のサッカー部員として、マネージャーとして
一緒に試合に参加したい」
しばらく翼は探るように私をじっと見つめ続けてたけどやがてふっと笑った
「それじゃ今まで以上にこき使わせてもらうよ」
いつの間にかみんなも笑ってて
一人嬉しいのに青い顔をするはめになった私
人は幸せの中にいると自分が幸せだと気付かない
私も
こんな素敵な友達が出来てこんなに幸せなことはないって
すぐに気付けなかったから
-------------後書き-------------------------------------------------------------
ちゃんはこれ以上強くならなくていいよ!(充分格好いいって評価頂いてるのに)
この話を書けてよかったなぁ、ってすごく満足してます。
かなり独白が多いんですがそれでもちゃんの心境がたくさん書けたことに満足
次はようやくって感じですが桜上水VS飛葉中戦です
今、貴方が幸せだと思うのも不幸だと思うのも貴方次第なんです。
11月13日 砂来陸