彼は
何でかライオンに似てると思った
テレビのドキュメンタリーでやってたアフリカの草原に住んでるライオン
不思議と怖いって感じることがなかった所が
すごく、似てると思った
本日ハ晴天ナリ
こうやってまじまじと天城君を見る機会は初めてだったけど・・・ロクより大きい・・・
人をこんなに見上げる機会なんて滅多にないのでちょっと感動だ
顔を上げたついでにそんな人物観賞までしていると天城君はまたもや不機嫌そうな顔になってしまった
「なんだ」
「いえっ身長が高いなーと思って・・・・」
正直に思ってたことを言うと天城君は少し驚いたように目をパチパチさせた(あ。何気に可愛い仕草)
それから何か言いたそうに一度口を動かして・・・閉じた
あーれー・・・何言おうとしたのかすっごい気になる仕草だなぁ
「・・・用事はこれだけだったのか?」
これ=お守り・・・だよね?
「はい」
よく分からないけどそのまま頷いた。うん、だって他に何も用事ないし
私の返事を聞いた天城君はまた少し不機嫌そうな・・・というか眉間に皺をよせた
ここまでくるともしかしてこの顔が天城君の普通なのかな・・・
「バスで来たのか?」
「はい」
何だかさっきから一問一答状態だなぁ
一体天城君は何が知りたいんだろう?
「・・・送る」
「は?」
天城君は私の返事なんて聞かずにさっさと歩き出した
え、え?
「・・・どこのバス停だ?」
そして数歩歩いたところで一度立ち止まって振り返った
どこのバス停って帰りはバスに乗る予定は無いんだけど(というか乗れないんだけど)そういうことはこの際置いといて
・・・・・この人って紳士!!
正直私なんかと一緒に歩きたくないだろうに送ってくれるなんて
と何だかよく分からないところで感動を覚えただった
どっちにしようと最低でも国部二部中まではたどり着かなきゃ行けないわけなので「国部二部中近くのバス停」ということで遠慮無く送って頂くことにした
「・・・・」
「・・・・」
ただ全く会話は無かったけど
無言でひたすら歩くのは何となく、息苦しい
こういうときって私から会話を振るべきなのかな・・・でも何話せば良いのかわかんないし・・・
『良いお天気ですね』いや微妙に曇ってるし
『国部二部中もテスト週間なんですか?』これで「あぁ」の返事一言だったら会話終わっちゃうよ
『もうここで結構です』そんな訳あるか。道全く分かんないのに
いくつか候補を挙げてみるもどれもしっくり来ないと思っていたら天城君の方から話しかけてきてくれた
「・・・どうしてあれば俺のだと分かったんだ?」
あれ=お守りだよね。もう確認するまでもなく
ここで将君の名前を出すのはどうかと悩んだけど出さないと話は進まないのでさらっと出してみた
「桜上水中の風祭君って子が教えてくれたんです」
「風祭が?」
さらっと流して貰おう作戦だったのにむしろ食いつかれた
「お前風祭と知り合いなのか」
「友達なんです」
あ、れ
何気なく言った一言のつもりだった
『友達』
あ、そっか
いつだったか将君に言ったことがあった
あれは確か将君が水野君と喧嘩した時だった
『言わなきゃいけない事もある』
どうしてもっと早く思い出さなかったんだろう私が自分で言ったのに
すっ、と心のもやが晴れたような気がした
言おう
帰ったら真っ先に将君の所に行こう
「ありがとう天城君」
思わず呟いてしまった
もちろんの事ながら何のことか理解が出来ない天城君はかなりうろんげな目でこっちを見た。曖昧に笑ってみたら無視された。
いや、これで天城君に笑い返されても困るけどさ
「お前、飛葉のマネージャーだったな」
「? はい」
「・・・どうしてマネージャーをしてるんだ?」
「は?」
何その意図が掴めなさそうな質問は・・・
マネージャーをしてる理由なんてうちの学校が部活動強制だったからで
土日しか参加できないけどそれでも良いって言ってくれたからで
そして何よりー・・・
「サッカーが好きだから、ですよ?」
たぶんそれが一番の理由だ
そしてきっと天城君だってそうなんじゃないの?
当たり前の事を答えたつもりだったのに天城君は何故かすごい驚いた顔をした
「・・・天城君は違うの?」
まさかと思うけど嫌々サッカーをしてるんだろうか?それであれだけ技術があるならそれはそれですごいけど
「・・・違わない」
良かった。
人は人、って割り切るのは簡単かもしれないけど私はやっぱりサッカーが好きだから出来れば天城君もサッカーを好きでいて欲しい
かなり身勝手なんだけど。自分が好きな物をキライって言われるのは辛いでしょう?
「・・・お前、風祭の友達なだけあるな」
「はい?」
何でそこで将君が出てきたんだろう?
聞きたかったけどあんまりにも天城君が嬉しそうだったので聞くのを止めておいた
ん?
嬉しそう・・・?
急いで天城君を見直すと天城君は少し、笑ってた
・・・・笑ってる顔初めて見たよ
本当は笑ってるというよりどこかふっきれたようなそんな顔だったけどそれでも今まで見た中では一番穏やかな顔だった
しばらくぼけっと見惚れていると天城君が不思議そうな顔をした
「どうしたんだ?」
「・・・ううん」
よく分からないけど彼は彼なりになにか『出口』を見つけたんだろう
私と同じように
そう思うと何だか親近感が沸いてきて国部二部中までの道のりが少し弾んだ
そもそも最初に感じた通り天城君は怖い人じゃなかった(見た目はちょっと怖いけど。大きいし)
それに今頃気付いたけど歩幅だって私に合わせてくれていた(やっぱり紳士だ)
ただショックだったのは
「・・・名前」
「え?」
・・・・どうやら彼は私の名前を知らなかったらしい(だから最初「飛葉中」って言ったんだね!)
かれこれ10分くらい一緒に歩いてるのにこれから自己紹介なんて変な感じがしたけどとりあえず名前だけ言うことにした
「三上です」
「・・・天城遼一だ」
天城君は愛想が無いし取っつきにくい感じがするけど決して怖くはなかった
それは勝手に親近感を持ってるせいでもあるし元々私の考え方が可笑しいんだろう
私は基本的にサッカーが好きな人に悪い人は居ないと思ってる
自分でもほとほと単純思考だよなぁって思うけどやっぱりサッカーが好きな人なら大丈夫だと思ってしまう
・・・亮に言ったらたぶん呆れられる通り越して笑われそうだ
「バス停って此処で良いのか」
いつの間にか、国部二部中の目の前まで来ていた
天城君は律儀にもバスの時刻表を確認してくれている(ホントに紳士だよこの人・・・)
って言うか
バスの時刻表を確認してもらってまでして悪いけど私はバスには乗らない(お金足りないからね!)んだけど・・・良い辛いなぁ
「あの「次のバスはすぐ来るみたいだな」
・・・思いっきり被ったよ
もうこの際だからバス待つふりでもして天城君が帰ったのを見計らってから家に電話しようかな
「・・・今日は悪かったな
わざわざコレ届けてもらって」
「大事な物だったんだね」
そう言うと天城君はぎこちない感じで「あぁ」と頷いた
お礼を言われるような事はしてない
むしろこっちがお礼を言わなきゃいけないくらいだ
二度目だけど今度はちゃんと心の中で(でなきゃ変人扱いされそうだし)
ありがとう天城君
結局天城君はバスが来るまで一緒に待っててくれてそれじゃあバスに乗らざるを得ないっていう状況になってしまって結局手持ちのお金で行けるところまでは乗ることにした
・・・で何て言って別れよう?
バスに乗り込む瞬間もまだ天城君は居た(運転手さんに乗らないの?と聞かれたくらいだ)
さっと乗り込んで上半身だけ振り返る
「えーっと・・・それでは?」
何て変梃な挨拶だろう!天城君が反応に困ってるよ!
それでも天城君は挨拶を返してくれた
想像もしなかった挨拶を
「・・・試合頑張れよ」
まさか言ってくれるとは思ってもなくて
僻みでも妬みでもないその言葉を貰えるなんて思ってなくて
思わず泣きそうになった
「ありがとう」
三度目のお礼はちゃんと声に出して
バスの出発音に半分かき消されたかもしれないけど笑顔で言えた
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天城君と仲良くなるの巻でした。
一度挫折しかけて立ち直るって言うのはすごく大変な事だと思うんです。
だからじっくりと書きたかった。
できればこれの天城君視点を書けたらと思ってます
11月8日 砂来陸