太陽も少しずつ傾いて

ようやく夜の訪れを告げる

というわけで

部活終了




本日ハ晴天ナリ




「お疲れ様でした!」

挨拶もそこそこには急いで鞄を手に取った

着替える時間すらもったいない!と言わんばかりだ

「それじゃ、お先!」

もちろんが急いでいるのは理由があった

バタバタと急ぎ足でグランドを突っ切るとそこにはお母さんがいた

私が来たことに気付くとにっこりと笑顔を向けてくれた


「そんなに急いでこなくても大丈夫だったわよ?」

「・・・待たせるのはどうかと思ってね」

待って貰ってる間にまた問題起こされたらと考えたら走らずにはいられなかったの。という言葉は寸前で飲み込んだ


「・・・で本当は何で来たの?」

「本当も何も仕事が早く終わったからよ」

お母さんは疑うなんて心外だわ、と言わんばかりの顔をした

「そうじゃなくて・・・それじゃあ質問を替える。これから何処に行きたいの?」

いくらうちの母親でも何の用もなしにわざわざ学校まで迎えには来ない

来るとしたらやはりそれなりの用があるに決まってる

そう例えば・・・「これから夏物の買い物に行きましょう」とか「実は食べたいものがあるの・・・」とか

とにかくお母さんの手料理が食べられるのが直ぐじゃないことだけは確かだった


ちゃんは本当に鋭いわね〜」

「って事はやっぱり何かあるんだね」

脱力しきってるとお母さんは照れた様な笑いを浮かべた(間違ってもここは照れるところじゃないと思う)


「実は・・・

 噂の『おやっさんのおでん』が食べたいの」

やっぱり・・・

久し振りに食べれると思ったお母さんの手料理は残念ながら延期になりそうだ


「そうそう、忘れるところだったわ」

「?」

車を目前にしたところでお母さんは何かを思い出したらしい

「実は2人じゃないの」

「は?」

一体何を言っているのかイマイチ理解出来なくて首を傾げる

もしかして翼達も連れて行きたいとか言うんじゃないんだろうか

軽自動車だからそんなに大勢は乗れないんだけど・・・

そのまま車のドアに手を掛けた

「将君も一緒なのよ」


開けたドアの中には


「・・・こんばんはちゃん」


とっても居心地悪そうに座っている将君がいた


「ごめんね、迷惑じゃなかった?」

「ううん、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしたけど・・・」

将君の話によると部活が終わって自主練をしようと河原に向かっていた所、通りかかったお母さんに

「将君、一緒にちゃんのお迎えいかない?」と一応疑問系ながらもほぼ強制的に車に乗せられたらしい

・・・お母さん、一歩間違ったら犯罪だよ・・・

お母さんは将君がお気に入りだ

小柄で犬を連想させるような相貌に愛嬌を感じるらしい

「都さんはおやっさんのおでんまだ食べたことなかったんだね」

「うん。お持ち帰りしようかなって思ったんだけどやっぱり屋台で食べた方が美味しいからね」

余談ながら。将君はお母さんの事を『都さん』と呼ぶ(ついでに功さんも)

おばさんって呼ぶと拗ねるのだ(お母さんが)

「はぁ〜楽しみだわーうわさの『おやっさんのおでん』」

お母さんはさっきから何度もこのセリフを繰り返している

きっと本人は無自覚なんだろうけど顔の筋肉緩んでますよ・・・

将君もそれに気付いた様で2人で顔を見合わせてこっそり笑った

「おやっさんのおでんは本当に美味しいからきっと都さんも気に入りますよ」

笑いの残った声で将君がそう告げるとお母さんはとうとうはなうたを歌い出した


河原へ行くと相も変わらず暖簾の掛かった屋台が出ていた

「こんばんはー」

「おう、嬢ちゃん久し振りだな」

ひょい、と暖簾を少し持ち上げて挨拶をすると中にはおやっさんだけしか居なかった

「こんばんはっ」

「お、将坊も一緒か。2人してまたサッカーの練習か?」

気さくなおやっさんの挨拶でその場は随分穏やかなものになった

「こんばんはーっ」

が、お母さんの登場によって一気に場の雰囲気が変わった

「いらっしゃい!・・・ってこれまた別嬪な客だなぁ

 嬢ちゃんの姉ちゃんかい?」

ぱっと頬を赤くして嬉しそうな顔をした母はあえてスルーしよう

「いいえ、母です。

 おやっさんのおでんの事を話したら是非一度食べてみたいって言って・・・」

すぐさま訂正を入れた私をお母さんがちょっと残念そうに見ているのも無視することにしよう


最初のうちはまだ拗ねていたお母さんだったけどおやっさんのおでんを食べ出すところっと態度が変わった

「美味しいっ!」

「「でしょう?」」

偶然にも将君とピッタリ声が合ってまた、2人で顔を見合わせて笑った

おやっさんも嬉しそうだった

「こんな綺麗なお客さんが来るなんて。おやっさんもスミに置けないねぇ」

3人で仲良くおでんを食べながらおやっさんも一緒に談笑をていたら無精ひげと長い髪を蓄えたお客さんが入ってきた

「よぉソウさん」

「どーも」

「あっコーチ!」

「おっ風祭も来てたのか」

ソウさん?コーチ?

どうやらこの人はここの常連で将君の知り合いでもあるらしい

「桜上水のコーチさん?」

横でモゴモゴと餅巾着と格闘していたお母さんが私を挟んで将君に尋ねた

「松下です。えーっと風祭のお姉さん達ですか?」

ぶほっ

飲み込み掛けていたこんにゃくが変な気管に入ってしまい思いっきり咽せた

ちょっと待って

お姉さん達って複数形ということは私もお母さんもカウントされてるらしい

お姉さんと言われたお母さんはまた嬉しそうな顔をしたけど私は咽せたままでゴホゴホやっていた

ちなみに、将君は必死に誤解を解こうとしていた

「ちっ違いますよ!」

・・・ありがとう将君。必死で誤解を解いてくれて・・・・感謝の気持ちと

前にもこんなことあったような・・・と懐かしい記憶も蘇ってきた

それでもこの人を失礼だなぁと思えない辺り言われ慣れているんだ、と実感せざるを得なかった・・・(ちょっと悲しい)

「風祭より年下だったのか・・・これは失礼」

(あれ?)

苦笑まじりで謝られて目が合った瞬間、何か頭を駆け抜けた

(・・・・私、この人見たことがあ、る?)

しかし、映像が駆け抜けてくれたのはほんの一瞬だけでそれ以上には何も分からなかった

(えー?将君の試合を観に行った時だっけ?でもあの時は試合みるのと桐原さんのことでいっぱいいっぱいだったし・・・)

確実に見たことがある、気がする

「お名前は何て仰るんですか?」

ナイスタイミングお母さん!

「松下です」

ま・つ・し・た

あっ!!

「元新川電工の松下右左十選手!?」


思いっきり大声上げて指、指しちゃいました


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あれ、何か前にもこんな展開ありませんでした?
ワンパターンな自分の脳が嫌です・・・
本当に久し振りに書き上がりました・・・

                                       3月1日 砂来陸