バスの中からボーっと外を見てるとお母さんから電話があった
内容は
『ちゃんごめんねー今日飲み会入っちゃって・・・晩ご飯はいらないから!』
ラッキー
本日ハ晴天ナリ
よかった。晩ご飯作ってなかったからなぁ
ホッと一安心しながらマンションの階段を上る
それじゃあ自分の晩ご飯はあるもので簡単に作るか、などと考えながら階段を上っていく
カツンカツンと高めの靴音がやけに響いた
「あっちゃん!」
名前を呼ばれた
「将君?」
顔を上げるとそこにはサッカーボールを抱えた将君が立っていた
「どうしたの?こんな時間に・・・・」
ギクッ
確かに変だよね・・・私がこんな時間に外を出歩いてるって・・・(8時前)
「えーっと・・・ちょっと出かけててね。将君は?」
それとなーく話題を入れ替えてみた
これ以上関係ない人に迷惑掛けたくないしね
さて、改めて将君を見てみる
将君はボールを持っている ということは?
「僕はこれからちょっと練習してこようと思って」
やっぱり
「練習きつくない?」
「きついよ。でも
やっぱり僕はサッカーが好きだから」
・・・いいなぁ将君のこの笑顔 思わず私まで笑顔になってしまう
ホントにサッカーが好きなんだね
ん?なんだか私までサッカーがしたくなってきたぞ。
家は留守
今日は晩ご飯を作らなくても良い
と来たらやっぱり
「・・・ねぇ将君私も一緒に行っちゃダメ?」
私がそう言ったら将君はとっても驚いた顔をした
「え、でも時間が・・・・」
「今日はお母さんも帰ってくるの遅いから大丈夫。
それとも・・・私が一緒じゃあ迷惑かな?」
おぉ今度は激しく首を左右に振り出した
「そんな事ないよ!!・・・じゃあ一緒に行こうか!」
相変わらず将君は優しいなぁ
将君の練習場所は橋の下の河川敷らしい
川沿いの道を2人並んで歩いていくと一つの橋の下を指さして将君は言った
「ここだよ」
将君が指をさした所よりもすぐそばにあったおでんの屋台に目が向いていた私は慌てて橋の下を見た
そこは白いラインが引かれていて(大きさからしてゴールかな)
ボールの跡が暗闇でも分かるくらい残っていて
将君がいかに頑張っているのかが手に取るように分かった
「将君はいつもどんな練習してるの?」
「えーっとフリーキックとか・・・・」
ふぅん、決まった練習メニューがあるわけじゃないのかな?
「ちゃんはサッカー出来るの?」
うん将君なかなかの質問だね
そういえば将君とはサッカーした事なかったなぁ
一緒にテレビでプロサッカー観てて盛り上がった事は何度もあるけど
「私こうみえてもゴールキーパー(だけ)は結構上手いんだよ」
「えぇ!」
あれ、そんなに意外かな?それともフィールドプレイの方が得意そうに見えたとか?
「よし、じゃあ将君PKやろうよ」
と私が言うと将君はさらに驚いた顔をした
「え、でもちゃんその格好じゃあ動きにくくない・・・?」
その格好→ちょっとヒールが高めの靴(いや2aくらいだけど)
動きづらいかな・・・ジーパンくらいは耐えられるけど靴は辛そうだなぁ・・・
よし!
とりあえず靴はその場で脱いだ
さらに将君がギョっとした顔をしたけどまぁ気にしない
素足越しに草が少しくすぐったく感じたけどそれはそれで気持ちよくも感じた
ぺたぺたという足音付きで白い枠の前に立つ
「準備万端。よーし来い!」
ばっちり構えて待っている私を見て将君はかなり戸惑ったようだったけど「じゃ、じゃあ行くよー」と恐る恐るながらもボールを蹴ってきた
あ、手加減してる
甘い位置に来たボールがそれを物語っていた
軽く両手でボールをキャッチしてみせた
「将君、私が女の子だから手加減してるの?」
ボールを投げ返しながら尋ねた
それに対して将君はあえて音を付けるなら「ギクッ」って感じで
分かり易いなー
「ねぇ将君、将君は身長のことで差別されるの嫌だったでしょう?私だって女だからって差別されるの嫌だよ?」
静かにそう言うと将君は分かってくれたみたい
素直に謝ってきた
「うん、ごめんね」
将君は何となくだけど私と似てるところがあると思う
サッカーが好きなところもだけど
それよりも
サッカーが好きだけど出来なかったところとか
身長が低いからって三軍に落とされてしまった将君
女だからってサッカーが出来なかった私
うん、やっぱり似てるな
「ちゃん行くよー!」
二球目が来た
今度はさっきとは全然違って右上の取りにくそうな所
(うん、この感じ)
ボールだけを追いかけてるこの感じ
この感じが私は好きだ
走って大きくジャンプする
ギリギリキャッチ出来そうだったけどよく考えたらグローブをしてなかったからパンチングをする
なんとか、当たった
私の手に寄ってゴールを憚れたボールはコロコロと力無く地面を転がった
「どう?」
イタズラな笑みを浮かべて将君の方を見ると将君はどこか惚けたような顔をしていた
「将く「すごいやちゃん!!なんであんなに簡単に取れちゃうの!?」
び、びっくりした・・・ホントに驚いたよ将君・・・
いきなり尊敬の眼差しで私を見つめてくる将君に
「もう1球!」
止められて火がついたのか将君はやる気いっぱいだ
「うんいいよ」
私も楽しくて
またボールを投げてやる
そうして1球また1球と回数を重ねていく
将君のシュートは性格通りって言ったら悪いかな。足のフリが正確すぎて
ことごとく私がキーピングしちゃってるけど
それでも将君はすごく楽しそうだった
・・・・でも
そろそろ30球も超えようって頃
すみません、私かなり疲れてきました
「ちゃん!もう一球!!」
「い グゥゥゥゥ〜
・・・・・・・
・・・・・・・・・
今、ものすっごくみっともない音がしたよ!!
私のお腹から!!
だって・・・・今日はお昼も全部は食べられなかったし晩ご飯も食べてないのにこんなに動いたし(言い訳)
とにかく恥ずかしい!!!
「・・・・・えーっと、そこに美味しいおでん屋さんがあるから・・・・食べる?」
「・・・・・うん」
ホントに顔から火が出るかと思ったよ
おでん屋さんはすぐ傍にあった屋台だった
「おやっさん、こんばんは!今日はお友達連れてきたよ!」
のれんを上げながら元気に将君はそう挨拶した
もしかして将君って常連さんなのかな?
「さ、ちゃん入って」
屋台なんて初めてで、ちょっと緊張しながらのれんをくぐった
「こ、こんばんは」
おでんの美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐる
「これまたすごい美人さんだなぁ 将坊の姉ちゃんかい?」
おじさん素敵な一言目ですね
こう見えて将君より年下なんですよ(遠い目)
「ち、違うよ おやっさん!」
ありがとう将君、必死にフォロー入れてくれて(更に遠い目)
おでん屋さんのおやっさんは第一印象は正直怖そうだけど実際は気さくな人っぽいな。
だって将君は普通に喋ってるし
どうやって食べるのか分からないで座ったまま固まっているとおやっさんはいくつか適当に見繕ってくれた
「あ、ありがとうございます」
お礼もそこそこにおでんにかぶりつく(だってお腹空いてたんだもん)
パクリ。モグモグもぐ・・・
「おいしい!!」
うっわぁこんなに美味しいおでん食べたのは初めてだよ!!
何が違うんだろ・・・煮込み時間?やっぱりダシかなぁ??(頭の中で必死に分析中)笑
「嬢ちゃんいい食べっぷりだなぁ」
そう言われて無我夢中に動かしてた箸がピタッと止まる
ちらりと隣を見ると全く同じモノを食べていた将君がようやく2種類目に手を付けようとしていたところだった
自分のお皿に視線を戻す→既に空っぽになりかけ
・・・・・
私、女としてどうなんだろう
「いや、むしろ作ったもんとしては嬉しいかぎりだ」
停止している私を見かねておやっさんがそう言ってくれた
「ありがとうございます・・・」
ホントにありがたいね・・・
「ちゃんもしかして晩ご飯食べてなかったの?」
「うん。作る暇無くって」
実際は作る暇が無かったって言うより作らなかっただけなんだけど
「嬢ちゃんは普段 自分で飯作ってるのか?」
「はい。母が働いてるんで」
「ほぉ」
それ以前でも料理は好きだし別にいいんだけどね
「お弁当もちゃんが作ってるんだよね。あ、この間の卵焼きすごく美味しかったよ!」
「ホント?良かった」
ダシを変えたのがよかったんだな。よし、今度からあのダシにしよう
私はたまに将君のお弁当も作っている
だって将君ってばいっつもパンだって言うし。放課後も遅くまで部活頑張ってるんだからもうちょっと栄養があるものを食べて欲しいしね
そうじゃなくても将君は本当に美味しそうに食べてくれて、作るのが楽しい
結局3人でそのままいろんな話とかして(プロサッカーで盛り上がりました)
気が付いたら随分と遅くなってしまっていた
「それじゃあそろそろ帰ろっか」
「うん。おやっさん、ごちそうさまでした」
「おう、将坊も嬢ちゃんも又来いよ」
なんだか私はおやっさんに気に入ってもらえたようで
又来いって言われて嬉しかった
そんなおでん談話
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思った以上に「理想理論」の一日が長いです(笑)
せっかくなんでもう一話くらい書こうかなー?次の日の飛葉中にて、くらいで
おやっさんを書く事が出来てかなり大満足です☆
6月15日 砂来陸