キスされた
本日ハ晴天ナリ
バタバタと全速疾走で教室まで駆け込んだ
「あ、ちゃん。遅かったから先に教室に戻っちゃったよー」
呑気なの声が聞こえたような気がしたけどあんまり耳に入らなかった
「ちゃん・・・?」
「ごめん、。私帰る」
机の横に掛けてた鞄に机の上に置いてあった(たぶんが持ってきてくれたんだ)お弁当箱を無造作に突っ込んで
私はにそう言った
「えぇっちゃん!?」
「ごめん」
まだ何か言いたそうだったの言葉を遮って私は謝った
すると私の様子が普通じゃないと気付いたのか
「分かった。先生には気分が悪くて早退したって言っとくね」
あえて何も聞かないでいてくれた
「・・・・・ありがとう」
心の底から感謝した
きっと今の私には何を聞かれても答えられそうに無いから
何も聞かないでいてくれるのは本当にありがたかった
鞄を左手に持って走って学校を出た
丁度バスが来たところでそれに乗り込んだ
バスの運転手さんが不思議そうな顔をしていて見てたけど無視した
そうやって家に帰り着いて真っ先に向かったのは
洗面台
バシャバシャと激しく水音を立てながら顔を特に口周りを念入りに洗う
キスされたって気付いたのは
もう頭まで固定された後だった
いきなりのことで思考回路が飛びそうになって
抵抗が一瞬遅れた
「・・・・私の馬鹿」
ゴシゴシと手の甲が紅くなるまで何度も唇を擦る
擦った唇も手の甲も痛いけどそれでも手を止めない
頭を押さえてる手は私の力じゃ全然動かなくて
自由に動いた片方の腕を大きく振るって頬を殴ってきた
そうしてようやく体が離れた隙に全速疾走で教室まで駆け込んだ訳だ
「馬鹿・・・・」
もう一度呟く
それは自分への叱咤
背伸びをして男の子と付き合おうとしていた自分への叱咤
私はそうやって『理想論理』を叶えようとしていた
どれくらいそうしていただろう
制服を脱いで適当な私服に着替えてずっとベットで丸くなっていた
何も考えたくなくて時が過ぎるのをじっと待っていた
どれくらいそうしていただろう
ゆっくりと起きあがると放り出した鞄の中からケータイを引っ張り出し一つのアドレスを開く
発信をしようとして・・・
その手を止めた
(結局、私はまた甘えようとしてるんだ)
また助けを求めようとしてるんだ
そう考えるとどうしても発信を押せなかった
電話しようとした手は止めてメールを打つ
ただ一言
アイタイ
それだけ
(何やってんだろ私)
注文した紅茶はもうあんまり温度を持っていない
それでも構わず口に運ぶ
そろそろ空が紅くなってきた
この喫茶店に入ってそろそろ1時間が経つ
あんなメールを送ってはみたけどもちろん返事は返ってこない
別にそれは構わなかった
もともと返事が欲しかったわけじゃないから
逢いたくて逢いたくてしょうがなかったけど
逢ってどんな顔をしたらいいのか分からなくて
「何やってんだろ私・・・」
そろそろ帰らなきゃいけない きっとお母さんだって心配するだろう
そう分かってはいるもののどうしても足は動いてくれない
ブブッ
ポケットに入れていたケータイから振動が来て思わず肩が上がる
それはさっきメールを送った人からの電話で
出ても良いかと躊躇った
「もしもし・・・・?」
電話の向こうは何時聞いても安心できるテノールで電話してきたのはもちろんさっきのメールの事
「何でもないよ、ちょっとしたイタズラ」
あんなメールを送って心配させておいて何だけどこれ以上迷惑を掛けたくないって思い
わざと明るい声をだしてそのまま電話を切った
そうして一つ溜息を零す
(関係ないのに・・・)
誰かが手を引っ張って立たせてくれるのを待っているような自分があまりに情けない
甘えてられない、と
もう最後の一口になっている紅茶を飲み干してはようやく立ち上がった
その時
バンッ
カップを置いたテーブルに激しく手が置かれた
その手から腕へ
腕から頭へ
視線を移していくとそこには
「・・っと・・・やっと見つけたぜ・・・」
「・・・なんで」
額にはうっすらと汗が滲んでいて荒く息をしている
亮の姿があった
「な・・・んでじゃねー・・・よ。おまえが変なメールしてくるからなぁ・・・」
よっぽど走ってきたのか亮はまだ息が荒い
よく見るとまだサッカーのユニフォームを着ている という事は練習を抜け出してきたのだろうか?
ひとしきり肩で息をした後亮は私の向かいにドカッと座り込んだ
そのままコーヒーを二つなんて頼まれてしまって帰るタイミングを思いっきり無くしてしまった
「で、おまえどーしたんだよ」
あぁ何で来ちゃったのよ 顔を見ちゃったら絶対喋っちゃうって思ったから
もう会わずに帰ろうって思ったのに
「亮こそどうしてココが分かったの?」
家を出て無意識のうちにここに来てた
亮に会いたいって思って武蔵森近くまで来てしまったわけだけど本当に会えるとは思ってもみなかった
「おまえがメールでも電話でも可笑しかったから探してたんだよ。部活を抜け出して」
だからユニフォームなんですか・・・やっぱり亮は相変わらずチョットいい人なんだ
「まぁそんなことはどうでも良いんだよ俺の事よりおまえだよ」
手に持っていたコーヒーを置いて亮は真っ直ぐ私を見た
「何があったんだ?」
私はやっぱり亮に甘えてる
こうやって聞かれたら絶対に喋ってしまうんだから
「実はー・・・」
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久し振りのみかみん登場です。
何故か「轍」のシスコン三上は異常な人気を誇っているので登場させてみました(笑)
本当はこの話で理想論理は終わらせるつもりだったのですがもう一話続きそうです(^^;)
どうかお付き合い下さいな
6月3日 砂来陸