跳ぶときに何を考えてるか。

行きたい先のイメージ

地面から足が離れるイメージ

ここじゃない何処かへ






世界の終焉にようこそ9
(サイキックガァル)




『僕を連れて跳ぶことが出来る?』

『室長ずるい!自分だけ抜け駆けするなんて!』

『俺らも跳んでみたい!』

う、うん?

あの後私はコムイさんに連れられて白い白衣の人がたくさんいる部屋にいる

多分、この世界に初めてきた部屋

あの時は怖い、としか思わなかったけど今は大丈夫

入った瞬間たくさんの視線にちょっとだけびっくりしたけど

(か、神田さんプリーズ!)

相変わらず会話についていけない私

神田さんにくっついて歩いてここにも一緒に来てもらった

「・・・こいつらが一緒に跳ぶことができるか、だと」

「えっ!わ、私今まで二人以上で跳んだことなくって・・・」

ど、どうしよう・・・途中で一人落っことすかも・・・

いやそれはまだマシで下手したら体の一部だけ断片的に運んでしまうかも


こわい!


「あの・・・」

一人ずつでお願いします

どんどん小さな声になってしまった

少しの距離を分けてだったら大丈夫だと思う

「神田さん あの・・・訳して貰えますか?手を出して・・・力を、抜いて貰って、ですね

 距離はあんまり跳べないと思うんです。たくさん跳ぶんだったらどうしても短くしないと・・・」

私事ながら身体がもたないんです・・・

『オッケー!じゃあ僕一番で!』

ニコニコ笑顔で両手を差し出してきたのはコムイさん

え、とコムイさんからで良いのかな・・・?

「よろしくお願いします」

そっと手をとるとコムイさんはぎゅっと握り返してくれた


・・・赤くなってる場合じゃないよ私


きゅっと唇を噛む

よし、

小さく足踏み


「いきます」


『わ、いよいよ!?』

いち、に、

(さん!)

ぱちん、と耳に響く

くわん、と頭に直接振動が来る

と思ったらすぐに膝から地面に落ちた

「・・・っ」

『わぁ!本当に移動した!!』

・・・成功した?

さっきいたところから約10メートといったところか

うん、昨日よりは安定してる

着地も・・・膝からとはいえ昨日の背中からよりマシだ

『次俺!俺!!』

「はい・・・いきます」

タクシーの運転手さんってこんな気持ちかなぁ?

手を握ってリズムをとる

いち、に、さん!

『すげぇ!』

今度はちゃんと足の裏で着地できた

・・・緊張してたら失敗しちゃうのかなぁ?

ぼんやりと考える

そのあとも何人か・・・というかその場にいた全員(アレン・ウォーカーさんもいた。かえって緊張して着地に失敗。横倒しになりました。)

あはは、さすがに目がまわってきた

だけどここで倒れるわけにいかない

『はぁーすごいねぇ。空気抵抗すら感じないし身体にも何も影響がない』

『でも着地には波がありましたね。距離は目測で同じくらいでしたけど』

『うーん、それについてはまだ何とも言えないけど

 例えば一緒に跳ぶ相手の体重身長とか、跳ぶ位置とか、色々と条件があるんだろうね』

『へー』

『あくまで憶測だけどね』

・・・眠くなってきた

今、布団に入れたら3秒で眠れると思う

『大丈夫ですか?』

アレンウォーカーさん・・・

すみません、例の如く言葉がわかりません

『飲み物でも持ってきましょうか。ちょっと待ってて下さいね』

何もわかんないままにアレンウォーカーさんはいなくなってしまった

「おい。」

神田さんに呼ばれるとコムイさんがニコニコと何か話しかけてきた

わ、悪くは言われてないような気がするけど・・・

さん、どうぞ』

あ、アレンウォーカーさん

すっ、と差し出されたマグカップには湯気がたっている

「ありがとう・・・あ、thank you」

ふわりと香るチョコレート。ホットチョコレートだった

香りに誘われるように口をつける

喉を伝う温度に安心する

甘くて優しい味だった

(美味しい・・・)

『人数が多いから距離を短くしてもらったけどその気になればもっと長い距離が跳べるんだよね?

 昨日は神田君と部屋3つ分は超えた訳だし

 それに不可抗力とはいえ、国境だって超えて更に走ることもできるんだからこれは本当にすごい力だよ!』

嬉々として何か語るコムイさん。

不思議なことに神田さんはコムイさんが10話すのに対してすごく短い言葉で訳す

私に分かりやすいように訳してくれてるのかなぁ

理解力がない子だって思われてるのかも・・・それはちょっと悲しい・・・

延々とテレポーションの力を褒める言葉が続く

続く

続く・・・

慣れてない言葉のオンパレードにぎゅっと耐えてきたけど5分も経つともう無理だった

「・・・でも、人には足があるから」

ぽつり、と言葉が零れた

「あ?」

「結局、こんな力があったって歩けばいいんです。」

ゆらゆらと水面だけを見つめる。ホットチョコレートから上がる湯気が少しずつなくなってきたから見えてきた水面

零れる言葉は不自然なくらい部屋に響いた

「人は歩くために足があって、こんな力なくてもちゃんと移動できるんです。空を跳ぶ必要だって物を動かす必要もない」

私は、それで良かった

甘い甘い香りに酔うように

言葉は次々に溢れ出した

だって、これは褒められるような力じゃない

『・・・?ちゃん何て?』

『・・・後にしてくれ。今日はもう良いだろ。』

『・・・え、まだ』

『いいだろ』

『・・・はい』

「おい」

「・・・え?」

ぐいっ、と思いっきり腕を引っ張られた

わ、わわ!カップが!

何とか零すのは死守した

が、腕をとられたままなので微妙な体勢のままである

「置け」

「は、はい」

カップをそっと机の端におくと神田さんは勢いよく私を引っ張り始めた

「えっ!?」

「さっさと歩け」

コンパスの差ですか?私じゃ小走りじゃなきゃ追いつきません・・・!

今日は皆さんに挨拶する暇もなく、部屋を後にする羽目になった





『・・・デジャヴュですね』

『デジャヴュだな』

『デジャヴュだね』

残された面々は閉められたドアを意味もなく見つめ続けた