お母さんが言った言葉は今でも覚えてる

、貴方のその力は病気と一緒なの。

 病気は人にうつるでしょう?だから、貴方はあんまり近づいちゃ駄目なのよ」

ね?そう言って決して触れずに窘められたことは一度じゃなかった




世界の終焉にようこそ2
(サイキックガァル)




『さっきは悪かったね。追いかけまわしたりして』

また何か言われてる

相変わらず言葉は分からないがさっきまでと違った

柔らかい雰囲気だったので大人しく座っていた

それに彼も傍にいてくれた

真っ白な柔らかそうな髪の男の子

椅子を勧めてくれたのも彼だ

今私に話しかけているのは眼鏡をかけてひょろりと背の高い男の人だ

『君はどこから来たの』

語尾が上がった

・・・私に何か言ってる?

でもわかんない 何を言われてるのか

ゆっくり首を傾げてみる

これが今私に出来る唯一の意思表示だから

『ここがどこだか分かるかい?』

もう一度首を傾げてみる

『・・・もしかして言葉分からない?』

・・・もうこれ以上は首が動かない

困った顔をするしかなくなった。

もしかして伝わってないのだろうか。

「・・・ここはどこですか?」

意を決して口を開いたが男の人は瞬きをしただけで何も返って来なかった

やっぱり日本語じゃ駄目かぁ・・・

もう少し英語ちゃんと勉強しとけば良かった

チッ

・・・今、舌打ちが聞こえた

「・・・テメェ日本人か」

そしてその後 言葉が

「・・・は、い」

それは普段私が使ってる言葉と一緒で

目頭が熱くなる

ここが私の知らない世界じゃなかったことがこんなにも嬉しい


まっすぐな瞳が私を見ていて


チッ

また、舌打ちされた・・・

「・・・テメェはどっから入ってきた」

「・・・分からないです」

思いっきり睨まれてさっきまでとは違う意味で涙が出そうになった

「・・・気がついた、ら、ここにいたんです」

嘘じゃない。

跳んできた。それは分かってる

だけどテレポーションに物理的扉は通用しない。きっと文字通り突然現れたことになるんだろう

それにどうしてここに来たのかは私が聞きたいくらいだった

日本語を話してくれた男の人は 眉間を水で濡らしたかのようにしかめた

「・・・お前はここが何処だか分かるか?」

小さく首を横に振る

私が分かるのは言葉が通じない場所ということだけで

もしここが何処か分かってたらもっとちゃんと逃げてみせた・・・はずだ


「イノセンスというものを知ってるか?」

「イノセンス?」

オウム返しをすればまた、舌打ちが返ってきた

『おいコムイ』

あ、言葉が通じなくなった

ポツン、と取り残されてしまった

さっきまで日本語を話してくれた彼は私じゃない人と喋っている

『大丈夫ですよ』

とん、と肩に触れられた

振り返ると最初に私を助けてくれた男の子がにっこり笑ってこっちを見ていた

相変わらず何を言われたのか分からないけどこの人は私をかばってくれた

「・・・ありがとうございます」

お礼は日本語になってしまったけど

彼は笑ってくれたから

『・・・アイツは何も知らないみたいだ』

意識を集中させてみる身体の中に熱を閉じ込めるような、そんな感じ

いつもの癖で目を閉じるといきなり日本語が降ってきた

顔を上げるととても綺麗な顔の男の人がやっぱり怒ったような顔でこっちを見降ろしていた

「お前は何か怪奇現象に巻き込まれてここにきた可能性が高い」

怪奇現象?

いきなり非現実がやってきた

怪奇現象、という言葉で浮かんだのはUFOに誘拐される図だった

我ながら乏しい想像力である

「だから「跳んできました」まだ何か言おうとしてた男の人を遮って思わず叫んでしまった

周りのざわめきが消える

私の声だけが響く

それが少し怖かったけど言葉を続ける


「テレポーションって言うんですけど・・・ご存知ですか?」



「・・・テレポーション?」

こっくり、うなずく

「歩く訳でも、走る訳でもなくて、移動する力のことを言います。私、さっきまで学校にいたんです」

そこまで一気に喋ってふと口をつぐむ

綺麗な顔の男の人はぽかん、とした顔していた

・・・ですよね、普通の反応は

だけど私もここで気違いとか思われる訳には行かないのだ

「さ、さっきも一度だけ使いました・・・」

我ながら言葉足らずな説明だったが彼の顔つきがさっと変わった


・・・もしかして

ちらりと視線を下げると

あぁ、やっぱり

さっき刀を持っていたのは彼だったんだ

それじゃあ私の力は目の前で見ていたことになる

「・・・ちょっと待ってろ」

はい、待ってます。

こんな突拍子もない話を信じていただけるなら

本当にそのまましばらく放置だった

彼らが私には分からない言葉で話し始めてすぐにざわめきが上がった

『そんな力が本当にあるの』

きっとありえない、とか何とか言われてるんだろう

疑われるのは慣れてる

でも・・・

「今ここでその力を使うことができるか?」

声をかけられて顔をあげればみんなが興味津々にみていた

ここで嫌なんて言えるんだろうか・・・?

今日はもう2回跳んでる

あんまり遠くなかったら平気・・・かなぁ

「・・・大丈夫、です」

そう言って立ち上がる

座ったままよりも立ってた方が力は使いやすい

特に跳ぶのは鳥が羽ばたくようなイメージを持ってるので尚更だ

「・・・手を貸してもらえますか?」

「手?」

さすがに初対面の人とハグはできない

何故か睨まれつつ出された手を両手でぎゅっと包む

重ねた手は大きかった

『え、何で手を繋ぐの?』

『知るか。コイツが手を出せって言ったんだよ』

『神田。あんまりその人を睨まないでくださいよ。可哀想じゃないですか』

『うるせぇモヤシ』

「あ、あの肩の力を抜いて、できれば・・・動かないでください」

語尾がどんどん小さくなるのはこの人の目つきが怖いからだ

わ、私だってこの人よりも隣にいる優しい少年の方が良い

だけど言葉が通じないのに跳ぶのは難しいと思う・・・

すぅ、と小さく深呼吸。上手に跳ぶにはとにかく落ち着くことが大切でそれは一緒に跳ぶ人にも言えることで

(いち、に、)

よし、

(さん!)

足元が消えたような不安定さが襲ってくる

これで焦ってはいけないゆっくり身をその感覚に任せれば良いのだ

なのに


ぐんっと逆に手を引っ張られてしまった

バランスが崩される

・・・あ、失敗するかも