ドリーム小説
ご褒美を貰う権利はモデルにあると思う

だって『綺麗』を見せてくれたから

だから幸村さんの願いを叶えたのは至極当然のつもりだったけど・・・・・・


「何でも叶うならもっと他にあるでしょうが!」

「・・・・・・はっ!確かに毎食が団子になるように願うべきであった・・・・・・!」

「ちげーよ馬鹿!」

佐助さんご乱心です。






『三千世界の主を殺し 鴉と添寝がしてみたい』





「・・・・・・ちゃん」

「は、はい」

こ、怖いよう。ひとしきり幸村さんを叱っていた佐助さんは目が据わっている

「あれは何?」

「あれはケーキです。桃とマスカットが乗ってます。あと生クリームにさくらんぼが細かく刻んで混ぜてあるようです。大変おいしそうです」

「ますかっと?熟れてない葡萄に見えるけど・・・・・・なまくりいむって何だ・・・・・・って違う違う!!」

「ケーキは南蛮の甘味です」

「そうでもなくて!」

満腹でご機嫌らしいあっちゃんはいつの間にか消えていた。彼は高い所が好きなので今頃屋根の上でお月見でもしているんじゃないだろうか。

「・・・・・・君の言う『あっちゃん』は木の上にいるよ」

「あぁ・・・・・・細い枝でも平気で座ってるんですよ。あっちゃんって」

きゅうっと佐助さんが眉を潜める

「一体何なのあっちゃんって」

「あっちゃんは私が描いた絵が好きで、『綺麗』を描くと、お礼に何でも叶えてくれるある意味美食家である意味では暴食家ですね」

「冗談だと思ってた・・・・・・妖の類を見るのは初めてだったし・・・・・・まぁ旦那が気に入ってるみたいだからちゃん鈍臭そうだし害はないかなぁって思ってたし・・・・・・」

「今、鈍臭いって言いました?言いましたよね?いや、否定しませんけど・・・・・・」

「簡単に考えてたんだよ!ちゃんくらい!」

「すみません。あっちゃんもセットで」

「せっと?」

「一緒、です」

「うん・・・・・」

殿、このけえきも大変美味で御座る!・・・・・・して佐助。何故そんなに落ち込んているのだ?」

「旦那何食べてんの!?まだ毒味もしてないのに・・・・・・!」

「生くりいむは急いで食べないと溶けてしまうのだぞ?」

「え、そうなの?」

「うむ!佐助も食べてみよ!・・・・・・す、少しだけだぞ」

「・・・・・・顔中に生クリームつけて満面の笑みを浮かべる幸村さんは傍目にも大変幸せそうですね」

ちゃんそれ以上言わないで・・・・・・」

ガックリしてる佐助さんってなんだか新鮮だ

***

ケーキパーティを終えて部屋に戻ると小さな燭台が置かれていた

そのことにホッとする

こっちの世界に来て一番驚いたのはこの、夜の静けさだった

空が群青色になり夜の帳がおりてくるとあっという間に人々は眠りにつく

確かに電灯も24時間営業店もない夜は月明かりと篝火だけ

とても出歩けない

(それは、そうなんだけど・・・・・)

文字通り日の出と共に起き出し日の入りと共に眠りにつく生活だけはどうしてもまだ慣れない

(明かりつけっぱなしでも良いかな・・・・・・怒られるかな・・・・・・?)

トランクを引っ張ってくる

トランクは大学の研修・・・・・・という名のお遊びでアメリカへ旅行した時に買ったものだ。

見た目が可愛いと言う理由だけで選んだレトロな革トランク。

スーツケースよりこの時代に溶け込んでると思いたい

この身一つで戦国時代にやって来ましたと言えればかっこ良いけど私は私とこのトランクとやって来た

因みにトランクオプションは『減らない』だ

(せっかくだから明日は絵の具を使おう・・・・・水彩と油絵どっちにしようかな・・・・・・)

「眠らないの?」

驚かなかったのは心のどこかで見てるだろうなと思っていたから。振り返ると案の定居た

「まだ眠くないんですよ。だから少しお喋りでも付き合って貰えませんか?佐助さん」

篝火と同じ橙色が微かに揺れた

広げるつもりだった道具を仕舞おうとするがやんわりと手を捕まれた

「これも南蛮の?」

「はい。トランクと言います」

そう言いながらトランクを丸々佐助さんに押しやった。きっと中身が気になるだろうから

特に隠すものでもない。もしかしたら私が居ない間に他の人が荷物を改めたかもしれないが怪しい人という自覚があるので、まぁ許容範囲だ

「・・・・・・ちゃんって鈍いんだか鋭いんだかわかんないね」

「え、鈍いですよ。俊敏に見えますか?」

よく転ぶし粗忽者だと自負してる

刺すような視線にどうも対処出来ず代わりに思い出したことがあった

「約束したのに、絵」

佐助さんの瞳が揺れたのに気付いてしまった

「・・・・・・どうなったの?あの絵」

「なくなりました。文字通り」

スケッチブックを手繰り寄せ本来あった頁を開く

「・・・・・・」

そこは完璧な白紙

苦笑いが零れた

せっかく佐助さんが気に入ってくれたのに結局何も返せていない

怪しいけど悪くない絵を描く、から・・・・・

「怪しい奴、だけ残っちゃいましたね」

「怪しい奴のほうがマシだよ」


そっか。と内心頷く

幸村さんが特殊なのか。何事も無かったかのように私を、あっちゃんを受け入れて・・・・・・友達って言ってくれるのが。ケーキに釣られただけでないと信じたいなぁ。優しいから受け入れてくれるのかな。佐助さんも幸村さんが信じてくれるから受け入れようとしてくれてるのかな。

「なんでかあっちゃんが私の絵を気に入ってくれて、なんとなく一緒に居るんです」

ちゃんはそれで良いんだ」

そう。理不尽とか、横暴とか、なんだかんだ言ってもあっちゃんと一緒にいることに不満はないのだ


だってあっちゃんは私の恩人なのだから


思わず笑ってしまった私を佐助さんと月だけが見ていた