ドリーム小説
「源二郎さんはこのご近所の方なんですか?」

「う、うむ」

どっちだ?







『三千世界の主を殺し 鴉と添寝がしてみたい』







急かされるがまま荷物を纏め(紳士な源二郎さんは殆どの荷物を持ってくれた!お菓子だけど!)絵を描く道具一切が入っているトランクだけは自分で引っ張る。

慌ただしく女将さんに挨拶を済ませた

・・・あっちゃんの心配はしない。さっきから姿が見えないけど勝手に着いてくるだろうから

「わ!源二郎さんのお家ってすごく大きいですね!」

思ったまま言葉にすると何故か源二郎さんのほうが驚いた顔をした

え、え。ボキャブラリー少なくてすみません!

「・・・殿は」

「はいっ」

「・・・いや、何でも御座らぬ。それよりもこの上田城ではどうぞ幸村と呼んでもらいたい」

「幸村さん?」

「う、うむ」

「綺麗な名前ですね」

幸村さんが固まってしまった。何故に。音も綺麗だけど漢字がしあわせ、でしょう?綺麗じゃないか。

単純明快な思考回路な私だから幸村さんが驚くという理由が結局分からなかった。


源二郎さん、改め幸村さんはなんと上田城のお殿様らしい!わ、わ。私場違い

だけど幸村さんが「殿は某の客人である!」と・・・家来さん?女中さん?に大声で触れ回ったお陰で色々と人の目が痛かったです まる

「幸村さん、私そんな大層な身分じゃないですよ」

「では茶飲み仲間でいかがで御座ろうか?」

「あ。素敵ですね。ついでに甘味同盟でも結びましょうか!」

「良いで御座るな!」

やっぱり幸村さんワンコっぽいね

案内されるまま廊下を歩く。広いなぁ。

不意に幸村さんが足を止めた

「ふぎゃ」

鈍臭い自分が悪い、で見事に幸村さんの背中にぶつかった

「佐助か」

「旦那!」

(オデゴぶつけた・・・!)

「・・・その子が」

(地味に痛い・・・お、男の子って固いんだなぁ)

「?」

「こんにちはー」

「こ、んにちは!」

挨拶をされたので返した。

ん?誰?

橙色が、揺れた

「旦那。ちょっと」

「む・・・殿しばらくこちらの部屋でお待ち下され」

「あ、はい」

示された部屋はやはり広かった。い草の匂いがして、埃一つ落ちていない

橙色の髪をした人がニッコリと笑いながら障子を閉じた

そして障子越しに会話が聞こえてきた

「あのねぇ旦那、すごい噂になってるよ。旦那が城下で女の子引っ掛けて来たって」

「なっ・・・!」

「何処の子なの?身元がはっきりしてれば良いけど今はくのいちだって暗躍してるんだから気をつけてくれないと」

「し、失礼だぞ佐助!殿はそのような女子ではない!某の、友だ!!」

「だからそのお友達のちゃんは何処の誰だって聞いてんだよ」

あれ、もしかしなくても歓迎されていない

橙お兄さん、の言ってることは分かる。

そうは見えないけど幸村さんは一城の主で、それ故に色んな危険と隣り合わせで、橙お兄さんは心配しているのだ

(私不審者だなぁ)

身元?住所不定、職業はプータローで趣味で絵を描いてます。

・・・怪しいの代名詞になれそうだ

幸村さんは良い人だ。だから私は荷物を持ったまま障子を開けた

「幸村さん」

驚いた顔の幸村さん。うん、ごめんね聞こえちゃったよ。

橙色のお兄さんは表面上は何でもない風を装って、それでいて視線はビシバシと痛い

「幸村さん、図々しくお邪魔してごめんなさい。私帰りますね。だから喧嘩しないで下さいね?」

殿が出て行かれる必要はない!」

彼は何処までも優しい

「幸村さん、心配してくれる人を困らせちゃ駄目ですよ」

それから、と橙色お兄さんに向き直る

「・・・わ 綺麗な髪ですね」

お邪魔しました、というはずが何故か斜め上の考えがポロリ言葉になった

きゅう、と橙色お兄さんの目が細くなる

不審者に加え頭のネジ飛んでるなんてレッテル貼られたらどうしよう。慌てて言葉を続ける

「我ながら怪しいですけど決して幸村さんに害を為すつもりじゃありませんでした。お邪魔しました」

本当なら座って挨拶すべきなんだろうなぁと思いながら長い廊下を歩き出す。

あ、幸村さんにお菓子預けたままだった。良いっか。あんなに喜んでくれる人そう居ないし。迷惑かけたお詫びに

不意に見知った気配を感じた。この世界に私を連れてきたただ一人の

気まぐれで傍若無人で食いしん坊な

「あっちゃん」

空気が揺らめく

爬虫類を思わせる金色の瞳が私を射ぬく

あっという間に目の前に現れたあっちゃんはスルリと腕に触れた

まるで猫のしっぽを思わせる動きだった

「うぇ?どしたのあっちゃん?」

そして次の瞬間その場は戦場と化した

少し、考えれば分かることだった

自分にとって当たり前すぎるあっちゃんの登場だが端から見たら突然、湧き出たように見えたことだろう

何奴!?忍か!?妖!!

あ、最後の正解。