あっちゃんは私の描く絵が大好物らしい

どれくらい好きかというと引き換えにどんな願いも叶えてくれるほど

それだけ聞けばすごく良いことずくめだけどあっちゃんはかなり食いしん坊で、横暴だ

どれくらい食いしん坊で横暴かと言うと『食べたい世界』へ私を強制連行してしまうほど

「・・・・・・どこですか。ここ」

そんなこんながありまして、私は現在群雄割拠な戦国時代にいる、らしい





『三千世界の主を殺し 鴉と添寝がしてみたい』





あっちゃんは時に人だったり大蛇だったり鴉だったり…変化自由な生物。動物図鑑には載っていまい。

多分妖怪とか、そっち系だ。ちなみに無口。ついでに多分、雄。

本名は別にあるだろうけど私はあっちゃんと呼んでる。妖だからあっちゃん。ネームセンスについて苦情は受け付けていません

有無言わせず人を過去の日本に連れてきて私が描いた絵を嬉々として食べている

良かった。自分でもなかなかの出来だと思っていたけどあっちゃんの…胃袋もお気に召したらしい

よし、決めた!

『部屋から溢れんばかりのお菓子』を私は願った

「ケーキ!ゼリィビーンズにチョコレート、クッキーとプリンそれからマドレーヌにシュークリーム!あ、あとラスクとキャラメルが食べたい!」

畳の上にアンバランスながら次々と現れる懐かしい現代のお菓子

ひとつ、瞬きをしている間に3段重ねケーキが一つ増える

音を立ててゼリィビーンズが降ってくる

「幸せ・・・・・・!」

とりあえずゼリィビーンズを一つ口に放り込む。甘いっ。次はクッキー。アーモンドが小気味よい音を立てて砕けた。思わず足をばたつかせる。

この時代ならはしたないと言われるだろうがそれくらい、悶えるくらい美味しいのだ。

糖分万歳!

ちょっとずつ、四方に手を伸ばす

右を見ても左を見ても素晴らしいお菓子の山。気分はヘンデルとグレーテル・・・・・・なんちゃって

「あっちゃん最高だよー!懐かしいって変な感じだけど久しぶりの生クリームにぶっちゃけ泣きそうです」

人差し指で生クリームを掬って舌で舐めとる

次はチーズケーキ、と手を伸ばした所で動きが止まった

「あ、あっちゃん・・・・・・?」

ふよん、そんな擬音が似合うあっちゃんの手にはゼリィビーンズ

それは問題無い。増やして下さるなら有り難く頂戴致します。

しかし、問題はそのゼリィビーンズが窓から舞い散っていることにある。っていうか窓開けた覚えとかない。・・・・・・あっちゃん?

「ちょっとぉストップ!ストップ!!あっちゃん駄目!落ち着こう!?」

結論を言えば遅かった

カラフルなゼリィビーンズは綺麗な弧を描きながら落ちて行った

しかも間を置かずあっちゃんはホールケーキもぶん投げた

リアルパイ投げ初めて見た・・・・・・!いや、そうじゃない

「あっちゃん!」

人型になっているあっちゃんは煩い。と言わんばかりに片方の眉を上げる。なまじ美人な人型なので迫力満点だ

「部屋から溢れんばかりって言うのは溢れそうで溢れないことを言うのであって、実際には溢れちゃ駄目で外に人がいたらさぞかし奇妙な光景で、ね」

不自然にねの部分が震えたのはあっちゃんが姿を眩ませたからだ。さすが妖。フリーダムすぎる。心が折れそうだ

(・・・・・・とりあえず、お菓子拾ってこなきゃ)

ゼリィビーンズはまだ良いとしてケーキは無残な姿になっているだろう・・・・・・もったいない・・・・・・!

よっこらしょ、立ち上がり襖に向かう。のろのろ指先が触れる瞬間、勝手に襖が動いた

「っ!?」

ケーキが化けて出た

冗談じゃなくて

ケーキから手足・・・・・・正確には人間の顔の部分がケーキになった化け物がそこに立っていた

某スケート選手のようにのけ反る

「ち、ちょっすみませんでしたっ!食べ物粗末にしたから?そのせい?って言うかそれだったら元凶は私じゃなくてあっちゃんだから・・・・・・!」

私、若干涙目。

「・・・・・・」

「っ!動いたっ!だ、駄目っこっちこないでぇ!!」

「・・・・・・」

敷居を跨ごうとするケーキお化けに呼吸が可笑しくなる。

怖い怖い怖いっ!

妖のあっちゃんと一緒にいても私はただの人間なのだから

「・・・・・・ぅ」

何か呻いてる・・・・・・!

あっちゃん・・・・・・!頼むから戻ってきて・・・・・・!私には無理難題です・・・・・・!

ジワジワ迫りくる波。それは少しでも気を抜けば遅いかかってくる。瞬き一つ自由にならないのを内心呪いながらはその場から動けなかった

ケーキお化けが顔を剥いだ

(え、えぇええ!?)

なんだ実はアンパンマンのお友達であっちゃんの力で実態化しちゃったケーキマンとか?え、

頭の中でぐるぐる考えていても身体は微動だに出来ない。あまりのことに硬直してしまっている

「驚かせてしまい相すみませぬ!」

「は、」

「申し訳ないのだがこの色鮮やかで甘いものは貴殿のもので御座ろうか!?」

「え、あ。ゼリィビーンズ・・・・・・あ、はい」

「つい先程この宿の下を歩いておったのだが上から落ちて参ったのだ」

「あ、そ、ですか」

「見たことのない物でござったが甘味の匂いがしたので口にした所、大変美味でござった!」

「ええっ拾い食いしちゃったんですか!?」

小さな子供ならまだしも・・・・・・色々心配しちゃうよ!

「も、申し訳ありませぬ・・・・・・」

「あ、いや怒ってる訳では・・・・・・あ、その顔に乗っけてるのも・・・・・・あ、甘い食べ物なんですよ」

「なんと!も、もし宜しければ・・・・・・少し頂いても・・・・・・!」

(いやいや返されても困るしね)

「どうぞ」

「有り難く!」

なんだか妙なことになってきたぞ

ガブリとケーキの残骸・・・・・・いや、ケーキだったもの。うん。そんな感じで、を「美味でござるー!!」と叫びながら食べているのはお化けじゃなくてどうやら人間。それもなかなかのいけてるメンズ。略してイケメンなのだ。

とりあえず女将さんに桶と手ぬぐいを貰おう。そうしよう

「お兄さん、座りませんか?立ち食いは行儀悪いですよ」

我ながら可笑しな台詞だと思ったけど口から出てしまったので取り消せない

全く、こないでぇと絶叫したのはどの口だ。この口だ!

「うむ。忝ない!」

お兄さんは大変素直な性格らしい。

「散らかってますけど気にしないで下さいね」

招き入れ自分はそそくさと部屋から出た。

・・・・・・案の定心配そうな顔をした女将さんとかちあう。

「お客さん、えらい声がしましたけど・・・・・・」

ですよねー

「ごめんなさい。女将さん。ちょっとびっくりしちゃっただけなんです」

どんな驚き方?といいたげな女将さんだったがそこは接客業。作り笑いで去っていった

あ、桶と手ぬぐい!

***

「某、さ・・・・・・げ、源二郎と申す」

お兄さん、落ちついて

「私はです」

よもや自分の名前で噛むとは・・・・・・うむむ。

お兄さん、改め源二郎さんは甘い物が好きらしい

ケーキだったものをぺろりと平らげ部屋中溢れていた他のお菓子もそれはそれはキラキラした目で見ていた。どうせ一人では食べ切れないので一緒に食べることに

「この白く溶けてしまいそうなものは何で御座ろう?」

「クリームです。生クリーム。本来冷やしておかなきゃいけないお菓子なんですよケーキって」

ふわふわの生クリームとスポンジに感激したらしい源二郎さんは時々雄叫びを上げた

女将さんに怒られる

一つ一つお菓子について質問され、答える

楽しいなぁ

「某、このような甘味を食するのは初めてでござる!」

「えーっと南蛮の甘味なんですよ」

「で、ではかなり高価なのでは・・・・・・」

そう言いながらも源二郎さんの手は止まらない

いっそ清々しいよね

「まぁ確か頻繁に食べられる物じゃないですけど、今日は特別です!源二郎さん程おいしそうに食べてくれる人、そういないですから」

一人より二人のほうがきっと美味しい

決して彼がイケメンだからではない

「今日、源二郎さんに会えて良かったなぁ」

「ブホッ」

「ぎゃっ!大丈夫ですか!?」

「い、いきなり、何を・・・・・・!は、破廉恥・・・・・・」

「破廉恥?い、いやいやそんな意味じゃなくて!私この土地の人間じゃないんで偶然、この宿屋に泊まってて偶然出会ったのってすごいなぁ、って意味ですよ!」

「・・・・・・殿は甲斐の者ではないのか?」

「はい。あっちこっちフラフラしてます」

「フラフラ・・・・・・」

「えへへ。実は私絵を描いておりまして、この甘味はその報酬な訳ですよ」

「なんと!殿は絵師でござったか!!」

「絵師なんて立派なものじゃないですよー趣味の延長線みたいなものです」

「ち、ちなみに殿がまた絵を描かれれば・・・・・・その、このけえきがまた食べられるので御座ろうか?」

「けえき?あぁケーキですね。うーん、綺麗な絵だったら、そうですね」

あっちゃん次第なんだよなぁ。

「綺麗?」

「はい。私に報酬をくれる方って綺麗な絵が好きなんですよ。だから私は綺麗な絵を描くために色んな場所を旅しているのです」

大変大変厳しいあっちゃんは同じ絵とか絶対に食べない。同じモデルでも風景でも違う『綺麗』じゃないと駄目なのだ

「綺麗な物・・・・・・で、では某が準備致しまする!代わりにまたこのけえきを分けて戴けまいか!?」

予想外な言葉に目を丸くする。綺麗な物、多分源二郎さんが言うのは名器や細工だろう。・・・・・・もしかして源二郎さん名家のお坊ちゃまなのかな?

「・・・・・・気持ちは嬉しいんですけど私夕方には此処出るんですよ」

言わないけど源二郎さんの思ってる綺麗な物があっちゃんの望む綺麗な物の可能性は低い

あっちゃんは無機質な物はあんまり好きじゃないのだ

「というか源二郎さんこれだけ食べてまだ食べたいんですか?日持ちするもの・・・・・・ゼリィビーンズとか持って帰ります?」

「なんと!甲斐を出られるのか!?」

「は、はい」

日頃は宿に泊まることがない。野宿だ

この宿に泊まったのは女将さんに頼まれて掛け軸を一枚描いた御礼。ご好意に甘えてしまったのだ

「だからごめんなさい」

むぅ、と源二郎さんは難しい顔をしてしまった

え、ゼリィビーンズだけじゃ不満ですか?

「何か急ぎの用でも?」

「そんなのは無いです」

ホント気ままに絵を描いて歩いてるだけなんだから

パッと源二郎さんが笑顔になった

「では某の城に参られぬか!?」

は?

「うむ。そうと決まればすぐにでも参ろう!」

えっと