「・・・ああ、寒い」

主に財布が。

俺仏教徒だしX'masとか関係なくね?

そう言った彼氏。と大喧嘩したのが昨日

そのままコンビニに寄ってデザートを馬鹿みたいに買ってやけ食いをしました

「先生絵本借りて良いですかー?」

「あら、ちゃん」

あ、申し遅れました。私並盛幼稚園で保母さんやってます。

陰欝な顔を隠して慌てて笑顔を作る

園児だからと油断しちゃいけない。鋭いんですよ、子供って

ふわりと揺れる稲穂色の髪に大きな瞳。どこかリスを連想させるなぁ、と思う

沢田ちゃん

大人しく目立たない子でよく部屋の中で絵本を読んだり絵を描いたりしてる

みんなこんな子供だったら苦労しないんだけどなぁ

最近は生意気な子供が多い。先生、彼氏いるのー?とか平気で聞いてくるし。親も親よ。先生まだ結婚なさらないの?・・・余計なお世話よ!

X'masの予定とか聞いてくるな!思いっきりプライベートでしょ!

「・・・ねえちゃんの家はどんなクリスマスするの?」

ぼんやりと昔のケーキを食べてサンタとプレゼントを待つ楽しいX'masだった頃を思いだす

目の前にいる少女もそんなX'masを過ごすのかしら?

キラキラした笑顔で飾り付けの話でも聞けるのかと思いきや

「・・・何もしないと思います」

「え?」

「パパ忙しいからクリスマスは一緒に過ごせないって・・・。あ、でもお正月は会えるんです!」

・・・失敗した

そういえばちゃんの家は複雑らしく両親とは一緒に暮らしてないんだった

ごめんね、と言おうとしたけどお正月の話を楽しそうにしてるのに水を差すのはKYだ

「・・・お正月楽しみね」

そう言うと花がほころぶような笑顔を見せてくれた

「・・・はいっ」








い*ち*と*せ-乃東生-







・・・なんて、会話をしたのが2日前

この日、並盛幼稚園の前に場違いにも程がある外車が止まった

「せ、先生っ怖い人が来た!」

「真っ黒の車!」

「入って来たの!!」

「サンタさんかと思ったのに!」

「トナカイいなかった!」

「ちょ、ど、どうしたの?みんな」

なだれ込んで来た子供達の言葉は全く理解できなかった

落ち着け落ち着け、と一人ずつ宥めていく

「何があったの?」

「おい」

そこに立っていたのは確かにサンタクロースじゃなかった

「沢田はどこだ」

・・・

・・・

キャーっと悲鳴を上げて一目散に走り去って行った子供達が恨めしい

「あ、あのっ・・・ちゃんの・・・お、お父様で」「あんな奴と俺を一緒にするな」

超怖い!!

睨まれただけで石になりそうなんですけど!

「で、ではどのような」「つべこべ言わずにを呼べっつてんだろうがカスが」

泣いても良いですか?

幼稚園の警備について物申す!

私?私が悪いの?

部外者がホイホイ入ってくるってどうなのよ!(実際は外にいた保育士の面々が入園拒否しようとして・・・蹴散らされました)

・・・これはあれだ。レベル1の勇者がラスボスと戦う?みたいな。武器は木の棒と革の盾?みたいな

勝てる訳ないでしょ!?

「・・・少々お待ち下さい」

勇者は逃げ出した

***

「・・・ちゃ〜ん」

聞こえただろうか。ちゃんは、さっき逃げ出した子供達に囲まれていた

ちゃん逃げたほうが良いよ!」

「怖い人が来たんだよ!」

「サンタさんじゃないんだよ!」

・・・あぁデジャヴュ

「・・・先生?」

困惑した瞳が助けを求めていた

ちゃん・・・助けてあげたいけど私レベル1の勇者なのよ

「えーっとねちゃんにお客さんが来てるのよ」

お客さんって言うか魔王的な・・・

「お客さん・・・?」

「(良く言えば)口数の少ない人でね、名前聞けなかったんだけど(良く言えば)目つきの鋭い人で・・・あ、でもお父様ではないそうよ」

「・・・誰でしょう?」

首を傾げるちゃんにも心あたりはないらしい

・・・それなのに連れて行っちゃって良いの?

私本当に誘拐か何かの手伝いしてるんじゃないの?

どんどん私のあしどりは重くなるのにちゃんは好奇心が強いのか軽くステップを踏むように進んで行く。そうして無情にもドアを開けてしまった…

無力な私を許して下さい

ばっくんばっくんと心臓が変な音をたてている

あれ、これ今流行りの不整脈?

なんて現実逃避

もしかしたら職員室が見る陰もない姿になってるかもしれない・・・そう思ったが意外にも出てきたままと同じ状態だった。

そして職員室が恐ろしく似合わない真っ黒いお人

・・・ちゃんは目を丸くしていたがみるみるうちに笑顔に・・・え、笑顔?

「・・・ザンザスさんっ!」

「元気そうだな。

え、

え、え、一体どういう事?何でちゃん笑顔なの

「びっくりしました!ザンザスさんが来るって知りませんでした」

「仕事が早く終わったんだ。暇つぶしにお前の顔でも見てやろうと思ってな」

「お仕事お疲れ様でした」

にっこり、そんな音が聞こえつきそうだった

ちゃんは真っ黒な・・・ザンザス、さん?外人さん?に躊躇いなく近づく

ザンザスさんもちゃんの頭をくしゃりと撫でていた

・・・あ、あれ?お知り合い・・・ですか?

「沢田綱吉は仕事らしいな」

「・・・はい。何度もごめんね、って電話で」

「そんな顔するくらいならさっさとイタリアに永住すれば良いだろ」

イタリア?

ちゃんのご両親ってイタリアに住んでるの?

わ、私、海外って大学の卒業旅行で韓国行った一度っきりなのに!

すごい・・・しかも永住って・・・雲の上のお話だわ

「・・・ここも好きなんです」

しょんぼりしてるちゃん。確かに海外に永住しちゃったら今まで普通に生活してた街中も全部変わっちゃうもんね・・・それもイタリアって遠いよね・・・。

しょっちゅう日本に来る訳にはいかないだろうなぁ・・・

コツン

俯いていたちゃんの頭に何かが当たる音

・・・箱?

「う?」

「・・・やる」

「え?」

慌てて頭の上に手を伸ばすちゃんを拘束するようにザンザスさんが腕をとった

・・・なんかすごい危ない絵面なんですけど

ちゃんの顔が一瞬だけ歪む

まぁ、分かってたけどザンザスさんって力加減が・・・

「わざわざ会いに来てやったんだ。何時もみたいに間抜けな顔してろ。」

・・・これはさすがに私でも分かった

でもっ

でもっ

流石にないよ!その慰め方!

子供にそんな大人的駆け引きは伝わらないだろう・・・、そう思ったのにちゃんには伝わったらしい

「私そんなに間抜けな顔してます?」

へにょん、と眉を下げて笑うちゃん

「・・・あぁ。この上なくな」

ザンザスさんのその言葉を聞いた瞬間ちゃんは本当の笑顔になった

「・・・ありがとうございますっザンザスさん!」

花が咲いたような笑顔だった

小さな箱を大事そうに握りしめたままぽふん、とザンザスさんに飛びついたちゃん

ぎゃあ!と言いたくなったがザンザスさんは軽々とちゃんを抱き留めた

「すごく嬉しいですっ」

「まだ中を見てねぇだろ」

と、言いつつも何処か嬉しそうに見えたザンザスさん

「違いますっ」

「あぁ?」

「プレゼントが嬉しいんじゃないんです。クリスマスに、わざわざザンザスさんが会いに来てくれたことが一番っ、すごく嬉しいんです!」

・・・

ちゃんは近年稀に見る素直な子だ

予想外の言葉に思わず私まで目を丸くした

ザンザスさんもちゃんを抱き上げたまま固まっている

「ありがとうございます。ザンザスさんっ」

「・・・おめでたい野郎だな」

呆れたようにザンザスさんは言ったけど照れ隠しっぽい・・・

・・・もしかしたら思ったほど悪い人じゃないのかもしれない。なんて現金かな

***

「・・・これもやる」

帰る、というザンザスさんをちゃんは見送るらしい

私は職員室でおとなしくしてる気満々だったのに何故かザンザスさんが「てめーも来い」と一言

恐る恐る後ろから着いていくと(ちゃんはずっとザンザスさんに抱っこされたままだった)

車から下ろされた大きな荷物に目を丸くする

え、何あのクマ・・・

綺麗にラッピングされたクマ。可愛いけどザンザスさんには絶対不釣り合い!

しかもそのクマを押し潰すかのように次々と箱を載せていくザンザスさん

・・・え、もしかしてこれ全部ちゃんへのプレゼント・・・運ぶの私・・・

「どうしたんですか?このクマさん」

流石のちゃんも驚いてる

「ゴミだ」

えぇぇぇ。何言ってるのザンザスさん

ちゃんも首を傾げた

「・・・もしかしてスクアーロさんたち、ですか?」

「ゴミだ」

「ありがとうございますって伝えて下さい!」

「・・・」

「伝えて下さい!」

「チッ」

・・・よくわからないけど会話が成立してる?

「お正月は、ウ゛ァリアーにも遊びに行っても良いですか?」

「・・・あぁ」

・・・あ。

「それまで精々元気でやってろ」

綺麗なリップノイズ

ちゃんが額を抑えてる

・・・でこチュー

なんてキザな、颯爽と走り去る車を見て思いました。作文

***

「先生手伝ってくれてありがとうございます」

「良いのよ。一人じゃあ持てないでしょう?」

特にこのぬいぐるみとか・・・ちゃんとおんなじくらいの大きさじゃない?

・・・それにしても

テディベアに可愛らしいワンピース。・・・こっちはあったかそうなコート・・・そして高そう

・・・

「ね、ねぇちゃんザンザス、さんには何もらったの?」

好奇心!

だってどれもこれも高そうなんだもの!

全部見てみたいじゃない!

ザンザスさんから直接手渡された箱は他のと違って小さかったからちゃんが自分で持ってるのよ

「キラキラペンダントです」

「キラキラペンダント?」

ちゃんが箱を開ける

え、ちょっと待って

この箱・・・

「今年のしんさく、で一番人気?らしいです。よくわからないんですけどザンザスさんが選んでくれたから嬉しいんです」

ニコニコ、本当に嬉しそうなちゃん

だけど私はそれどころじゃなかった

こ、この箱は女なら誰しも一度は憧れる・・・TIFFANY様・・・!

しかもこれ、本当に今冬の新作!日本じゃまだ発売されてない!!雑誌で見たのよ!生でTIFFANY見るのだって初めてなのよ!!

「・・・先生?」

ガン見してた私に心配そうな声。

欲しい。正直に欲しい。

だってTIFFANY!!

ザンザスさん幼児になんてもの与えてんの!?

これ、私のボーナスじゃ買えないお値段なのよ!?

「先生どこか、痛いんですか?」

いたいけな少女の言葉。本当に心配してくれてる優しい優しいちゃん

・・・

・・・

「何でもないのよ。ちゃん。だ、大事に・・・しなさい、ね?」

誘惑に負けなかった自分を褒めたい。

あとで彼氏に電話してみよう。そしてこの作り話みたいな出来事を話してみよう。アイツ何て言うかな?

(メリークリスマス!)