サイキックガァル-世界再生の日に会いましょう-


衣食住。人間らしく生活するために必要なもの

異世界から来た私が人並み(以上)の生活が出来るのは外ならぬヒソカさんのおかげだ

だから彼には感謝してもしきれない

・・・しきれないんだけど

洋服はもういらないから毛布が一枚欲しいって思うのはわがままですか?




サイキックガァル-世界再生の日に逢いましょう




はまどろみながら手足が自由に動くことに気付いた



ふるり、と瞼が震える

指先が頼りなさげに動き、そして何かに掴まれた

「・・・ヒソカさん?」

「出掛けてくるね」

「・・・あい」

落ちてくる瞼を必死で持ち上げて手を振ると柔らかく掴まれ額に、頬に、温かい唇が触れる

ようやく目が覚めた

気持ちいいなぁ、なんて思ってる場合じゃないよ私!寝起きの悪さ直らないんだから・・・良いよ。キスの一つやふたつ、減るもんじゃないし。ていうか慣れてるよね、ヒソカさん

フラフラ立ち上がってヒソカさんを玄関までお見送り。「わざわざ起きなくて良いんだよ」って起こした人の台詞じゃないですよね?欠伸を堪えながら「気をつけて下さいね」「うん」「・・・いってらっしゃい」「行ってきます」

頭のてっぺんに最後のキスが降ってきて静かにドアが閉まった

ふぁーっとおおあくびをしてベットに逆戻り

正確にはヒソカさんのベットだ

ベットじゃなきゃ眠れない、そんな訳ない。フローリングで直接眠ってた時だってある。この家にはふかふかのソファだってあるし。

毛布が一枚でもあれば大丈夫なのに

な、の、に

どうして私はヒソカさんのベットで仲良く寝ているんでしょうか

「ボクのベットじゃ不満かい?」

この一言です。はい、短い回想終了

寝るっていうのはもちろんただの抱きまくら。いかがわしい意味ではございません。

私今見事に子供体温だから湯たんぽ代わり?…有り得る。

一人の時は申し訳なくてソファで寝るようにしてるけど朝起きたらあら不思議。何故かヒソカさんに抱きしめられた状態でベットにいました。・・・起きようよ、自分

「・・・昼寝しよう」

結局一人でベットに戻る気がしなくて顔を洗うためにバスルームに向かった

次は少しだけマシな足どりで居間へ。隅に鎮座しているアイボリー色のチェスト。中にはの洋服が詰まっている

惜し気なく買い与えてくれたのはもちろんヒソカさんだ

全力で遠慮したがトランプをちらつかせながら「受け取れないのかい?」と言われ三つ指ついて頂戴しました。トランプって殺傷能力あるんだぜ!

・・・うん、まぁ確かに無いと困るしね。着替えって・・・ただお金返せないからいたたまれないんだよ。貧乏性というか貧乏なんです。奨学金とバイトでやっと生活してたからね!

ヒソカさんが何も言わないのを良いことに家事全般を引き受けている

これは自己満足というか単純に何かしてないと落ち着かないというか・・・

こんな身体じゃ仕事もできないし・・・文字読めないし。言葉は分かるんだけどなぁ

指先に少し力を入れると景色が一変する。パチン

「とっと・・・」

風に煽られそうになるのを耐えて座り込むと遥か遠くが暁を迎えている

屋根の上に昇るのは初めてじゃない

ヒソカさんがいない日は時々こうやって外に出るのがの日課だった。良い子でお留守番・・・屋根の上は許容範囲だと思いたい

朝の冷たい空気が頬を撫でる

「2ヶ月かぁ」

この力を使ってきたならこの力を使って帰れるんじゃないか?もちろんそう思って試してみた。

真っ直ぐ立って、深呼吸してイメージをする。行きたいって願う。

元いた場所、バイト先の・・・スタッフルーム。いつも使ってたロッカーや小さな窓から見える灰色のビル。いち、に、さん。パチン

シャボン玉が割れるような音が頭の中に響いた

結果から言うなら帰れなかった

確かに力は使った

だけど景色は変わらなかった

髪が風に遊ばれる。切りたいなぁ・・・。邪魔だもん

目を閉じて、指先に力を込める。パチン

次に目を開けるとふかふかのソファに座っていた

未だに行動範囲はヒソカさんのお家だけ。ヒソカさんが帰ってきた時は街まで出掛ける

布団を干して、洗濯機を回してご飯作ってテレビをみて、ヒソカさんが買い与えてくれた幼児向けの本を読む

彼は今日、帰ってくるんだろうか?

元の世界でも待ってばかりだった

明かりを付けて、ずっと待ってた

あぁ・・・嫌だな。こんな時は嫌なことばかり思い出すから

・・・小学4年生になると何故か私は一人だった

母も父も家に帰ってこなかった

父からは時折電話があった

こちらから電話をしてはいけない。そう、きつく言われ2日に一度、週に一度、少しずつ電話は減っていき、しまいには月に一度あれば良いほうだった

後から知ったことだけど父も母もそれぞれ愛人がいたらしい。

離婚してれば新しい家庭を持っているかもしれない

私はどっちにも呼ばれなかった。

施設に入らないで済んだのは面倒見の良い先生のおかげ。とりあえず大学まで進学することが出来た

仕送りは二十歳で終わり、今は文字通り自活

人並みに恋愛もして、失恋もしてちょっとだけ同棲もして気付いたこと

私は明かりのついた家に恋い焦がれれていたらしい

当たり前のことが遠くて、求めて求めて元カレに重いって別れ話を持ち出されたのは苦い想い出だ

・・・分かってる

元の世界に帰れないのは困るけど今、すぐじゃなくても良い

私はヒソカさんに「おかえりなさい」って言って「ただいま」って聞きたいんだ

だから私はどんな悪人でも彼から離れられない

歪んでいる。なんて今更

***

「・・・

何かが首筋をなぞってる

・・・ん?

ゆるゆる手を動かすとガチリって・・・

「いったいっ!」

痛い痛い!なんか噛み付かれた!すっごい痛い!

涙出てきた!

「おはよう」

「・・・ヒソカさん」

笑顔のヒソカさんがそこにいた

・・・きっと私の予想は間違ってない

「ヒソカさん・・・」

「何だい?」

「今、噛みました?」

「うん」

「・・・」

なんで?

拭うとうっすら血が付いてる・・・ちょ、どんだけ強く噛んだの

ため息が零れた



「・・・はい」

「ただいま」

目を開いたまま固まってしまった

変わらない、ヒソカさんの笑顔

この言葉のために

私はここにいるんだ

「おかえりなさい」

***

ボクのことだけ考えててよ

らしくないなァと自分でも思う

の寝顔を見ながら指先にの髪を絡ませる

少女の黒髪は指通りが良く、飽きがこなかった

快楽殺人者と一緒のベットで寝ているのにどうして熟睡出来るのか不思議で堪らない

曰く、縮んだら体力も低下したらしくすぐ眠くなるらしい

必死に普通はこんなに寝てばっかりじゃない!と言い張るは面白い

寝返りをうとうとするを抱き寄せると子供特有の甘い香りがする

ウットリと深呼吸するとが小さな手でボクの服を掴んだ

(弱い力だなぁ)

らしくない。

帰ってきた時、が寝言で見知らぬ誰かの名前を呼んでたのが気に入らないなんて

おかえりと言って欲しくて起こしたなんて

「・・・君はボクのものだろう?」

所有の証をつけたかったなんて

いかがわしい思考を巡らせてもは全く起きる気配がない。それどころか擦り寄ってさえくる

近くなった呼吸はヒソカにもまどろみを与える

を潰してしまわないように抱き直しヒソカも目を閉じた

(いびつだけどこれが愛しいということ)