サイキックガァル-世界再生の日に会いましょう-


順応性の高さに我ながら感心する

ハタハタ揺れるシーツを見ながらはひなたぼっこを楽しんでいた

異世界にやって来て一月が過ぎようとしている

(今日は何作ろうかなぁー。シチューなら作り置き出来るし・・・)



「あ、ヒソカさん」

お帰りなさい、と言おうとして固まった

さて、ここでオーディエンス。家主が血まみれで帰ってきた場合、居候はどう対処すべきか




サイキックガァル世界再生の日に会いましょう-




「・・・お怪我は?」

「無いよ」

その返事を聞いては鷹揚に頷いた

そして大きく息を吸う

「だから言ったじゃないですか!やんちゃするのは勝手ですけど上手に返り血は浴びないよう努力して下さいって!

 今すぐ脱いで!シャワー浴びて下さい!」

ええい何を笑う!

バスルームに押し込み(一緒に入るかい?ふざけて無いで早く入るっ!)洗い立てのタオルと着替えを準備した

因みに下着もだ。何故ってヒソカさんは躊躇いなく真っ裸で出てくるから。大事なことだからもう一度。タオルすら巻かず真っ裸だ。赤面通り越して固まった

ついでに家主様が血まみれで帰って来るのは3回目。悲鳴を上げたのは最初だけ。だってヒソカさんが怪我をしてたことは一度も無かったのだから

一人分の血液なら相手は出血死を迎えているに違いない

ヒソカさんは善人では無いらしい

カチン、コンロに火を付ける

お湯が沸くのを待ちながら改めてて思った

悲鳴も上げないでどちらかと言えば洋服の染み抜きを心配する私は非道なんだろう

血の匂いにも驚かなくなった

ヒソカさんが人を殺すのは遊びと一緒

殺された人はただの通りすがりの人だったのかもしれない。

この世界の何処かで誰かの死を哀しみ、悼み、そして嘆く人達がいる

「・・・殺人は法律で禁じられて無いんですか?」

返事は否

「ただボクが気にしていないだけ」

「・・・私も殺しますか?」

「今は殺さない」

・・・じゃあ、いつか。私はヒソカさんに殺されてしまうかもしれない。

異世界。そう呼ぶのに相応しい場所から来た私を彼は置いてくれてる。

ヒソカさん曰く、美味しそうだから。(・・・ロリコンですか?何でもイケるよ。・・・。)

そんな会話をしたのはいつだったか。貞操の危機を感じた割に今のところ、無事です

彼が今、私の全てだった

知らない世界の知らない誰かよりも私は私が大事なのだ。

何とでも言えば良い。私は死ぬのは怖い。そしてヒソカさんに捨てられるのも怖い。

だから彼が誰かを殺すことを止めないし逃げ出しもしない

生きていけなくなってしまう



「はぁい。コーヒーはもう出来ますよー」

上機嫌そうに椅子に座るヒソカさんはノーメイク。イケメンだ。化粧を落として髪もラフにした方が良いなんて世の中の頑張る女の子に全力で石を投げつけられれば良い

ギャップ萌え!と言うべきか。詐欺だ!というべきか

のコーヒーは美味しいね」

「ヒソカさんのためだけに煎れたコーヒーですからねぇ」

気に入って貰えなかったら凹む。バリスタのような技術は無くても最低限の知識はあるはずだ

は自分の分にミルクと砂糖を3つ投入する。

最早コーヒーではない。人はこれをコーヒー牛乳と呼ぶ。ヒソカさんはブラックをこよなく愛するがは質より量派だ。給料前にはご飯の代わりにもなる優れものなのだ!

指定席になりつつあるダイニングテーブルに向かい合って座る

「・・・あ。忘れてた」

「何をだい?」

コトン、マグカップを置いて両手を膝で揃えるとヒソカさんは首を傾げる仕種をした。イケメンは何してもカッコイイ。ズルイ

「おかえりなさい」

・・・どうやらとても、予想外の言葉だったらしい

固まったヒソカさんを見てそう判断する

しかし、2日ぶりに帰ってきてくれたんだから挨拶くらいしてくれても・・・第一声で怒鳴ったこと、ちょっと後悔してるんですよ、私も

「・・・おかえりなさい。ヒソカさん」

駄目押しでもう一度。するとようやく脳に言葉が届いたらしいヒソカさんはゆっくりとコーヒーの入ったマグカップを置いた。

「ただいま。

笑顔が眩しいです。ヒソカさん

なんだかすごく恥ずかしくなってしまった

は可愛いね」

「規格外のイケメンに言われても・・・」

ぼそぼそ反論しても笑われるだけ

「今日どこに買い物行こうか」

「えっ。一昨日行ったばかりですよ。大丈夫です」

「ボクが行きたいんだ」

「何か欲しい物があるんですか?」

「ううん」

「?」

じゃあ何で出かけるの?と言いたくなったがヒソカさんが急かすので空のマグカップをふたつ、流しにつける。エプロンを外してカーディガンを持って玄関に向かう。

家を出るとどちらともなく手を繋ぐ

迷子防止だ。恥ずかしいにも程がある。しかし、初めて2人で出掛けた時、見るもの全てが珍しくあれこれと気を取られた結果、迷子になった。

しかもヒソカさんは探してくれなかった。半泣きになりながら走り回り、オープンカフェで優雅に寛ぐヒソカさんを見た時は本気で殺気が沸いた。

・・・もちろん言えませんでした!睨んだけど。

そういう経緯があり、ヒソカさんの左手を貸して貰っている

「あ、ヒソカさん今夜は何が食べたいですか?」

シチューの予定だったがそれはヒソカさんがいつ帰ってきても良いように、だ

今更だが彼はサラリーマンのように毎日朝から夜まで出掛けているじゃない。一日中家にいたかと思えば真夜中に出掛けたりする

初日まず5日放置

動かないから部屋だけから家から出ないに行動範囲を広げて行き、本、テレビ、台所、お風呂、ベランダとどんどん図太くなった。

これは夢だ、ちょ、地図とかない?世界情勢・・・やばいよ、餓死する。汗かいて気持ち悪い・・・ベクトルはこんな風に変化していった。

真夜中に帰ってきたヒソカさんは血まみれでした。ホラー映画かよ!うとうとしてたけど眠気も吹っ飛んだわ!

最近は長くても一泊くらいだけど出掛ける時にいつ帰ると言ってくれないので必然的に温め直しの効く料理ばかり作っている

今日は出来立ての料理を食べて貰いたいなぁ

とつとつと思い更けていると急に足が地面から離れた

・・・え?

至近距離にヒソカさんの笑顔。抱っこされてる

の手料理なら何でも良いよ」

「何でもが一番困るんですけど・・・」

顔を真っ赤にして反論するがヒソカさんを喜ばせるだけに終わりました。ホントこの人の喜ぶポイント変!

スーパーの後何故か雑貨屋さんでお揃いのマグカップ買いました。・・・買ってくれました!と言う程喜ぶものなのか?

「今日からこれ一緒に使おうね」

「え、ええ」

また持ち上げられました。何でどもるのかなぁ?と囁かれました

正直な私ですみません!



***

最近面白い拾いモノをした

違う世界から来たという

外見は幼児だが実際はもっと上らしい彼女は瞬間移動という能力を持っているもののごく普通の人間だった。簡単に死んでしまいそうな弱い人間

青い果実にもならない彼女をどうして家に置いてあまつさえ同棲しているのか、あえていうならお得意の気まぐれである

本来ならさっさと捨ててしまう(殺してしまう)のだが彼女は驚くほど馴染んでいた。自分に、というよりは家に。

まさかホテル以外で洗い立てのシーツで眠れるとは思わなかった

自宅で温かい料理が食べられるとは思わなかった

まさか自分が「ただいま」なんて口にするなんて

「ヒソカさん?」

「ん?」

「そんなにジーッと見られても出来上がる時間は変わりませんよ」

テレビでも見て待ってて下さい。そう言って台所に立つ

アッサリと背中を見せるに思わず笑いが零れる

なんて無防備なんだろう

きっと彼女を殺すのは5秒もかからない

細い首を見つめながらそんなことを考えているとは不意に振り返った

何故か手に菜箸を持って

「ヒソカさん、はい。あーん」

「・・・」

「あれ、おねだりじゃなかったんですか?」

こてん、と首を傾げながら少女は本気で不思議そうだった

そしてヒソカも決して嫌ではなかった

「じゃあ味見!味見して貰えませんか?はい、あーん」

「・・・」

・・・まぁ、良いか。

もうしばらく君に付き合うことにするよ

ヒソカが身を乗り出してくれたのでは嬉しそうに笑った

(お口に合いますか?美味しいよ)