「チャン?俺に何か言う事があるだろ」
・・・1月1日
世間一般で元旦というこの日は。いや、今日の今日とて三上さん家の亮君はサディスティック全開でした
「・・・手、を」
「手がどうした?」
・・・ほんっとうにムカつくなぁ!!
「つ、」
「つ?」
「繋いで・・・下さい・・・」
「声が小さい。もう一度」
「豆腐の角に頭ぶつけてしまえっ!!」
涙目で叫ぶと亮は大爆笑した。殺気!殺気!!
本日モ晴天ナリ-きそはじめ-
「日本人なら和服よ」
「・・・いきなりどうしたのお母さん」
おせちを食べながらいきなり立ち上がったお母さんには思わずつっこんだ
亮はテレビの歌番組を見ながら聞こえないフリをしている
・・・何気に酷いよね、亮
「女の子にはお正月っていうイベントだけで着ても可笑しくない着物があります」
「。お茶」
本当に亮は我が道を進むよね!
「はい」
「ん」
釣られて差し出してしまう私も私か
しかし、お母さんは子供に無視されてもめげなかった
「という訳でちゃん。着物を着ましょう」
「は?」「。煮豆」
「ちょっと亮っ!」
「んだよ?」
「あっくんもちゃんの着物姿見たいわよねー」
お母さん、貴女の息子は全くを持ってお話を聞いていませんよ
「んー・・・そうだなぁ」
うわぁお。何て適当な返事
って、いうか
「そうよね!
それじゃあ、ちゃん。脱いで」
「俺 こたつから出たくないから余所でやってくれ」
「私の意見って聞いてもらえるのかな!?」
***
「ちゃん動いちゃ駄目!」
「で、でも結構苦しい・・・!」
「あら、帯締めすぎた?」
「いや帯がどうとかじゃなくて立ちっぱなしが・・・」
「じゃあ大丈夫。サッカーの試合だと思えば」
「着つけって1時間30分もかかるの!?」
「やぁね。そこまで下手じゃありません。メイクして髪もアップしたらそれくらいかかるってことよー」
「そ、そこまでしなくても・・・」
良いんじゃないか、と言おうとしたがお母さんがあまりにも真剣な顔なので何も言えなくなった
・・・ちょっと怖い
だけど着物って不思議
曲線がない。直線縫いばっかりなのにこんなに綺麗に身体に合う
しかもボタンもチャックもないのに紐・・・もとい帯で留まるなんて
「ぐえっ」
「ちゃーん。背筋伸ばしておかないと後から着崩れちゃうわよ?」
「・・・了解です」
にっこりと笑う母の姿には引き攣った笑顔を返した
***
「・・・ら」
なんだようるせぇな・・・
「きら」
「・・・んあ」
「こたつで寝たら風邪ひくでしょっ!」
ドカンと雷が落ちてきて目を開けるとそこには
「・・・なんて言うんだっけな」
「な、何よ?」
「思い出した。『馬子にも衣装』だ」
「永眠してしまえっ!!」
どんなに着飾ってもはだな、と亮は寝ぼけた頭で思った
***
せっかく可愛い格好をしているんだから外に出るべきだ、と母は言った
言った、というか実力行使に出た
「「・・・さむっ」」
「あっくん?ちゃん?
早くしないと置いていくわよー?」
置いていって下さって構いません。も亮も声には出さずそう思った
そんな子供たちの心を知ってか知らずか車の中からニコニコと手を振る都の姿があった
初詣という行事がある
新年早々、ありとあらゆるお願い事を聞かされ続ける神様はなんて働き者だ、と幼心に思っていた三上家の子供たち
それは大きくなるにつれ、人ごみで揉みくちゃにされてまでお金を投げ入れに行きたくない、と思うようになった
元々母親は正月休みなんてなかったから兄妹二人でお雑煮をつつきながらテレビを見る。それが三上家のお正月だった
一月後半から二月前半に行くのが三上家の初詣である
遅いということなかれ
「やっぱり混んでるわねー」
車は大渋滞。そんな車の横を参拝客と思われる人々がぞろぞろ通り過ぎていく
元旦はやっぱりお雑煮をつつきながら年賀状を待つのが一番だ
としては今年こそ甘酒を作って、上手に出来たら午後にはそれを持ってお隣さんに新年のご挨拶に伺う予定だったのだ
ことごとく予定は潰れたけど
「こんなにこんでるなんてよそうがいだなおふくろあきらめてかえろう」
・・・恐ろしく棒読みだ。そして無表情だ
亮は帰りたくてしょうがないんだ
それがひしひしと伝わってくるセリフだった
しかし、そこは母親
「そうね〜。でもせっかく来たんだから参拝はしなきゃね。
あっくんとちゃん先に降りて?」
「はい?」
「お母さんは車停めてくるから。二人とも携帯持ってるでしょう? ちゃんと見ててね」
そこまで一気に喋ったかと思うとミラー越しからくるりと振り返る
にっこりと笑顔で
「じゃ、いってらっしゃい!」
この笑顔に勝てないことはも亮も随分昔から知っていた
しぶしぶと車から降りる亮と・・・
「・・・」
「何してんだよ」
「ちゃん?」
「・・・」
え、と
「?」
「どーしたの?ちゃん」
・・・どうやって、降りたら良いんでしょうか
(の、乗るときはどうしたっけ!?
お母さんが手を引っ張ってくれて・・・そ、そうお尻から座って・・・
・・・で?降りるときはその逆で・・・
そもそも方向転換が出来ない!)
シートベルトを握りしめたまま固まったの様子に気づいたのは亮の方が早かった
ひょい、と側のドアを開けて手を差し出す
そうして非道く楽しそうな笑顔で
「チャン?俺に何か言う事があるだろ」
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