「お疲れ様でーす」
藤代誠二君の言葉は消えてしまった
突然開いたドアによって
・・・というか私、他校生だからここにいるのって不味くないですか?
そう思ってたのにドアから現れた人を見たら違う意味で固まってしまった
そして向こうも固まってしまった
「・・・ちゃん?」
「・・・竹巳君」
本日モ晴天ナリ-お使い-
最近、自分の間抜けさに呆れてしまう
そうだよ。ここは武蔵森なんだから彼がいるということくらい想定できよう
目をまんまるにしてお互いしばし見つめあった
「何でちゃんが・・・先輩たちは何してるんですか?」
「何って「えーっ!!タク何なの!?3号知ってるの!?」
キィーン、と耳鳴りがしそうなんです、けど
私を避けて隅っこに行ってた藤代誠二君が急に大声をあげた所為でいろんな会話がブッツリ途切れた
すごいよ、藤代誠二君。君は一瞬にして独壇場を手に入れたよ
「あっもしかしてタクもマネージャーに頼まれて三上先輩の携帯見たクチ?」
「三上先輩の携帯?よく意味が分かんないんだけど・・・」
「あれ?違うの?
じゃあ何で3号の事知ってんの?」
「・・・ごめん誠二。まず3号って・・・なに?」
藤代誠二君と根気強い竹巳君の会話をしばらく見守っていたらぐいっと襟を引っ張られた
「あ、亮っ・・・(首が締まってるんですけど!)」
「・・・そう言えば俺はお前の交友関係を把握してなかったな」
「(普通いくら兄妹でもそこまで把握してないだろ!)い、良いでしょ私が竹巳君と友達だって」
なけはしの反抗をすると亮は顔に「なんかすげームカつく」と描いたまま襟を引っ張り続けた。ちょ、息が・・・!
途切れそうになる意識の合間に竹巳君の声がする
「・・・なんか色々ツッコミ所があるんだけど。変なあだ名つけたりして女の子に対して失礼だと思うよ」
「だって自己紹介の時名乗らなかったんだから」
「じゃあ今聞けば良いよ」
「え」
う、わ。藤代誠二君が固まりましたよ
亮も「お、面白そうな展開」と言わんばかりにいきなり手を離しましたよ
本当に、この人自由人だな!
「・・・・・・」
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・」
聞くなら早く聞いてよ!
藤代誠二君はこっちを見てはくれてるものの、口をもごもごと動かすだけで何も言わない
待ってる私が間抜けじゃないか
「誠二、」
「だ、だって!」
女々しい男めっ!
「三上、です」
耐えきれずに先に口を開いてしまった
あ、やってしまった。と頭のどこかで思いもしたけどもういいや
目を剥いて固まった藤代誠二君に続ける
「こっちの・・・三上亮の妹、です」
できるだけ穏やかな声を心がけたが・・・聞いていただけましたか?
「え、妹?」
わっ返事が返ってきた!頷くと ぐっと体を乗り出してきたので思わず身を引いてしまった。亮とぶつかった
「三上先輩の妹ってことは・・・俺と同い年?」
「もうひとつ下」
横から竹巳君が補足する
「・・・年下!?」
そ、そんな大声出さなくても良いじゃない
どうせ、中学一年生に見えない外見ですよー、だ
「何ふてくされてんだ」
「亮が兄っぽくないからこんなに驚かれるんだ」
「知るか」
むー、とすぐ傍にいる亮を見る
まだ亮が家に一緒に住んでた頃は近所のおばさんに目元が似てる、ってよく言われてたけど今はどうだろ
前は私も髪が短くて亮のお下がりの服ばっかり着てたから兄弟みたいね、って
今じゃお母さんにはそっくりって言われるんだけどなぁ
「あー・・・でも」
「?」
「単品で見るととても年下には見えないっすけどこーやって三上先輩と一緒にいると似てますね」
「冗談」「うそっ!?」
ちなみに最初のセリフは亮で後半が私、だ
何で拒絶系なんですか、亮さん・・・
「に、似てるってどの辺が・・・?」
聞き返してしまったのは小さい時と違ってそんな事、ここ最近言われたことがないからだ。お母さんにそっくり、だったら言われるけど
「えー?どの辺って言うか・・・なんだろ?表情とかー、あ。雰囲気?」
思わず亮を見ると亮もこっちを向いていた。・・・思考回路は似てるかもしれない
きっと亮も似てるところ、もとい表情と雰囲気というものを探したに違いない
似てる、のかなぁ?
そんなに嫌な気はしない
「俺お前ほどポーカーフェイス下手じゃねぇよ」
前言撤回
「私だってデビスマは出来ませんけどね」
笑った顔がそっくりだね!とか言われたらイコールデビスマもそっくりってことになる
私は亮みたいに裏のある笑顔できません!
このやろう、と小さく呟いたのが聞こえたが無視だ無視!
「へぇ〜年下だったんだー。なーんだ」
なーんだ、ってなんだ?
「誠二。言い方が失礼だよ」
「えーだってさ、俺てっきり高校生だと思ってたからさー。
年下でしかも三上先輩の妹だって分かったじゃん」
じゃん、の意味も分からない
無意識のうちにしかめっ面をしていたらしい。亮に眉間をべしっと叩かれた・・・あちこち痛いんですけど
「大丈夫か?」
「どこもかしこも痛いよ」
「元気で良かったな」
ねぇ、ごめん。会話のキャッチボール出来てる?
亮に喰って掛かろうとしたがそれより早く藤代誠二君が話しかけてきた
「ねーねーちゃん」
「(ちゃんっ!?初めて名前呼ばれた・・・!)は、い?」
「改めて、よろしくっ!」
差し出されたのは手
それを凝視してしまった
え、だって
彼の中でどんな心境の変化があったんですか、と周りの人たちすべてに聞いてみたい
それくらい変わった
まさか、藤代誠二君が私に満面の笑みを向けてくれるなんて
「・・・よろしくお願い、します」
ぎこちなく差し出した手をそれでも藤代誠二君は嬉しそうに握ってくれた
「1年生だったとは知らなかったな」
ぽつり、と呟くような渋沢さんの声
そういえば渋沢さんは何で私の事、亮の妹って知ってるんだろう?亮が喋ったのかな
「そういえば渋沢は何でコイツが妹って知ってたんだ?」
え、私はてっきり亮が教えたものだと・・・なのに亮まで渋沢さんに疑問を投げかけるものだから思わず私も渋沢さんを見てしまった
「合宿の時、ちゃんが「お兄ちゃん」って呼んだだろ?」
・・・・!!
穴があったら入りたい・・・!
<END>