「わ、別れるってどういう事よ!」

キンキン声で怒鳴られるのはいつものことながら慣れない

どうして振られた女というのは皆同じ反応をするんだろう

心の中で溜息をついて携帯を取り出した

「悪いけど、俺もう他に好きな女がいるんだよ」

「誰よ!!」

慣れた手つきでデータフォルダを開くと一枚の写真を引っ張りだす

「これ」




本日モ晴天ナリ-お使い-





振り返ってそこにいたのはジャージを着た女の子だった

何で女の子がここにいるんだろう?と思ったけど そういえば前に竹巳君がマネージャーがいるって言ってたなぁ

放課後は男女が行き来してるのかもしれない

と、いうか

ジャージの女の子は美人さんだけど何故かすごく不機嫌そうな顔だった

えぇ、それはものすごく

「何で他校の奴が勝手に入ってきてんのよ」

うわっ、女の子の口から奴って言葉が飛び出したよ。外見に反して口が悪いな

変なところに感心してしまった

しかし、彼女の言う事には一理ある

だって私はこの学校の生徒じゃないし制服も見事に違う

ここで揉め事は起こしたくないなぁ

は自分に出来る精一杯の愛想笑いを浮かべた

「えっと私は」

それから先言葉が出なかったのは私の所為だろうか

乾いた音がした

視界が揺れた

・・・もしかして私叩かれた?

左のホッペがじんじんする。気のせいじゃなさそうだ

「あの「調子に乗らないでよね!!」

はぁ?

え、何で私殴られて怒られてるの?

そう言ってあげたいけどびっくりしすぎて言葉は出てこない

「人の彼氏奪った上によく学校に顔出せるわね。

 常識ってもんが無いんじゃない?」

いきなり平手打ちしてきた貴方には常識あるんですか?

「・・・亮も趣味悪い」

ん?今何か不吉な言葉を

「ちょっと何よその顔!

 亮と二人で人のこと馬鹿にしてたんでしょっ!?この泥棒猫!!」

すげぇ。泥棒猫って言葉いまどき使う人がいるんだ

変なところに感心していると左側からまた手が出てきた

あ、もしかしてもう一発?

わぁ。他校に来てホッペ腫らして帰るって私もしかして日頃の行いが悪いのかしら

スローモーションで迫ってくる手を見ながらそんなことを考える

殴られるのが好きなんて訳じゃないんだけど

だけど・・・

「ストップ!!」

2発目は綺麗な爪の手が目の前を通り過ぎて終わった

・・・空振り?

さっきは届いてた手が空振りなんてどれだけ目測が下手なの?なんて思ってたけど

彼女の手が届かなかったのは私が避けた所為だ

いや、正確には私を引っ張った誰かの所為で避けることが出来た

誰かというか・・・嫌なくらい聞き覚えがある声だったけど

「お前、避けるくらいしろよ。そんな鈍い・・・もしかして太ったか?」

わぁい!殴りたい!!

後ろから抱きしめられるように立っている亮に殺気が沸いた妹です

「亮・・・」

いや、でも今の声は私じゃない

私は亮に対してこんなに甘ったるい媚びたような声は出せない

今のは私に平手打ちをかましてきた女の子の声です

「お前、何やってんの?」

呆れたような声を出してきたのがうちの兄です

「何って・・・」

戸惑った声

もう、なんか先が見えてきた

どうでもいいから亮は私を解放してさっさとお使いを終わらせて帰らせてほしい

だって・・・

「人の彼女に手を出すのやめろよな」

「でもっ」

「俺にはこいつが一番大切なの」

やめてくれ。吐きそうだ

心底そう思ってしまった

「三上。マネージャー」

そこに更に第三者の声が乱入してきた

「渋沢」「渋沢君!?」

渋沢さん!?

ちょ、亮離して!こんなみっともない姿渋沢さんに見られたくないんですけど!!

「三上もマネージャーも。他校生と揉めるなんてみっともないぞ」

・・・渋沢さんの言うマネージャーは私ではないらしい。

と、いうことは目の前の女の子が武蔵森サッカー部のマネージャーさんだったのか

・・・亮さん貴方って人は・・・

「別に好きで揉めてる訳じゃ、」

「マネージャー。その人は桐原監督のお客さんだ」

その人=私 ですよね

「桐原監督の?」

すごく胡散臭そうな顔で見られたので必死に頷いてみせる

そうなんです。用があるのは亮じゃなくて選抜の選手の皆さまと桐原監督なんです


亮とは全然関係ないんです!!


「マネージャー突然人を叩くのもどうかと思うぞ」

「だ、だって」

「あのっ!」

たまらず声を挟んだ

どんどん話が大きくなるのは居た堪れない

私は目立つのが好きじゃない!しかもそれが余所の学校とか心から遠慮したい

1人でお使いも出来ないって最悪じゃないか

「それはどうでも良いので、話を・・・進めさせてもらって良いですか?」

この際、桐原さんに書いてもらう書類は後で郵送してもらおう。それが良いと思う

私の安全のためにも!

とりあえず渋沢さん達に書いてもらう書類だけ済ませて帰りたい

そう、一分一秒でも早く帰りたい!!

「・・・マネージャーはグラウンドに戻って藤代と間宮を部室に呼んでくれ。

 その後は部活に戻っててくれて構わない」



あぁ

渋沢さんが神様に見えます