それは密やかな憧れ

同い年ですげーヤツがいるんだ。先輩退けて正GKになったんだぜ

亮からそんな話を聞いて、実はこっそりと試合を見に行ったことがある

渋沢さんのプレイを見て、思わず私も武蔵森に入ろう!と思ったくらいだ

あの時は男の子も女の子も一緒にプレイできるとまだ信じていた




本日ハ晴天ナリ





魔の三角形が形成されてしばらく、最初に口を開いたのは一番身長の高い人物だった

「・・・マネージャーさんは三上と知り合いですか?」

「え?」

渋沢は頭にぽん、と浮かんだ疑問をそのまま口にしていた

いくら三上でも見ず知らずの女子の髪を引っ張る等の無礼は働かないハズだ

しかも忘れられないのは髪を放した瞬間の表情である

どこか嬉しげにも見えたあの表情

伊達に3年も付き合ってはいない

藤代達は気付いてなかったみたいだが。

そしてその噂の人物が目の前にいるのだ


そしてそれに対して三上は何て言うか悩んだ

知り合いか否か。それはもちろん是だ

ついでに言うならものすごい長い付き合いだ。物心付く前からなんだから

だけど本当に素直にそう言ってしまって良いのだろうか?

(正直な話・・・)

無駄にベラベラ自分と亮が兄妹だということを触れ回りたくない

更に言うなら亮にだって言って欲しくない

それは別に亮に対して何か不満があるわけとかじゃなくてこの特殊状態が問題なのだ

この合宿で選抜メンバーを選ぶという特殊状態が

もしこれで亮が選ばれた後に私が何か手を回したとか言われるのが嫌なんだ

考えすぎ、と言われるかもしれないがそれを私は経験的に知っている

何処にだってそんなくだらないことで妬むヤツが居るということを

(・・・だからってここで「いいえ、他人です」何て嘘を言うのか?)

嘘つきは泥棒の始まりだぜ。おい


「三上?」


口を開いたのはではなかった

「不破は知らないかな。うちのMFをしてるんだが」

「武蔵森の?」

やばい

これはちょっとやばいぞ。何せ頭の回転の速い不破君のことだ。

すぐに気付くんじゃないだろうか?


「それはの「亮とは知り合いなんですっ!」

思いっきり不破君のセリフに被せてそう叫んだ

それはそれは必死になって

おかげで渋沢さんはかなり驚いた顔をしていた(不破君はあんまり表情が変わらなかった)

「えぇ、それはちょっと・・・長い付き合いでして・・・」

語尾がどんどん小さくなっていく

言えば言うほど何だか泥沼にはまっていくような気がした

でも精一杯の嘘じゃない説明なんだよ・・・!


「そうですか」

穏やかな声

顔を上げると渋沢さんはちょっぴり苦笑気味で、だけど穏やかな声だった

「そ、そうなんです」

あぁ。分かった

彼は優しい人なんだ

私が困ってるって気付いてくれて何も聞かないでいてくれるんだ


何だか心がほわっと温かくなった




今まで黙っていた不破君が口を開いた

「うん?」

よく考えたら今まで黙っていたというより無理矢理黙らせてたに近いような・・・

「三上亮というのはの「おぉっと!不破君そろそろミニゲームが始まりそうだね!!実は次のミニゲームはGKが2人必要なんだよね!と言うわけで渋沢さんと不破君コートに入って!!」

今まで黙ってたのはもしかしてそれについて考えてたの!?

せっかく渋沢さんが優しくそれだけで納得してくれたんだからもうこれ以上その話題を引っ張らないでくれ!!

もう冷や汗はダラダラだし両手には握り拳をつくってしまってるし不審者この上ない


「・・・触れられたくないことなのか?」

「うん」

間を置かずに返す。共に主語はなかったが意味は分かっている

不破君は何も言わずかがみ込んだ

(何をするの?)


ふわり、と肩に何か掛けられた

「あ、さっき落としたタオル・・・」

そう言えば落としたままだったっけ・・・拾ってくれたんだ

「友というのは相手の嫌がることはしないものらしい」

「はい?」

「だからが触れて欲しくないというのならば触れないでおく」

・・・

誰だよ不破君は何考えてるのか分からないとか言ったの

こんなに優しいのに

「・・・ありがとう」

お礼を言うと不破君は「何故お礼を言う?」と首を傾げた

そんなの

不破君が優しいからに決まってるじゃないか


渋沢さんと不破君がコートに向かっていくのを見送りながら

さっき不破君が「友」って言ってくれた事を思い出してなんだか一人照れてしまった

思わず赤面してしまった顔をファイルに埋める


せっかく作ったメモは無駄になってしまったけど

最初はもうダメだ。って思ってしまったこの合宿だけど

何とかなりそうな気がしてきました


---------------後書き------------------------------------------------------------------

せっかく不破君と渋沢さんを一緒に出したのに殆どマンツーマンの会話になっております。
ダメな管理人でごめんなさい
もっとこう・・・上手く渋沢さんと絡ませてあげたかった
どうでも良いことですが不破君の「友とは〜」辺りの知識は黒須君から仕入れてるものだと思います

さてさて、ようやく選抜も進んできましたぜぃ!

感想等頂けると幸いです。

                             9月23日 砂来陸