居心地の良い場所
受け入れてくれる人達
それは
ささやかな幸福感
本日ハ晴天ナリ
「あれ?」
後半が始まって気付いたことはまず国部二中のメンバーが一人変わっているということだった
新しく入ってるのはさっきのあの不良っぽい人
(うわー身長高いなぁ ロクとどっちが大きいかな?)
そんな事を考えながらコートに入ったばかりのロクと五助を呼んだ
「どうしたんだ?」
「ちょっと注意してほしい事があって
新しく入ってきた10番。かなり身長があるから出来ればロクにでも付いて貰いたいんだけど・・・」
そこまで言って言葉を切った
身長が高いのも要注意だけどそれだけじゃない気がした
って言ってもこれは何の保証もないただの私の勘だ
「・・・とにかく10番に注意してて」
勘だからこそ上手く言えない
だからとりあえずそれだけ言っておいた
後半戦が始まった
後半も順調だった
フラットスリーも上手く機能して
ただ
「あっ」
思わず声が出る
後半になって入ってきた10番
異彩だ、と思った
国部二中は見てたところ守備重視スタイルで雨宮さんの指示に忠実に従っているように見える
だけど
10番は違っていた
抜群のボールコントロールで突破力もシュート力も並はずれている
・・・まぁそれを飛葉中は押さえ込んでる訳だけど
「向こうの10番上手いわね」
玲さんが言う
「そうですね。でも・・・独裁プレイなのはもったいないなぁ」
さすがにロクと五助の2人に挟まれたらワンマンプレーは難しいと思うんだけど
それでも10番は絶対にパスは出さなかった
「天城!パス!!」
さっきからこんな声がよく飛んでいる
それでも絶対にパスは出さない
(うぅ〜ん・・・もったいない)
あと30秒・・・
10・・・
5,4,3・・・
「試合終了!」
0
「3−0で飛葉中の勝利です!!」
・・・勝った
結局試合が終わってみれば
3−0の・・・国部二中には失礼だけど快勝だった
「お疲れ様」
「楽勝」
余裕綽々なのか勝ったことが嬉しいのか(たぶん後者)
みんな笑顔だった
国部二中に悪い、と思いつつも緩む筋肉はどうしようもない
もちろん私も
「ーコレ、どうすりゃいい?」
にへにへ、と口元を緩ませていると急に現実に戻された
五助が空になったボトルを左右にぶんぶん振っている
「今から洗ってくるよ」
いけない、いけない今はマネージャー業の途中だった
ボトルを籠いっぱいに詰めて水道へ向かう
ガチャガチャと音がうるさいけど今はそれすらも音楽に聞こえてしまう
それくらい、嬉しい
(今夜は御馳走作って〜あ、お菓子も作ろうかなぁ)
ここで決して食べに行ったり買いに行ったりしない辺り少し可笑しいということはあえて突っ込まないでおいてもらいたい
角を曲がって水道はすぐ近くにある
そして
元気に角を曲がった所に彼は居た
国部二中の、10番(名前は天城・・だったっけ?)
そのまま水道へ一直線の予定だった足に急ブレーキを掛ける
何故って明らかにタイミングが悪い
どこに勝者に会いたい敗者(こういう言い方は失礼か)がいるというんだ
(・・・どうしよう)
幸か不幸か天城は頭から水を被っている最中でこっちに気付いていない
・・・このままUターンするべきだろうか?
(いやいやせっかくここまで運んできたのに・・・)
なら籠は置いて逃げるべき?どう見ても不自然だ
ダンッ!
ガシャン!
「「・・・・」」
上から順に
天城が壁を殴った音
がその音に驚いて籠を落としてしまった音
そして
思いっきり目が合った2人の沈黙
天城は今までそこにいると知らなかったに対する純粋な驚きと嫌な場面で遇ってしまったという苛ただしさ(気まずさじゃないことを追記しておく)
の場合は・・・気まずさなんかとは全然違うことが頭にあった
顔を見てぎょっとした
今まで試合中は遠目でしか見てなかったから気付かなかったけど
顔色がお世辞にも良いとは言えなかった
(・・・あぁそっか 本調子じゃなかったんだ)
納得
でもそれとパスを出さないのは関係ないよね?
「何の用だ」
殆ど睨みつけられるようにそう言われては少し怯んだ
「・・・洗い物をしようと思って」
別に身長が高い人が怖いとか不良っぽいから怖いとか思ったりはしないが睨まれれば誰だって弱気になる
それでもとりあえずは逃げ出さないでいる
天城はチラリと持っている籠を見て(睨んで)無言でその場から去った
「・・・はぁ〜」
体中の二酸化炭素をはき出す、というくらい深い溜息が一つ
さっきまでの明るい気持ちはどこかへ行ってしまったようだ
(何だかなー・・・やっぱり体調が良かったときに試合したかったなぁ
そりゃ飛葉中が勝ったんだから文句言うのは可笑しいけどさー・・・)
万全の時の彼が見てみたかった、というのが本音
チームの勝利よりもそっちに気持ちが傾いている辺り相当なサッカー馬鹿と言えるが本人は気付いていない
「ん?」
ふと、視線を移すと何か布きれみたいなものが目に留まった
コップを洗う手を止めてそれを手に取ってみる
「・・・お守り?」
それはとても小さな手作りのお守りだった
--------------後書き-------------------------------------------------------
天城君出番微妙!!
もうちょっとしたら良い出番が・・・!って信じてます(笑
天城君が壁を殴ったのは色々・・・イライラしてるんでしょうね
4月5日 砂来陸