はため息をついた。先輩からローの連絡先をもう何度聞かれただろう
最初はお願い!だった頼み方も今ではなんで教えてくれないの?酷い!に変わってきた。ストレスなう
休憩時間が休憩時間じゃなくて仕事に戻った
(・・・これ以上揉め事起こしたくないのに)
「レジお願いしまーす」
補充をしていた手を一瞬止める。レジにはコビーくんがいたはずだ
「お客様、こちらへどうぞ」
「あぁ?空気読めよー。野郎より女の子に接待して欲しいに決まってんじゃん。ちゃーん」
即座に立ち上がりレジに向かう。引き攣った営業スマイルを携える
「お待たせしました」
「ほんと待ったよー。ちゃんなんかサービスしてよ」
「では急いで会計させていただきますね」
「えー。そんなんじゃなくてさ・・・ちゃん休みの日とか何してんの?」
バイトでこれ以上揉め事を起こしたくない
カウンターでへらへら笑うこの男。は絶賛ストーカー被害に遭っていた
可愛そうで可哀想
「さんゴメン・・・」
「コピーくんが謝ることないよ」
どうにか撒いてようやく店内にはお客さんがいなくなった状態だ
店員としてどうかと思うが安心できた
最初のうちは男友達数人でよく来ていた
喋りかけてくるお客さんは結構多いので軽く返事くらいはしていた。向こうはどうやらそれを『脈あり』としたらしい。としては完全なビジネスモードだったのだが・・・
名札には苗字しか書いてないのに先輩が呼ぶのを聞いて馴れ馴れしく下で呼びだした。のシフト中はしょっちゅう現れる。どんだけ暇なんだと言いたい
「店長もどうにか対処してくれると良いんだけど・・・」
コビーの言葉に苦く笑う。カケラも期待していない。きっとトラブルを起こすなと思っているだろう。雇われ店長なんてそんなものだ。君も成人女性なんだし騒ぎ立てる程のことじゃ無いよね?、と言われた
自分の身は自分で守るしかないのだ
深夜を避けてなるべくコビーや他の男性陣とシフトを合わせる
むやみやたらに避けたりはせず、しかしプライベートは一切触れさせない
嫌悪感など出してしまえば店に対して苦情を入れる可能性があるからだ。あくまで仕事。店員と客の関係を貫き通す。
(・・・警察には、行きたくないなぁ)
家までついてきたらどうしよう。
ちっとも嬉しくないがこの手の輩は初めてじゃない。脳内にマニュアル化した対処法がある。
「ちゃーん!」
「・・・ごみすて行ってきます」
先輩の声は聞こえないふりをした。いじめじゃないよ?
***
たたき付けるようにゴミを処理していると人の手が肩に触れた
「!」
「あっぶね!」
反射的に払い落とそうとして思いっ切り手を振りかざした。避けられた。
「・・・シャチ?」
「何殺気立ってんだ?」
握りしめた拳は曖昧に笑って引っ込めた
「ごめん、びっくりしてさ。シャチこそどうしたの?仕事・・・とうとうリストラされた?」
「されてねーよ!せっかく休憩時間使って会いに来たのに!」
「わぁ嬉しい」
「棒読みー」
からかいがいがある。ローはシャチのことをそう言う。確かに軽口を一番叩きやすくて気安い。そんな友人だ。
ここ数日の間にささくれた心が穏やかになるのが分かる
・・・私は恵まれているのだ
「まだバイト中だよー。せっかく来たんなら何か買って行ってよ」
「エロ本でも良いか?」
「真昼間のコンビニで買う勇気があるならね」
先に中入ってて、とは手早くゴミ袋を片す。石鹸でしっかり洗ってから中に戻った
「ちゃんの友達なんですかー?あ、じゃあ今度飲み会でもしましょうよ!これ私のメアドですぅ」
・・・あぁ、ストレスってこうやって蓄積されていくんだな。
「マジで?本気にするよー?」
デレデレ携帯を出すシャチに少し苛立った
「シャチ。人の職場で恥ずかしいことしないでよ」
どう見ても先輩から声をかけていたがあえてシャチに文句を言う。処世術だ
「あっは。ちゃんかたーい。今時メアド交換とか挨拶だよぉ」
それは名刺交換じゃないのか。という言葉は飲み込んだ。そしてお前はローの連絡先を知りたかったんだろ、という言葉も飲み込んだ
「シャチさん本日の御用件を伺いましょうか?」
ニッコリと作り笑顔にダイヤモンドダストを添えて。先輩はともかくシャチには伝わったらしい
「あー・・・メシ作ってくれよ」
ダイヤモンドダストがブラックホールになりそうだ
「ご飯催促とか!」
しかしシャチは食い下がる
「だってキャプテンとペンギンは食ったんだろ?おれもたまにはの手料理食いたい!」
何の対抗意識だ。そんなのカノジョにでも頼め・・・あ、シャチはカノジョ居ないのか・・・
ため息が零れた
「材料代はシャチ持ちだからね」
ああ、私はとことん甘い
一旦仕事に戻っての上がり時間に合わせてまたコンビニに向かう
2人でスーパーに寄って「何食べたい?」「酒に合うやつ」「・・・」なんて会話をして。泊まるのかなと思ってたら普通に帰るし
一体何しに来たんだ。本気でご飯食べに来ただけとか!
***
ほろ酔いでのアパートから歩いて帰る
泊まって行けば良いのにと首を傾げるにいやいや、とツッコミたくなった
そもそもの家に泊まるのは大前提としてキャプテンことトラファルガー・ローがいる時だけだ
でなきゃ互いに意識してなくてもキャプテンに殺される。マジで
ポケットを漁ってコールする。目的の人物はすぐに出た
の職場の先輩、とやら。
すぐに近くのファミレスで会えることになった。
世間話やらからの話。からキャプテンのことを聞き出そうとしているのが透けて見えて苦笑いしそうになった
(・・・も災難だよなぁ。)
顔が良いのに彼氏の一人もつくれないのはキャプテンのせいだろう。あとは自身の不幸体質
そして今回も見事にその不幸体質を発揮したらしい
「ちゃん今お客さんに言い寄られてるんだよ。めちゃ軽そうなのに」
チャラい男か・・・コーヒーのおかげで酔いが少しずつ醒める
がいつもと違ってたのはそれが原因だったのか
「へー。そいつも見る目ないなぁ。アンタの方がいい女なのに」
やだぁシャチ君てば。まんざらでもなさそうな声。もよく付き合えるよなぁ。仕事とはいえ
「ちょっと好奇心なんだけど相手って何?学生?」
さりげなく情報を集める。先輩とやらは疑いなく喋りだした。いつから通い始めたとか相手の特徴、会社側の対処等・・・
は一体いつから堪えてるんだろう
これは決して過保護ではない
初めて会った時のはまだあどけなさが残る中学生だった
流石、キャプテンの幼なじみ!周辺まで美しいのが囲ってるんすね!と意味不明な感想を持ったことを覚えてる
野良猫みたいに警戒心が強くてようやく懐いてくれた時には内心ガッツポーズまでした
・・・お袋さんが亡くなってからは少し変わった
シングルマザーだったは誰にも、それこそキャプテンにも告げずに親戚の家に引き取られた
あの時、キャプテンとは確かに一度縁が切れたのだ・・・
可愛い妹分をこっそり護ってやるだけだ。そう、言い聞かせる
(の様子が可笑しい。また何か良くないことに巻き込まれてやがる)
キャプテンの言葉は当たっていたらしい
時計に目をやればそろそろキャプテンも仕事を終える頃だ
「ね、ね。それよりさぁこないだちゃんを尋ねてきた男の人ってシャチ君も友達なんだよね?今度みんなで飲み会しようよ!」
「なんだよー。ローさん狙いなわけ?」
茶化しながら言うと慌てたように、そして甘えるように「可愛い子達呼ぶからさ」と続けた
ああ、には到底出来ない真似だな
他人に甘えることが出来たらの人生はもっと違っただろう
ふと、色んなことが憐れに思えた
この目の前の女も
「ローさんと寝たいなら簡単だよ。アンタ顔も良いし」
あまりにあけすけな言葉に一瞬ぽかんとしたの先輩に間を置かず続ける
「彼女になりたいなら順番待ちかな。3ヶ月くらい待てば今の彼女と別れると思うぜ」
まぁアンタも3ヶ月でフラれるから
「ただほど大事にはしてもらえない。これ確定ね」
「・・・っ、ちゃんは付き合ってないって・・・!」
「付き合ってないけど特別なんだよ。は」
可哀相なことに